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67話 【番外編】肉食べたい



第三回グラスト大賞受賞作です!

3/22発売になりました☆


記念番外編です。




「肉食べたい」


昼下がり。

ベッドの上に転がり天井を見つめながらそう呟いたのは、別になにか特別なことがあったからじゃなかった。


祝い事があったわけでも、筋トレをしたわけでもない。

が、ふとした瞬間にそう思っていて、口に出したらその思いはさらにはっきりした輪郭を持っていく。


そして、もう確信していた。


『俺は今ものすごく肉が食べたい』と。



その気持ちが、原動力となった。


村のために少し働いてから、肉にしよう。

俺はその思いで寝転がっていたところから、ようやっと起き上がる。


今日は朝ごはんと昼ご飯の時間以外は、ひたすらベッドにいたから、身体がなまっていた。

腕や足を延ばしながら、俺は着替えを行い、家を出る。


「ぼっちゃま! こんな早い時間に起きるなんて。もう身体は大丈夫なのですか?」


そこで出くわしたのは、おつきのメイド・メリリだ。

彼女は洗濯物を干しながら、不安げに俺を見る。


身体のことを心配されているのは、昨日が原因だろう。

村の家々に防風性を貸与するため、『有形生成』魔法で大量に囲いを作ったのだ。


その結果、魔力切れでダウンして、ずっと寝ていた。

まぁもちろん、単純に眠たかったというのもあるが。


「肉が食べたくなってな。今日の夜、お願いしてもいいか?」


俺はメリリに、単刀直入にこう尋ねる。

こう言えばだいたいは、了承してくれるのだけれど……


「え、お肉ですか。んー……ちょっと、ハム以外のものは今切らしてますね……」


待っていたのは、衝撃の肉なし宣言であった。


「まじか」


俺はショックから、一言こう呟いたきり声が出なくなる。

いきなり、肉へと繋がるはしごを、ばっさり落とされた気分だった。


「ぼっちゃま、大丈夫ですよ。メリリが豆からお肉に似た料理を作ってさしあげますから!」

「……ありがとう」


返事もつい曖昧なものになる。

そりゃたしかに、大豆でもなんとなく似た味が作れることは知っている。


が、俺は本物の肉が食べたいのだ。

できれば、いつか食べたクロツキノワくらい、うまい肉――。


そこまで考え至って、気づいた。ないなら、用意すればいいのだ。


「なぁメリリ。肉さえ用意したら、作ってくれるか?」

「もちろんですよ! できることなら、なんでもします。ぼっちゃま甘やかし専用メイドですから」

「助かる。じゃあ、俺、少し出かけてくるよ」

「えっと、どちらへ?」

「少し狩りに」


俺はそう残して、彼女の元を離れる。


そうして向かったのは、村の集会所だ。


そこで、村人に混じって魔道具作りをしていたセレーナにも、狩りへと出る件を報告しておく。


「……そう、いいわね、お肉。楽しみにしてる。そろそろ、捌きたいと思っていたの」


すると返ってきたのは、こんな発言だ。

食べることより捌くほうを楽しみにしていらっしゃるらしい。


とても元深窓の令嬢とは思えない。


まぁでも、これで捌き担当も、料理担当も確保できた。

あとは狩るだけだ。



俺は集会所を出ると、まずは村の外れにある檻へと向かう。

そこで俺は聖獣・サントウルフのブリリオを外へと連れ出すことにした。


『いかがしたアルバ殿』

「ちょっと狩りに行こうと思ってな。ついてきてくれるか? できるだけ早く移動したくて名」

『なるほど、アルバ殿のお役に立てるのならお供しよう』


一人と一匹さっそく森の中へと繰り出す。


するとすぐにネズミ型のモンスター・ラットーが飛び出してきた。

いくら肉でもネズミ肉はさすがに食えない。


そのくせに、チューチュー鳴いて煩わしい。


『いかがする?』

「無視でいいよ。あれは食べられない」


無駄なところで、疲労したくなかった。

俺はブリリオに跳びかかってくるそれらをすべて避けてもらい、さらに森の奥へと進む。

目当ては、とにかく肉。


できれば、美味しく食べられるやつ……!


そう思って血眼であたりを見わたすこと約数時間。


どうにも食用に適した魔物が見つからない。


そうして夕刻にさしかかって、あたりは暗くなりかかってきたときに、ついに見つけた。

なんのことはない草陰に、居眠り中のクロツキノワが。


『……今度はいかがする?』

「んー、悩ましいなぁ」


正直、ぐらついた。

だがしかし、魔物とはいえ、寝ている奴を襲っていいものか。寝込みになにかしてくる奴が俺は心底嫌いなのだ。


そんな嫌な奴に、俺がなりかねない。


しばらくブリリオの上で葛藤した結果、俺はそのクロツキノワをスルーすることを決める。



そんな俺の善行(?)を神が見ていたのかもしれない。

少し先で俺は、イノシシ型の魔物・チンギャーレに出くわしたのだ。


『三度目だが、いかがする?』

「倒すよ。ブリリオは少し離れててくれ」


俺がブリリオの大きな背から降りると、ブオー、と叫びながら彼らは三頭まとめて一気に襲い掛かってくる。


その角は、かなり鋭い。もし貫かれたら、簡単に肺が破れるとか聞いたことがある。まぁまぁな危険種だ。



……が、今の俺には危険度とかどうでもよかった。

チンギャーレは、もはや肉にしか見えていない。


俺は彼らがちょうど突進してきたところで、高く跳びあがる。そうしながら発動したのは、『縮突』。


風属性魔法をナイフに込めることで、ほんの一瞬のみ、その刃渡りを伸ばして、突きを見舞う技だ。


それを三連続で、チンギャーレ三匹それぞれの首元めがけて放つ。

着地してから、三匹の様子を見れば、もう息だえていた。


「ちょっと多すぎるなぁ、これ。傷なく倒せたし、質のいい肉が取れそうだけど」


俺は外れで見ていたブリリオにこう投げかける。


『……とんでもない早業だな、さすがだ我が主は。末恐ろしい』

「え、大根おろし?」

『いや、なんでもない。アルバ殿は、もう肉のことしか考えられないらしい。とりあえず帰って、早く肉を食べた方がいい。チンギャーレは、我が運ぼう』

「助かるよ。ブリリオにも、フスカにも食わせてやる」


そこから俺は、ブリリオとともに村へと戻る。



三匹も倒してしまったこともあった。

このままでは肉が腐ってしまいかねないからとセレーナの発案で、俺たちは村人たちも誘い、お肉パーティーを開催することになる。


「最高ですよ、アルバさん! やっぱりあなたは救世主だ! 俺たちにもこんな施しをしてくれるなんて」

「やめてくださいよ。ただ俺が肉食いたかっただけですよ?」

「またまた謙遜しなくてもいいですよ。俺たち村人はあなたにとても助けられてるんですから」


……謎にまた評価されることとなってしまったが、ともかく。


熟練の技術を誇るメリリの調理のおかげもあり、俺は望み通り、最高の肉にありつくことができたのであった。




【受賞!】

【書籍化!】

このたび、当作はスターツ出版 ノベマ! 第三回グラスト小説大賞 長編賞を受賞し、

3/22(金)書籍化しました!


大幅な改稿を重ねて、受賞作にふさわしいラブコメもファンタジーも、

とても楽しめる作品ができたと思いますので

ぜひ、お手に取ってみてください!


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よろしくお願いいたします。

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【書籍化!】
スターツ出版ノベマ! グラスト!大賞にて、長編賞をもらいまして、2024/3/22書籍化します✨
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(リンク先の最下部がこの作品です)
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