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六色恋模様  作者: 中村ゆい
第二章 如月皐月
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(4)後回しのツケはここで来る

 勢いでうなずいてしまったものの、そのおかげでわたしの気分はさらに落ち込む。

 この状況を、美蘭になんと言えばいいのか。

 とりあえずここまで色々あったのに黙っているのはまずいだろう。

 帰宅して速攻、スマホで彼女に「今いる?」とメッセージを送る。死にそうな思いで数分待つと、既読がついて「何?」と返事が来た。

 さて、何て書こう。

 美蘭、あのね。大橋くんに告白されたんだ。で、ちょっとの間、大橋くんと付き合うことになったから。でも後々ふる予定だから!

 そんなこと……伝えられない……。

 はあ、とため息をつき、ベッドに寝転がった。


「ていうかわたし、告白されたんだよね……」


 つぶやきは天井に向かって放たれて消える。

 人生で初めて他人に好意を示されたのだ。こういうときはもっとドキドキすると思っていた。嬉しくなるものだと想像していた。

 なのに実際は、ずしんと心臓が重くなり、苦しい。

 好きな人から告白されたわけではない、という事情を差し引いたとしても、こんなのは思っていたのと違う。

 大橋くんよりも美蘭の顔のほうが思い浮かぶ。嬉しいよりも、厄介なことになったなあという頭を抱える思いだ。

 美蘭はどう思うだろうか。失恋にショックを受けないだろうか、告白されたのがわたしだと知っても今まで通り仲良く接してくれるだろうか。

 美蘭のご機嫌ばかりうかがってびくびくしてる。

 だからこそ大橋くんは怒ったのだ。断るなら俺だけを見て断れと。美蘭を判断基準にするなと。

 わかっている。彼の言う通りだ。だからわたしはさっき、彼の瞳から目が離せなかった。一度付き合ってからふってほしいとかいう意味わかんないことを言われたのに、魔法がかかったみたいにうなずいてしまった。

 その場でぎゅっと目をつぶる。

 考えたくない。全部忘れてしまいたい。明日からのこと、美蘭のこと、大橋くんの告白で変わってしまった身の回りのいろんなこと。





 ぐずぐずと返事をしないまま眠ってしまった翌日。部活に行くために駅へ向かうと、美蘭の後ろ姿を見つけた。彼女も今日は部活の日らしい。


「み、美蘭!」


 呼びかけると、改札を通ったところで彼女は振り向く。きっちりと結んだポニーテールが揺れるのを、わたしはぼんやりと見つめた。小さく手を振られて、慌てて自分も改札を通る。


「おはよう」

「おはよ。昨日のメッセージ、何だったの? 途中で返信来なくなったから心配したよ」


 不思議そうな顔で問われ、わたしは言葉につまる。

 さすがにもう、言わなきゃ。

 いざ、口を開かん。できれば美蘭に嫌われませんように。


「あの、昨日と一昨日の話なんだけど……」

「みーらんー、おはよー! こっちこっち!」


 わたしが話そうと口を開くのと同時に、近くから女子の集団が美蘭の名前を呼ぶのが聞こえた。

 チア部の子たちだ。


「あ……一緒に来る?」


 美蘭に誘われ、首を横に振る。団結力が高そうなチア部集団に混ぜてもらって一緒に通学するのはハードルが高い。一人で別の車両に乗り込もう。

 話そうとした決意は勢いをそがれてしゅるしゅるとしぼむ。


「引き留めてごめん。話はまた時間があるときに」

「そう……? わかった」


 美蘭がわたしから離れて部活仲間の元へ駆け寄るのを、がっかりした気分で見送る。

 やっぱり家とか落ち着いた場所で2人になったら大橋くんのことを伝えよう。

 こんなざわざわした駅の改札付近で打ち明けるよりも、そのほうがいいよね。

 そう自分に言い聞かせて、わたしはまた逃げた。

 このときが、最後のチャンスだったのに。




『皐月が大橋くんと付き合ってるらしいって話、ほんと?』

 その日の夜、美蘭から送られてきたメッセージには、そう書かれていた。

 わたしが彼女に事情を話そうとメッセージアプリを立ち上げたときのことだった。

 返す言葉が見つからない。

 全部、わたしが言いたくないことを後回しにしていたツケだ。

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