第514話 サービス・デイ。
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所定の位置で片膝をついてみせたヨシュアは、スフィーダのゆるしを得て立ち上がった。
「例のPМCの一件ですが」
「おぉっ。結果が出たのか? シュンレイ・コンスじゃったか」
「殲滅できませんでした」
「へっ、そうなのか?」
「とある地域にて待ったなしの状況まで追い詰めたようなのですが、最後の最後で、迂闊にも、数名に移送法陣を使って逃げられたと。ヴァレリア大尉からの報告です」
スフィーダは考え込むようにして、右手を顎にやった。
「フォトンとヴァレリアでうまくできなかったということは、誰にもうまくできなかったということではないのか?」
「その通りでございます。陛下。そちらに伺っても?」
「今さら阿呆を抜かすな。わしの隣がおまえの絶対的な定位置じゃ」
「では、失礼いたします」
ヨシュアは歩み、スフィーダの左隣に立ち、くるりと身を翻すと前を向いた。
「厄介だとまでは言いませんが、シュンレイ・コンス、少々、手ごわいかもしれません」
「当該組織がグスタフにルーツを持つというのは、本当なのか?」
「そう考えています」
「しかし、グスタフはもはや亡国と言ってよいはずじゃ。ビーンシィとハインドが鎮めるために介入しておるのじゃろう? 我がプサルムだって支援しておるのじゃろう?」
肩をすくめてみせたヨシュア。
「だからこそ投げやりになり、やけっぱちになり、我が国を乱そうという者はいるんです。宿命です。それはわかり切っていることです。だからこそ、被害は最小限としなければならない」
「ヨシュアよ、本当にいつでも言ってくれ。わしは国のためなら死する覚悟じゃ」
「ニンゲンの相手はニンゲンがいたします。何度言わせるのですか」
「それは、わかっているのじゃが……」
美しすぎる銀色の髪、その長い前髪を掻き上げたヨシュア。
ついでにとでも言わんばかりに、左目の片眼鏡を押し上げた。
「問題なく殺れるということか?」
「次に我が国の領土を侵したときが、連中の最期になります」
ヨシュアの言葉には遊びの部分がまるでなく、重々しく、なにより説得力がある。
それにしても……。
「フォトンを遊ばせておくのはなんじゃが、それでものぅ……」
「気が気ではありませんか?」
「悪いか?」
「望みさえすれば世界を破壊することができる存在、すなわち、ダイン。我々と彼との戦いは、そう遠くない未来に必ず訪れます」
「そうなったら、わしが出るぞ。奴だって人外なのじゃからの」
ヨシュアにぐしぐしと頭を撫でられてしまった。
「陛下はとっておきでございますよ」
「ずっととっておかれても困るのじゃ」
スフィーダは苦笑した。
「じゃが、そうもいかんか。わしにはヒトを見守るという大事な仕事があるからのぅ……」
ヨシュアが唐突に、「陛下、お立ちください」と言ってきて。
「んむ? なんじゃ?」
「立ってくださいませ」
「玉座の上でも、よいか?」
「お好きなように」
「じゃったら立つが、ひゃぁっ」
いきなりお姫様抱っこをされてしまったので、それはもう驚いた。
「ヨ、ヨシュアよ、侍女らが見ておるぞ」
「本日はサービス・デイでございます」
ヨシュアはスフィーダのことを横抱きにしたまま、駒みたいにくるくると回転したのだった。




