第131話 カナデ王国陥落。
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イェンファの攻略とカナデの防衛。
その二つの作戦を実行している最中である。
敵は考えていたよりもはるかに多く、また強かった。
イェンファを頑として譲らず、カナデへも続々と戦力を送り込む。
どちらの戦も分が悪いらしい。
だから、プサルムは追加の派兵を審議しているところである。
さらに多くの兵を寄越すには、改めて、国会で承認を得る必要があるというわけだ。
閣議決定で可能とすることもできなくはないが、それはいささか乱暴な手段と言える。
しかし、ときは急を要しているわけであり、だから正規の手続きとはいえ、それを踏まなければならないことが、スフィーダにはもどかしく感じられた。
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魔物がカナデへの侵攻を開始してから一週間。
援軍の準備が粛々と進む中、聞きたくなかった知らせが飛び込んできた。
カナデの首都が陥落した。
プサルムの駐留軍も壊滅的な被害を受けた。
イェンファの攻略も失敗に終わった。
やはり敵戦力の強大さが原因だった。
ピットとミカエラ、それにエヴァも逃げ帰るしかなかった。
こうなって来ると、もはや待ったなしである。
早いところ次の手を打たないと、たいへんなことになる。
放っておいたら、魔物は各地に拡散してしまうだろう。
地理的な関係で真っ向から連中の相手をしなければならなくなったことを指して、先日、ヨシュアは貧乏くじと言ったが、まさにその通りだ。
その通りだが、世界の命運がかかっているかもしれない事象なので、やはり捨て置くことなどできない。
魔物は叩かなければならない。
その思いを強くする一方で、スフィーダには気掛かりなことがあった。
カナデの女王ユメル。
あの美しい娘は今、どうしているのか。
紳士的な扱いを受けていればよいのだが、それは望むべくもないことだろうか……。
◆◆◆
狭い会議室でヨシュアと二人きり。
テーブルを挟み、向かい合って座っている。
「いよいよ、のっぴきならない事態になってきましたね」
「まずはカナデをなんとかせんといかんな」
「敵を守りだけに回らせることができればよいのですが、現状、それは難しそうです。カナデを防衛しつつ、イェンファからの派兵を繰り返すことでしょう。次は近隣のブレーデセンに向かうかもしれませんし、あるいは我が国に攻め入ってくるかもしれません。両取りを狙う可能性だってある」
スフィーダは右手を顎にやり、「むぅ」と唸った。
あまりよい戦況ではないようだ。
「ブレーデセンから支援要請があった場合はどうするのじゃ?」
「やれるだけやる。その方向で調整中です」
「魔法大国と呼ばれたかつてのブレーデセンであれば、自力でなんとかしたのじゃろうな」
「そうです。それはかつての話ございます。現状、かの国はまだ再起を図っている最中であり、戦争などとてもではないがままならない」
「ラニード討つべし、か」
「それはまた別の話でございますが」
「復興の手伝いを、もっとしてやっていればよかったのぅ」
「そこは悔やまれるところです」
小さく肩をすくめてみせたヨシュア。
本当にしくじったと考えているのかもしれません。
「まあ、なんにせよ」
「はい。これ以上、凌辱の輪を広げさせるわけにはまいりません」
「凌辱の輪か。被害に遭った者達には掛ける言葉などないな……。それにしても、魔物どもの最終的な目的はなんなのか……」
「決まっています。世界を征服することでございましょう」
「なぜ、決まっておるのじゃ?」
「悪者の考えは、必ずそこに帰結するからです」
「そういうものか?」
「そういうものでございます」
「総力戦になりそうじゃの」
「なんとかなるのではないかと楽観視している私もいます」
「なにか手があるのか?」
「ございます。フォトンを出所させればいい」
フォトン。
その名を耳にしただけで、スフィーダの胸はドキリとなる。
「だ、出せるのか?」
「手続きはもう済ませました。有事です。政治家も軍部も、彼が必要だと判断しました」
「そうか……」
安堵しつつも、一方で心配になるスフィーダ。
フォトンに限ってやられることはないと信じてはいても、胸にはやはり不安な気持ちが去来する。
「どこに配置するのじゃ?」
「まずはカナデ王国奪還の任に就いてもらいます」
「出所して早速の激務か。災難じゃの」
スフィーダの口元に苦笑が浮かんだ。
彼女は目を閉じる。
心の中で祈ったのは、フォトンと彼の部隊の武運長久。




