「奴らの隙を突け」
「さてと、どうしますかねぇ」
フブキさんと別れてからしばらくして、店を後にした私たちはこの街の象徴ともいえるスザク門を窺うことのできる細い路地にいた。どうしてここに居るかといえば、この門がファーリーファンダムの拠点に続く唯一の場所だからだ。
あのスザク門は街の象徴であると同時に敵陣へと入り込むことのできる唯一の入り口で、当然警備も万全といったところ。あそこを突破するにあたってはもう少し近づいて詳しい警備の様子を探る必要があるけれど、今の私たちにはなかなかにハードルが高い。
この前、スカジャンキツネに喧嘩を吹っ掛けたことにより、彼らからすっかり要注意人物としてマークされてしまい、表立って大通りを歩くことも出来なくなってしまった。無論、こんな状況ではあの門に近づいて観察なんてできないわけで。
あの件が完全に尾を引くこととなったわけだが、私としてはあのときの判断が間違ってたとは思わない。あれがなければ龍子さんには会えなかったわけだし。
結果としてハードモードにはなってしまったけど、私たちの想いを遂げるためにはなんとかして目の前に立ち塞がる試練を乗り越えなきゃいけない。
「陽彩、警備の状況とか見える?」
「流石に遠すぎて無理」
私よりスタイルが良くて、視力もいい陽彩ですら状況が把握できない。
そもそもの距離が遠いうえ往来も激しい。だから、警備がどこに何人いて、入り込めそうな隙はあるのか、みたいなことを探るのは遠くから眺めるのがやっとの私たちでは厳しい。
「ねぇ、陽彩。なんか思いつかない? 私より頭いいんだしさ」
「んなこと言われても……。まず近づけない以上、どうにもアプローチできないって」
うーん。困ったなぁ。
どうにかしてバレずに近づく方法を見つけないと話にならないぞ……?
二人して頭を捻るものの一向にいい案はでてこない。いつもスマートにアイデアを思いつく陽彩も珍しく真剣に考え込んでいた。
灰色の煉瓦壁にもたれかかりながら、難しい顔で腕を組み考え込んでいる陽彩。その様はとても絵になる。
いつもと違ってギャルらしくない神妙な面持ちで考える姿は、彼女本来の姿である優等生の雰囲気が滲みでていて、その眼鏡の似合いそうな真面目なギャルという相反する要素が見事に調和しているのが芸術点高い。さらに腕を組むことで自分の二の腕と身体の前に回した腕に圧迫され、あざとさを全く感じさせずにグッと強調されたおっぱいが、陽彩の身体のえっちさをこれでもかと表現している。
いつもと違う陽彩の感じが私の心を昂らせていく。
醸し出してる雰囲気が少し違うだけでなんだか別人に見えてしまって、新たな一面を垣間見たみたいでとってもドキドキする。
いや、まぁ冷静に考えれば、そもそもが優等生の黒髪委員長ちゃんからエロエロビッチなピンク髪ギャルに変身させてるんだから別人に見えるのは当たり前なんだけどさ。
急ブレーキを踏んだかのように冷静になった途端、ふと頭の中に一つのアイデアが浮かんだ。
「別人、ね」
「ん? どうしたん?」
「ねぇ、陽彩の身体使わせてよ」
「は?」
私の言葉を聞いた陽彩は明らかに嫌そうな表情を浮かべている。
「使うって……何に?」
「私と陽彩の仲だよ? そりゃ決まってるじゃんか」
「そういう趣味にしても時と場所は考えろってか、屋外でなんて嫌だからね」
「またまたー。好きなくせに」
「一応言っとくけど、私にも拒否権はあるから」
ハラスメントって、なんか勘違いしてるな……。
いいや、その辺すっ飛ばして本題に入ろう。強引なのもたまには悪くない。
「それじゃあその身体、存分に堪能させてもらうよ! 憑依!!」
誰からも見られていないことを確認して憑依を発動し、陽彩の身体に潜り込む。
「そして、変身解除!」
『うぇっ!?』
そう宣言した途端、陽彩の身体は眩い光に包まれる。
光に包まれている間、不思議とだらしなかった服装が整ってゆく感じがして、光が消えるとスカートは膝下丈になり、前面のボタンも全て留められ、この身体はブレザー服をバッチリ着こなしていた。
視線を髪の方へやると、そこには艶のある真っ黒な髪が肩の下へと真っ直ぐに下りている。
うん、バッチリだ。
「それでぇ? 何が嫌だったのかなぁ?」
『もう! ルナさんも人が悪いです……!』
さっきの問答を踏まえて煽る様に陽彩に尋ねてみると、陽彩はお淑やかな言葉遣いでそれでいて感情をちょっぴりとだけ見せるような調子で怒った。
最近見てなかったこの感じ、めっちゃ可愛い。
陽彩は心身ともにしっかりと優等生モードに戻ったようだ。
「どうよ? 久々にこの姿になった感想は」
『スカートの丈が長く感じて少し落ち着かない気がします』
あーあ。見事に身体が覚えちゃってるねぇ……!
「いいよ、いいよ! 百点満点!」
陽彩は私の言葉の意図は分からないらしいけど、その方が好都合。
『それで、こんな風に私の身体を使って何をするんです?』
「そういえばこの街に来てからはずっとギャルモードで、こっちには一度もなってないでしょ? だから、こっちのモードになれば敵さんも別人だと認識すると思ってね」
『なるほど、それで偵察しに行くというわけですか』
「そそ。それに私が陽彩に憑依すれば隠れながら一緒に偵察できるってわけ」
『考えましたね。なかなか妙案だと思います!』
陽彩に褒められて嬉しさのあまり自然と顔がにやけてしまう。
慣れてないから気恥ずかしさも若干あるけど、でも褒められると嬉しい。
『それじゃ行きましょうか』
「うん!」
陽彩の問い掛けに私は胸を張って一歩踏み出した。
ギャルのときみたいにガッツリと出しているならまだしも、ブレザーに包まれたこの状態ですら歩いた振動で当たり前のように陽彩の胸は上下するもんだから、陽彩のおっぱいのボリュームには驚くよね。それがまた堪らないのだけれど。
◇
優等生モードの陽彩に憑依したまま路地から出て、スザク門の前までやってきた。
『朱雀』という名に相応しい朱塗りの巨大な門は、まさに天守閣への侵入を阻む城門といったところ。建築にどれ程の素材と労力が必要かというのは想像に難くなく、これもファーリーファンダムというクランが持つ力の誇示の一環なんだろうなと思う。
ある意味でお尋ね者の私たちは敵陣の真ん前で堂々と視察をしている訳だけど、守衛の獣人たちにはどうやら気づかれていないよう。彼らから見て優等生モードの陽彩は間違いなくギャルモードとは別人として認識されているようだ。
とはいえあまり長居するとそれはそれで怪しまれてしまうので手短に済ませないと。
「どう?」
声を潜めて陽彩に尋ねてみる。
『門の守衛が四人。その脇、彼らの敷地内に築かれた物見櫓に一人。向こうの屋敷は三メートルほどの塀にぐるりと囲まれていて、表立って入れそうなのはやっぱりこの門だけのようですね。門の開閉は必ず向こうの守衛が二人がかりで行い、一般人は門に触れることすら困難といった感じでしょうか』
「流石優等生、分かりやすいね。ありがとう」
「そんなことありませんよ」と陽彩は謙遜して言う。
しかし、状況が分かれば分かるほど侵入は無理ゲーだと思い知らされる。
地上からも高所からも監視の目は常に光っている。そこの警備が剥がれればワンチャンあるんだろうけど、そこは人を道具同然に扱う奴らのことだ。恐らくは警備の離れる隙なんてないだろう。
「どうしたもんかねぇ……」
『ルナさん。奴らが来そうです』
陽彩の声に意識を門の方へ戻すと、守衛が二人怪訝そうな顔で私の方を見て何やらひそひそと話し合っている。
私たちの正体がバレていないとしても流石に怪しいか。
そろそろ潮時だろうなと感じ、絡まれる前に人の流れの中へ飛び込み、そのままプレイヤーたちやNPCたちのペースに合わせて大通りをゆく。
「どう思う?」
一応、陽彩の意見も聞いてはみる。帰ってくるであろう答えは分かりきっているが。
『やはりスザク門からの侵入は不可能、とまでは言いませんが厳しいでしょう。他の侵入経路を詮索する必要があると思います』
「ですよねー」
思った通りの回答。
別のルートかぁ。探索に割ける時間も残り少ないし、見つかる保障もないけど何とかして見つけないと。
『強行突破して問題を起こせば、彼らが執り行う謁見の儀そのものが流れてしまう可能性があります。私たちに与えられた機会はそこしかありませんから、その辺りは慎重にならないと』
まさに陽彩の言う通り。
私たちがファーリーファンダムの鼻っ柱をへし折るには、『謁見の儀』のときだけに姿を現すクランマスターに挑む必要がある。でも、その前に問題が発生しようものならその大事なイベントは中止になってしまうだろう。もしそうなってしまったら彼らに挑めない。
そして、龍子さんを救うことはできない。
だからこそ彼らに気づかれずにそこに潜り込まなきゃいけないのだ。
その隙は一体どこにある?
通りを歩きながら街並みを眺めつつ、その手がかりを探ってみる。
門を有する通りの屋敷側には途切れなくファーリーファンダムの建物が並んでいて、塀を乗り越えるということはできない。それに街で一番の大通りということもあって人目も多い。だから騒ぎを起こさず侵入するなんてことは不可能に等しい。
つまりはどうやったって正面方面からは入れないなと思わされる。
となると、次はこの屋敷の側面を当たってみないと。ただそれには一旦ここを離れてフィールドに出る必要はありそうだけどそれも仕方ないか。
そう思い、私たちは街の外へ向けて歩みを進めてゆく。
◇
街を離れフィールドの方へ出ると、街の端から直角に折れた高い塀が南北にどこまでも続いている。一応和風に飾り付けてはあるが、その塀はお屋敷というよりはもはや刑務所という言葉がピッタリなようにも思えた。
こちらにもそれなりに見張りはいるようで、そいつらに怪しまれないよう遠巻きに、フィールド探索をするテイを装って観察している。まぁ、モンスターと会うとめんどくさいから、エンカウントしないようお祈りしながらではあるが。
それでも自然の起伏や樹木なんかが私たちをいい感じに隠してくれるおかげで、スザク門前より幾分かは楽にそして近距離でも気づかれずに偵察ができている。
「こっち側にもキチンと警備は付いていてどこにも穴はなさそうか」
『ですね……』
もう少し見張りが少なければ苦労はなさそうだけどそうも上手くはいかないらしい。
「ん?」
見張りの巡回にパターンがないかと目を凝らして見ていると、私はちょっとしたことに気づく。塀の前に見張りは等間隔で立っているが、一部分だけ明らかに人数が多い。しかしその部分の塀に何かがあるわけでもない。
「ねぇ、なんかあそこ変じゃない?」
『たしかに、何も無いにしては配置が変ですね』
そのとき、突然そこにいた見張りたちが野外競技の試合前のように二つに別れてビシッと整列しはじめた。まるで何かを出迎えるようなそんな感じに。
「なんだ?」
そして、音を立てて塀が開いた。パカッと。
『隠し扉……!』
開いたところからケモノ耳の人たちが列をなしてぞろぞろと出てくる。
その最後尾から出てきたのは、なんとあのときの憎きスカジャンキツネ。そして、その脇には龍子ちゃん。
「お疲れ様でございます!」
見張りたちの声を揃えた威勢のいい声が私の耳にも届く。
「異常は?」
「ありません!」
「じゃ、素材集め終わるまでしっかり見ておけ」
「承知しました!!」
そう見張りたちと言葉を交わしたスカジャンキツネは、
「ちんたら歩いてんじゃねーぞ!!!」
と、目の前を歩く列に向け怒号を飛ばす。
状況から察するにファーリーファンダムの採掘班はここから出入りしているようだ。
相変わらず、龍子さんは浮かない顔をしていた。
頑張らなきゃ、みんなで一緒に笑うために。
『入るならあそこですね』
「後はどうやって入るか」
見張りを排除すれば入れそうだけど、それでは結局騒ぎになってしまいそう。
考えろ……。騒ぎを起こさず侵入できる方法を。
使えるカードは多くはない。それに私は頭も悪いし、取り柄といえば【性癖】くらいしかない。
【性癖】……私の【性癖】……私の性癖……!
その瞬間、頭の中でビビッと何かが繋がって、変態的なアイデアを思いつく。
「これだ……!」
『思いつきましたか?』
「うん! とっておきのヤツが」
『どんな方法ですか?』
「そのためには、ちょっと龍子さんにもお手伝いしてもらうけどね」
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