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077:大正解の道?

 


「ただ、それだけ掛かるとしても一度知ってしまった魔法使いって存在を見逃すかというと、見逃さねぇだろうな、公は」


 サムニエルは魔法使いに強い憧れがある。

 それを抜きにしても、遣える国の国王から命令された事を遂行しないはずがない。


「みんなは、どうするのが一番いいと思う?」


 ミライがそう言うと、ベルガーは「おっ」と声を上げて笑った。


 仲間たちに知恵を借りようとするミライのその姿勢が、以前よりずっと人間らしいと思えたからだ。

 悩んで、行動して、落ち込む。

 そんな一連の行動が多かったが、行動する前に相談して意見を取り入れようとし始めていた。


「そうだな……やはり、追手はなんとかしたほうが良いだろうな。グエルと言ったか、彼の事情も聞いたが、彼の方は心配しなくても良いだろう。一介の奴隷商にそれほどの捜索を行う資金はないと思える」


 オストラルはルバルスローンの事情に特別詳しい訳ではない。よって、どうだ?と言うようにフィリアへ視線を向けた。


「同じ意見よ。そうね……まだどの国に行くかという話はしていないと思うけど、例えばグエルが妹とフランツェルバ王国に行くとなったら、奴隷商が彼らを見つけることはないと思うわ。行き着けそうにないもの」


 けれど、とフィリアは続けた。


「国がミルァイを追うとなると、捜索にどれくらいの予算と時間を割くかは分からない。状況をいまいち正しく把握出来ていないのだけれど、どういうふうに逃げてきたの?」


 ミライは逃げ出した場面を思い出して、自分の口から説明をすると正しく伝わらないかもしれない、と思った。


 本気で償う気はあった。

 申し訳ないことをしたと思っている。

 けれど、王から出された結論を聞いて咄嗟に心が悲鳴を上げた。


 暗い顔をしたミライに気が付いて、ベルガーが息を吐き出す。


「頭の中を見せてやりゃあ良いんじゃねぇか?」

「そうする」


 即答であった。

 ミライはベルガーに頷いて、自身の記憶を映像化して見えるように魔法を作る。



 壺をもとに戻すことを求められ、目の前で魔法を使った。

 国王の有罪判決は、力を持っているけれど自責の念が強い魔法使いを前にして当然のものであった。しかし、ミライの見た目と態度があまりにも幼いことにより、油断が生じて永久に国の為に尽くすことを求めてしまった。

 言いなりに出来ると無意識に侮ってしまったのだろう。

 ミライは強く拒絶すると、味方であると思えた人間だけを連れてその場から逃げ出した。そして、そこで味方から裏切られるという経験をして、旅に出た。


 王族との謁見から逃走までの一部始終を見終わった仲間たちは、それぞれ思うことはあるものの、起こったことの把握は出来たので、今後どうするのが一番良いかを考え始めた。


 ミライは当時の自分があまりにも幼稚で驚く。

 やりようはいくらでもあっただろう。しかし、当時は考えつかなかった。


「……元気にしてるかなあ」


 ぽつりとこぼれた言葉は、敵に対してこぼすにはあまりにも不釣り合いであった。ベルガーは呆れた顔をしたが、無垢なミライにフィリアは笑った。


「元気に追い掛けて来てんだろ。だから今話し合ってる」


 グエルがそう言うと、ミライはハッとした。


「そうだった」


 危機感の全く感じられない様子がいっそ清々しい。

 オストラルはあまり心配がなさそうだと思ったが、それはそれとして、手は打たねばと話をもとに戻す。


「根本的に王族をなんとかする、という手もある。追手を差し向けているのは国王だろうし、それが引けば辺境伯も手を引くのではないか」

「それはいい考えね。追って来られないように約束させる、というより、行動を縛るような魔法はないのかしら」


 制約魔法というものがあった。ミライが制約を掛けて行動を縛る魔法だ。王族全員に対してミライを追うな、といえば王族は追えないだろう。しかし、どんな制約を掛けたとしても抜け道を探して追い掛けることは可能に思えた。王族を縛れば王族以外が追い、個人名で縛るには人数が多すぎるだろう。そして、国単位で縛っても他国に協力を仰げばどうにでもなるし、考えれば考えるほどに難しく感じてしまっていた。


 そのことをミライが話すと、全員考え込むように黙ってしまう。何か打開策がないものか。


 そうして、ミライはハッとした。


「そうだ、ここにいるみんな以外が追えないようにしてしまえばいいのかも」


 たったの数人を残し、この世界に存在する人間全員がミライを追えないようにしてしまえばいいのではないか。出来るか否かで言うと、出来ないことはなかった。膨大な魔力を消費して行使するので、ミライの魔力が持つかどうかはいまいち分からない。知りたいと願ってみても、過去に前例がないのか、どういった手法か確定していないからなのか、答えが返ってくることはなかった。


「それはまずいだろ……」


 ドン引きしているベルガーを筆頭に、想像がつかないなりにとんでもないことを言い出したな、ということだけが分かる面々は、何とも言えない表情でミライを見つめる。


「そ、そんな顔しなくても……一応、ミーツェアに後で聞いてみる……」

「絶対に相談した方が良いだろうな」


 オストラルは力強く頷いた。


「でも、大掛かりな魔法を使わないで解決するってなると、やっぱりどれも抜け道が出来ちゃう気がする」

「それはそうねぇ……いっそ、いま来てる追手ごとフランツェルバ王国に誘拐してしまって、本国と連絡が取れないようにして、縁を切らせちゃえばどう?」


 なーんてね、と続けようとしたフィリアの言葉は続かなかった。ミライが大きな声を出したからだ。


「そうする!!!!」


 ベルガーは咄嗟に止めようとして、待てよと顎を触る。


 サムニエルは国に仕える男だが、魔法使いというものに異常なほどの憧れがある。


 ミライに対しても最大限の便宜を図ろうとしていたし、何なら王族の思い通りにはさせたくなさそうではあった。心を許した妻は病死しており、家督を継ぐ子は居ない。養子を取らねばならない立場で、その選定も行っていたはずだ。王国への忠誠心は強いはずだが、それにしては王の子供に期待していなさそうな素振りもあった。もしかすると、悪い話ではないかもしれない。


 そこまで考えて、ベルガーはミライを見つめる。


「意外と悪くねぇぞ。伯は魔法使いが好きだし、フランツェルバ王国は魔法が身近なんだろう。もしかしたらあっさり移住を決めるかもしれん」

「ベル、違うよ。無理やり移住させるんだよ。意見を聞いたら本当のことは絶対に言わないもん」


 ベルガーは、思わずぽかんと口を開けた。


「……ベルに言ってなかったことがあるの」

「言ってなかったこと?」

「エルさんのこと」

「伯がなんだ」

「あの時、私が王族の人たちの前からみんなを連れて移動したときね、読心を使ったって言ったよね」

「言ってたな。俺だけがお前のことを心配してたって時の話だろ」

「うん。エルさん、こう思ってた。――私は王の配下だから、忠誠を誓い、この国の為に命を投げ出さなくてはならない、って」

「まぁ、そうだろうな」

「でもそれって、本心でそうしたいと思ってたら、そんな風に考えないよね」

「……そうだな。その通りだ」

「だから、誘拐しよう。きっと、聞いてもうんって言わないから」


 ベルガーは目元に手を当てて空を仰いだ。


 ああ、そうだ。

 絶対にサムニエルはミライの誘いに頷いたりしないだろう。


 そして、誘拐されたことを――絶対に嫌がらないだろう。


 想像したら笑えて来た。

 声を上げて笑い出したベルガーに周りはぎょっとしたが、止まりそうになかった。


 あの冷徹な辺境伯を、お茶目で魔法使いが好きで、それでも各所から恐れられている冷血辺境伯を翻弄出来るのなんて、この世にミライだけだろう。


 可笑しくて堪らない。


 何よりも一番笑えるのは、その作戦があまりにもおおざっぱで、それでいてサムニエルを、追手たちを、傷付けもしない平和な作戦だという所だ。


「大正解だろ、今回に限っては」


 ベルガーが手放しで褒めるとミライは眉間にぐっと皺を寄せた。


「なんだその顔」

「力入れてないと、顔がなんか緩みそうだったから」

「緩めたらいいだろ。大正解を出したんだからな」


 くしゃ、と顔の真ん中に一度力を入れると、ミライはやっと、我慢できないとばかりに口をゆるめ、泣きそうな、目をきゅっと細めた、笑顔といえる表情を見せた。






ありがとうございました。生活の変化により、更新ペースがまた変わります。宜しくお願いします。


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