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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
50/177

27 ユースクリア王朝跡地2

 

 ――パチパチと焚き火の音が鳴る。


 ユースクリア王朝跡地での初めての夜。

 クレアは昼間のフェルトのことが引っかかって寝付けずにいた。


「どうしましたか? クレア」


 するとそんなクレアの隣にエメローラがそっと座ってくる。


「ああ、ごめんよ。焚き火消さないとね」


「構いませんよ。皆さんが寝ているところまでは光が届いていないようですし、少しくらいならこのままでも大丈夫でしょう。……それで、どうしました?」


 フェルトから口止めはされたけれど、やはりあの表情を見たクレアからすれば異常としか捉えられなかった。


「……このことは誰にも言わないって約束できる?」


 そんな曖昧で、でも意味深な言葉にも関わらずエメローラは柔らかくも真剣な表情でこくりと頷いた。


「実はね――」


 クレアはあの白ローブの男性について語った。

 クレアからの印象は、浮世絵離れした雰囲気を放ちつつ、どこか落ち着いた話し方をする中年紳士だったと話し、フェルトはその浮世絵離れした異質な雰囲気が大分気に入らなかったのではないかと話した。


「珍しいですね。リーウェンさんがそんなに警戒なさるなんて……」


 エメローラは向こうのテントで休んでいるフェルトの方を見ながらそう語った。

 クレアも同意見だった。


「うん。あんな怖い表情をしたフェルト君、初めてだったからちょっと気になっちゃって……」


「だから帰ってきた後も、少し浮かない顔をしていたのですね」


「あー……そんなにわかりやすかった?」


「ええ。リーウェンさんの方はいつも通りに見えましたがね。でもリーウェンさんの言う通り、やはりそんな雰囲気を放つ人物を我々に接触させないためではないのですか?」


「まあそんな気もしないではなかったけど……」


「どこか引っかかると……」


「うん……」


 すると誰かの足音が聞こえる。


「おや、眠れない蝶々ちゃんの様子を見に来てみれば、クレア嬢とローラ嬢ではありませんか」


「ケルベルトさん。見張りはどうしたのです?」


 見張りは男性陣が交代で行うと決めており、今晩はヘイヴンとユーザが担当している。


「カルケット君に少し任せて来たのさ。水を持ってくことも兼ねてね」


「そうですね。見張りをやっていただくのですから、それくらいは必要ですね」


 そう言いながらもヘイヴンは、クレア達と対面するかたちで座った。

 本当にしばらくユーザに任せるつもりのようだ。


「それで? フレンドとの見回りから帰った後から様子がおかしいが、話を聞くよ」


「うーん……」


 そんなに顔に出てたのかなぁと、クレアは首を大きく傾げた。

 結構隠してたつもりだったが、このふたりは鋭いからだと思うことにした。


「えっとフェルト君には黙っててくれるかな?」


「勿論。蝶々ちゃんがそう言うなら」


「ローラにも言ったんだけど、実はあの時、人と遭遇しててね。白いローブの男性だったんだけど、フェルト君が異様なくらい警戒しててね。そこに違和感を感じてたって話」


「なるほど。それを黙っててくれということはフレンドから口止めを頼まれたということか……」


「うん……」


「クレアの話だとその人物は何やら浮世絵離れした異質な雰囲気を放っていたとか……」


「それは随分と大仰(おおぎょう)な表情だね。そんなに雰囲気のある方だったのかな?」


「う、うん。でもかなり優しそうな人だったけど……」


「フレンドは怪しんでおり、話すことすら躊躇(ためら)った……、確かに引っかかる話だね」


 クレア達はフェルトに出会って一ヶ月ちょっとくらいだが、冷静に物事を解決する能力があることを横暴な貴族の対処や奴隷商の飛空艇などの事件からわかっている。


 だからこそあの態度や表情は引っかかっていた。


「フレンドはあのシギィとやり合ってた時ですら、余裕のある表情を浮かべてた時もあった。それにも関わらずその白いローブの男性には強い警戒心を持った……。ふむ……」


「それを考えれば妙な話ですね。その時と比べてどうですか?」


「それを言われてみると、シギィの時より余裕がなかった気がする……」


 確かにヘイヴンの言う通り、明らかな敵意と狂った思想を持ったシギィの方が普通、警戒するはずだと思った。

 いくらこの砂漠横断で疲弊しているとはいえ、そこまで余裕が無くなるほどかと言われると、そうでもない気がする。


 実際、熱中症に倒れたメイドを救助してたことを考えると、余裕が無かったというのは考えにくい。


「なるほど。すると別の要因かもね」


「別、とは?」


「……クレア嬢。フレンドは警戒というより、不快感や嫌悪感、不信感の方が強い印象があったんじゃないかい?」


「言われてみると……」


 まるでこんなところで遭遇したくなかったと言いたげな雰囲気はあった。


「そうかも。予想外、みたいな感じだったかな?」


「予想外、ですか?」


「うん」


 それを聞いたエメローラは余計に首を傾げる中、ヘイヴンは何やら覚え、というよりは予想に近い答えを提示する。


「……フレンドがそういう敵意ある不信感を持つのに心当たりがあります」


「え?」


「蝶々ちゃん達も知っていると思いますが、フレンドは人喰いによって一度故郷を襲撃されている」


「ええ……。聞き及んでおります」


 クレアはそこまで詳しくは聞いていないが、死傷者は出たって噂には聞いている。

 でもこのふたりはもう少し詳しい情報も知っているはずようだ。


「しかし、それとこれとは関係ないのでは? まさか遭遇した白いローブの男性が人喰いと繋がりがあると?」


「さすがにそこまでは申しませんとも、ローラ嬢。それは飛躍し過ぎです。しかし、フレンドが強い不快感などを覚えるならば、そのあたりに関係している可能性があるのではということです」


「つまり人喰いと白いローブの男性は直接的な繋がりはなくとも、間接的な繋がりはあると……?」


「まあ、その考えも飛躍し過ぎかもしれませんが、フレンドは人喰いの事件について思うことがあるのも事実。彼の過去を考えれば、そのような不審な表情を浮かべるのは、そのあたりの理由ではないかと予想できるくらいです」


 すると後もうひとつあるとも口にした。


「後はフレンドの左目の義眼ですかね」


「神眼と言われているアレですね」


「ええ。七歳の祝福の日にて、神より賜ったものだと聞き及んでいるアレです」


「そ、そこまで詳しく知らなかった……」


 さすがヘイヴンとクレアは驚く。

 ヘイヴンは聖都の知り合いから聞いたと、さらっと答え、


「あの神眼に何かしらの力があり、それを通してその白いローブの男性を見た時、シギィより恐ろしいものを見たのではないですか?」


 クレアは、あの義眼はただの義眼だって言ってたことを思い出す。

 だが、かなり精巧に作られていたようで、何より神様からの賜り物だというなら、何かしらの能力があっても不思議はない。


「あのシギィより恐ろしい、か」


「彼のインパクトが強すぎて、そこの予想が立ちませんね」


 シギィを知るクレア達は苦笑い。

 人を芸術と呼びながら、切りかかって来る人物を超える危険人物ということが想像できなかった。

 クレアはその白ローブの男性に会っているが、シギィ以上の印象どころか、そんな印象は全く受けなかった。


「まあですが、ケルベルトさんのそのあたりの解釈が正しい気はします。あのリーウェンさんが心を乱すことがあるとすれば、人喰いとの関連性のあるものか、その神眼で見えたものくらいでしょう」


 クレアからすれば、それだけフェルトは何でも知ってるし、困難も乗り越えてきた、頼もしい人物。

 実際、助けられている身としては、それを強く実感している。

 だからこそあの表情には嫌な胸騒ぎがした。


 何かクレア達とは違う、遠い存在なのではないかと。


「……ケルベルトさん、あの神眼についての情報は?」


「いえ、何も。ただ似たような物があったことがある話をちらりとは……」


「それは?」


「およそ八十年ほど前になりますが、別大陸で行われた革命戦争の総帥が人体の眼球そっくりの……そう、フレンドのような義眼を所持していたという情報がありました」


「それとリーウェンさんが関係していると?」


 そう尋ねたエメローラに、それはあり得ないとヘイヴンは、無言で大きく首を横に振った。

 本当にあり得ないのだと言うように。


「その革命戦争は亜人との戦争でした。彼のご先祖はそもそもその大陸の人間でもありませんでしたし、関連性が一切ありません」


「ですよね。ただ偶然にしてはおかしいですよね? 人体そっくりの義眼……」


「ローラ。もしかしたら、その革命家さんも神様より賜ったとか?」


「うーん……」


 クレア達三人、焚き火を囲んで頭を悩ませるが結論は出ない。


「まあ結局のところ、フレンドに尋ねてしまうのが一番良いですが、フレンドがクレア嬢に口止めをお願いしたということは、聞いたところで答えてはくれないでしょうね」


「だね」


「神眼についてもそこまで詳しくは語らないでしょうが……」


「ですが何かしらの能力はあるかと……」


 神様から貰った義眼なら、確かに能力が無いと考える方が不自然だが、出ない結論を語り続けていても仕方がない。


「ふたりとも聞いてくれてありがとう。少しスッキリしたよ」


「そう言ってもらえると嬉しいね。蝶々ちゃん達にはやはり笑顔でいてほしいからね」


「ケルベルトさん。そろそろ戻らないと……」


「おっと。そうですね。名残惜しいですが、彼をひとりにしておくわけにもいかないので、これで……」


 そう言って本当に名残惜しそうに、こちらをちらりと何度か振り返りながら、この場を去っていった。


「しょうがないですね、ケルベルト君は……」


「大丈夫ですよ」


「え?」


「確かにリーウェンさんの神眼やその白いローブの男性のことなどはわかりませんが、わたくしが学校に通う際の学生の身辺調査も行いましたが、何もやましいことはありませんでした。きっと信じても大丈夫ですよ」


「……はい、それはもう……」


 わかっているからこその不安があったりするが、考えても今は答えが出そうにない。


「よし! 寝るか!」


「ええ」


 この不安がなんなのか今は答えが出ずとも、それがわかった時、味方でいられるように、これからも側にいてあげよう。


 何だかひとりで走っていきそうだから――。


 ***


 ――翌日の昼前、フェルト達は運良くサラマンダー乗りと遭遇した。

 どうやらサラマンダー乗りがここを徘徊する理由は、サラマンダーの運動やあらゆる方面から環境に慣れてほしいからだそうだ。


「――なるほどな、事情はわかったぜ。こんなに人数がいたのは誘拐(それ)が原因か」


 白ローブの男には接触人数が少なくても誤魔化しは聞いたが、商人やサラマンダー乗りなどこちらの人命に関わる人物には下手な隠し事はしない方が賢明だろう。


 だが褐色系の男性サラマンダー乗りは少し難色を見せる。


「でも悪いんだがオレが使役してるサラマンダーは三匹だけでな。サラマンダーの体格上、二人乗りが限界だ。オレを除いて五人しか移動ができねー……」


 つまり四往復はしなきゃいけないらしい。


「だから向こうの仲間を連れてくるまで、ここで残りの奴は待機になるが、それでいいか?」


「!」


 観光の仕事もしているなら、確かに人数はいると思ったが、それなら四往復することもないだろうが、


「仲間がいる場所までどれだけかかる?」


「うーん……一日から二日だ」


「はあ!? そんなにかかりますの!? わたくし達が歩いたのとそんなに距離は変わりませんの?」


 地図を見る限りは、フェルト達が徒歩で進んだ距離より多少だが短い気がするので、チェンナの文句はわからないでもない。


「仕方ねえだろ? サラマンダーのコンディションに魔物達との遭遇を避けたりとか、魔力磁場を避けたりって色々あるんだぞ」


 魔力磁場って、以前サンド・ワームが敏感に感知してるって言ってた魔力の乱れのことかと(よぎ)る。


「こ、こちらの区域は色々あるんですね」


「そうだ。お前達が歩いてきたとこは、サンド・ワームの群生地だからな。他の魔物が全然いないんだよ。でもこっちの群生地はサンド・ワームがいねえもんだし、気が立ってるヤツも多いから大変なんだ」


「逆に俺達、よくサンド・ワームと遭遇しなかったもんだ……」


 他の魔物達は地下で蠢いているサンド・ワームの気配そのものが嫌なんだろう。

 その辺りは人間より敏感だろう。

 あと群生地なんて改めて言われると、ゾクッとする。


「それで? どうするんだ? オレはどっちでも良いぜ」


 そんな危険地帯であると言われた後では、地の利のあるサラマンダー乗りに任せるのが一番いいだろう。


「サラマンダーに乗せてくれ」


「はいよ。って言っても、オレの後ろにひとり乗るとして、他の奴らはサラマンダーを操らなきゃいけないが、騎乗経験のある奴は?」


 フェルト達の中にサラマンダーに乗った経験のある人などいるわけがなく、無言の肯定が続くと、


「なら何か近いヤツに乗ったことはないか?」


 するとフェルトとヘイヴンの目が合い、


「「ワイバーンなら」」


 笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)の連中から無理やり奪って乗り移ったワイバーン。


「ワイバーンに乗れるなら十分だ。お前らふたりも決まりとして、他はどうする?」


 そう言うサラマンダー乗りだが、一応視線を送り、フェルト達で良いのか尋ねてみると、


「リーウェンさんとケルベルトさんが先に町へ行ってくれれば、これから向かう我々も安心できます」


「そうだね。ボクらはもう少し待ってればいいだけだし……」


 大丈夫だと答える一方で、ヘイヴンはハラハラしたような面持ち。


「……お前はもう少し落ち着けよ」


「し、しかしだね、彼が万が一奴隷商と繋がりがあったりしたら……」


 その心配はわかるが【識別】した結果はシロだ。

 それにこのユーザみたいな表裏の無さそうな雰囲気のこのサラマンダー乗りが、そんな狡猾な人間には見えない。


「? 何だよ?」


 こそっと耳打ちされていたのが気に食わなかったのか、むすっとされた。


「いや、置いていくのがやっぱり心配でな」


「俺だって全員連れてってやりたいのは山々だっての! でも、これだけしか連れて来てないんだから仕方ないだろ? それに二十人なんて初めてだぜ?」


「俺達みたいな遭難者がよくいるのか?」


「うーん……無計画な奴が多いから、そういう奴を親方は色んな意味で助けてる」


 どういうことだと首を傾げると、その答えを口にする。


「歴史的遺産は国の誇りだろ? でも観光に来て汚す奴とかもいるし、それにここまで来てこんな閑散とした景色を見て、こんなつまんないとこだったのかよって八つ当たりする奴もいるんだよ」


 要するにマナー知らずの無責任な観光客が来たりするわけだ。


「つまりそういう奴の見回りも兼ねてサラマンダーを走らせてるわけだ」


「まあな。だからそういう奴には見返りも結構貰ってる」


「はは。なーるほど」


 マナー違反の奴には、それに見合うだけの金を取っているとは、中々理にかなっている。


「だがまあ、お前達からはそんな取らねーよ。奴隷商から命からがら逃げて来た奴から巻き上げようなんて考えるほど、性格悪くねえよ。オレも親方も」


「そんなって……。わたくし達を助けるのですから、取らないのが礼儀じゃありませんこと」


「は?」


 チェンナの非常識発言に、サラマンダー乗りの侮蔑の『は?』には納得するが、ややこしいことになると面倒なので、


「この馬鹿のことは気にしなくていい。遭難者とはいえ、支払うもんは支払うよ」


 チェンナを退けて、こちらの意がこの馬鹿と同じじゃないことを示す。


「当たり前だろ? それがマナーだ。ま、安くしとくぜ」


 そう言ってサラマンダー乗りはサラマンダーを召喚。


「な? このサラマンダー乗りは信用できそうだろ?」


「そ、そうだね」


【識別】でシロであることを確認し、ちゃんと良識があり、こちらを気遣う人情もあれば、とりあえず残されるエメローラ達を置き去りにすることや奴隷商に引き渡すなんてことはないだろう。


「それで? サラマンダーに乗れそうな奴以外はどうすんだ?」


「そうだなぁ……。とりあえずメイド長と熱中症で倒れたメイド(あんた)は確定だとして……」


 フェルトが視線を向けながらそう提案すると、申し訳なさそうに少し顔を伏せた。


「あとひとりですが……」


「わたくし! わたくしが行きますわ! ケルベルト様と同行致しますわ!」


 チェンナがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、立候補する。


「貴方! これから町へ向かうのでしょう?」


「お前は何でそう偉そうなんだぁ? まあそうだよ。俺達はこの区域の砂漠を抜けたすぐそこにある町、ビストアンカってとこで商いをしてる」


「やっと町なんですのね! ふかふかベッドで寝られると思うとわくわくしますわ! まったく平民の愚策のせいで、こんな砂漠を歩かされることになりましたが、まあ許して差し上げますわ」


 するとサラマンダー乗りがフェルトに耳打ち。


「なあ? 何でアイツあんなに偉そうなんだ? どっかの貴族?」


「説明したと思うけど、誘拐される対象だったひとりだからな、貴族であってる。かなり世間知らずだから、目を瞑ってくれると助かる」


「……ここまで大変だったんだな」


「……同情感謝するよ。――それで? チェンナお嬢様が立候補されておりますが、他の方々は異論等ありますかな?」


 チェンナの機嫌を損ねないようなわざとらしい発言でエメローラ達に尋ねると、


「バーチェナさんで構いませんよ」


 エメローラを皮切りに全員満場一致。


「良かったですね、チェンナ嬢」


「はい! ケルベルト様!」


 素直に喜んでるところ悪いんだが、事の真意は別にあると思うのはフェルトだけだろうか。

 エメローラは本心かもしれないが、他の連中からは――置いてかれても困るから連れてけってオーラが全開に見える。


 言わんとしたいことはわかるから、心のうちに秘めておこうと思うフェルトだった。


「こ、これに乗るんですの……?」


 そしていざ乗ろうとすると、萎縮するチェンナ。


 サラマンダーはトカゲのデカイ版。

 もっと言えば、ワニを一回りほど大きくしたヤツだから、女性からすれば苦手意識のある人もいるだろう。


 メイドの何人かは、その爬虫類独特の目玉や肌質に鳥肌を立ててる様子が伺える。


「乗らなきゃ進めねーだろ?」


 サラマンダー乗りの同乗者はメイド長、フェルトは身体の弱いメイド、ヘイヴンがチェンナと同乗することになったのだが、チェンナが中々乗らない。


「大丈夫さ、蝶々ちゃん。僕がついているよ」


「ケ、ケルベルト様ぁ〜」


 手を差し伸べるヘイヴンだが、それでも無理そうな表情をしている。


「ほれ。この使用人さんも頑張って乗ってんだから頑張れー」


 フェルトはそう言って背中のメイドを指すが、指が食い込むほどしがみつかれている。

 正直、背中痛い。


 こっちのメイドもダメみたいだが、迷惑をかけ続けた後ろめたさがあるのか、無言でしがみつく。


 するとそんなに嫌がられると不服なサラマンダー乗りは、再びむすっとした表情をする。


「そんなに嫌なもんかなぁ? 可愛いだろ?」


「か、可愛いかは人によるんじゃないか?」


 ドラゴンやワイバーン、サラマンダーをあまり可愛いとは表現しないだろう。

 このクリッとした目が可愛いという奴もいるだろうが。

 だが好きでもなければ、サラマンダー乗りなんてやれないだろう。


 そこから更に五分ほど問答があったものの、ヘイヴンの顔面キメ顔が決め手になり、チェンナはお姫様座りしたが、


「その乗り方じゃ、振り落とされるぞ。ちゃんと跨がれ」


 と、サラマンダー乗りからご指摘があった。


「それじゃあ、オレについて来な! しっかり掴まってろよ、おばさん!」


「は、はい……!?」


 パシンとサラマンダーの手綱を叩くと、びゅっとすごい速度で走り去る。


「――いやぁああああーーーーっ!!?」


 あの歳で出るとは思えない悲鳴が砂埃と共に遠ざかっていく中、フェルト達は少し苦笑いを浮かべながら、


「さ、先に行って、色々用意しとくから。置いていく食料や水で足りるはずだから、ちゃんと配分頼むぞ」


「え、ええ。そちらも気をつけて……」


 そしてフェルト達も手綱を叩くと、


「――うおっ!?」

「――おやっ!?」


 ズダダダダダっと人間では歩きづらいであろう砂地を軽々と走っていく。


 フェルトはこの疾走感を楽しいと感じてはいるが、後ろのメイドやチェンナはあまり嬉しくはないようで、


「「――キャアアアアーーーーっ!!?」」


 しばらくは悲鳴を聞きながらの旅路となった。

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