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056:心配する騎士と頑固な少女



 間髪入れずに早々と転移して家に戻ったミライは、倒れたままの少年のそばに座り込む。


「ミラ。やめろ。助けたっていいことねえ」


 ベルガーはミライの隣へ来て、諭すようにそう言ったが、ミライはベルガーの言葉に首を横に振るだけだった。


「一人助けても、同じだ。また同じやつが出てくる。面倒が続くぞ。おまえはその度に助けんのか?」


 ミライはベルガーを見上げて、ぐっと眉を顰めた。


「助けるよ。だって、生きたいって言ってるんだもん。私は、自分がして欲しかったこと、誰かにしてあげたいって思うよ!」

「キリがねえって言ってんだよ! そいつを助ける為におまえが魔法を使って、何か得することがあるか!? 無駄に魔法を使っておまえが消耗してたら意味ねえだろうが!」

「……無駄に魔法を使ってるのはわかってるよ。ベルにかけた魔法もいっぱい無駄があるし効果が重複してるのもある。だけど、私の魔力は沢山あるし、消耗もしてない。使い道は私の自由。情けは人のためならずって言うでしょ! 私にいずれ返ってくるんだから得だよ! すごいお得だよ! じゃんじゃん魔法使ってるんだもん!」

「じゃあそいつだけじゃなくてこの街のガキ全員助けんのか!? 正義感無駄に振りかざしてんじゃねえよばか! 頭冷やせ!」

「全員なんて言ってない! でも、遭遇したら助けるよ! 大体、遭遇しないと助けようがないじゃない。ベルこそ頭冷やしてよ!」


 ぜーぜーと互いに肩で息をしながら言い合うベルガーとミライだったが、フィリアにはベルガーが見えていないのでミライは一人で大声を上げていることになる。


「ミルァイ……大丈夫……?」

「大丈夫です。ちょっと守護霊と言い合いしてただけです」

「そ、そう……」


 おかしくなってしまったのかと危惧したフィリアだが、精霊と会話しているのならば仕方がない。自分には見えない生き物だ。納得するほかなかった。


「……なんでも良いから私は助けてもらいたかった。だから、助けるの。死にたいって人は助けない。それで良いでしょ、ベル」


 ベルガーは反論できなかった。

 何重にも魔法をかけさせているという負い目からミライの決定には逆らうことができなかったのである。無駄遣いをさせている筆頭がベルガーでもあった。


「……好きにしろよ。おまえは、やっぱり……魔法使いだ」


 苦々しい表情でベルガーはそう言ったが、ベルガーも元は騎士。

 見捨てるのは、あまり好きではない。

 ただ、ミライが魔法を使いすぎてどうにかなってしまうことを危惧していたのだが、消耗もしないとなればもう何も言うことはない。


「治癒。――怪我をできるだけ……なおしてあげて」


 青白い魔法陣が少年の身体へと消える。


 数秒間かけて光ったあと、少年の身体は傷一つないまっさらな状態になった。

 足は元通り正しい方向へ向き、小さな怪我も消えている。


 ゆっくりと目を開けた少年は呆然とミライを見上げた。



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