「広がる夢ときな臭い街」
マウントキャットを後にして、街の中をふらふらと。
私たちは『拠点』なるものを造るべく、店長さんに教えてもらった『ファーリーファンダム不動産』に向かっていた。
『さっきはご飯屋すら見つけられなかったのに、初見の街で不動産屋になんていけるのか?』って問題はあるけど、それは大丈夫!
店長さんがマップに目的地をマーキングをしてくれたおかげで、私の視界の端の方に目的地へのガイド矢印がちゃんと表示されているからだ。
現実でいうところのAR、だっけ? VRに比べてそっちの技術はあんまり進歩しなかったんだけど、言うなればまさにそんな感じ。
まぁ、VRの中でARがどうのと言っても混乱しそうになるだけなんだけど。
そんなこんなで、矢印様のお導きに従って動いてるわけ。
もちろん、この矢印は私にしか見えていないので、陽彩とクロちゃんは各々自分の見たいものを見ながら歩いている。
陽彩はブティックのショーウィンドウなんかを見ているけど、クロちゃんは街ゆく人や建物、その全てに興味津々といった様子。
「楽しい?」
「うん……、楽しい……! やっぱり、お姉ちゃんたちと、新しい世界に来て……、よかったって、思う。暗いところに、一人でいたときよりも……、ずっと、ずうっと、楽しい……、から!」
ただゾンビが好きなだけだったのに、それが原因で疎まれ、避けられて。ゲームを辞めようかとまで思いつめていたクロちゃんからそんな言葉が聞けて私は思わず、胸がいっぱいになってしまいそうだった。
「お家……、楽しみ……!」
「拠点造ったら何しよっか?」
「私ね? お姉ちゃんたちと……、もっといっぱい……、楽しいこと、したい……! フカフカのお布団で一緒に寝たり、スプラッターゾンビィごっこしたい……!」
「スプラッターゾンビィごっこ」
こみ上げていたものがちょっと引っ込む。
いくら恐怖を克服したとはいえ、心の準備なしにされたら泣き叫ぶ自信があるぞ……。
なんたって相手は本物のゾンビだから! しかも幼少期にゾンビに魅せられたエリートゾンビィだから!
「じゃ、家具にはこだわらなきゃっしょ!」
何だろう。フカフカのベッドは外せないとして、特定のパズルを解かないと開かないセキュリティとか、謎のクランクとかだろうか。
夢のマイホームを前にして、楽し気な妄想は様々に膨らむばかり。
そんなときだった。
「きゃ!!」
街に響き渡る女の人の大きな叫び声。
ガラガラと何か堅牢なものが瓦解する音。
そして、小規模な地震。
「な、なに!?」
視界端のガイド矢印から外れて、何かが起きたであろう方に行ってみると、そこには五メートルはあろうかという大きな女の人が尻もちをついていた。
もはや測定不能の超ド級おっぱい!
そして、彼女の周囲にはさっきまで建物だったであろうものが辺り一面に広がっている。
「コラー!! ワシらの建てたもんに何してくれとんじゃい! ワレェ!」
そこにすっ飛んできたのは大きな大きなドラ猫の獣人。
陽彩と同じくらいの背丈で、お腹周りはでっぷり。アロハシャツに丸いグラサンを身に着けた、ガラの悪そうどころか、その道の人みたいな猫さん。
「また巨人連中かいな! ホンマに何べんいわせりゃすむんニャ? うちのカシラが『今は大事な時期だから、でっかい人たちには手ぇ出すな』って言いはるから、言われた通り手は出さんけど、全くどうしてくれんねん、コレ」
そこに普通の青年が慌てた様子で割って入る。
「本当に申し訳ございませんでした! で、でも彼女もたまたまバランスを崩しただけで悪気があったわけじゃないんです」
「悪気がない言うてもなぁ。コッチは丹精込めて建ててきて、もう少しで完成って大事なときにこないなことされて、はいそうですかとは言えんのじゃ。この意味分かるかニャ、自分?」
「お、お金と素材なら払います……。だから、彼女には!」
「金とか、女とか、素材とか、まぁ確かにそれも大事やけど、そういうことじゃないねんニャ。今はな、ワシらのクラン『ファーリーファンダム』と君らのクラン『ディー・リーゼン』の大事な大事な交渉の最中ってことや。このこと、その材料にきっちり、使わせてもらうんで。ん……? 分かったなら、はよ行かんかい!!!」
「す、すいませんでした!!!!」
そう言い残し、巨人の女の人と普通の青年は逃げるようにこの場を去っていった。ドシドシと地響きを立てながら。
「ほな、ばいニャら」
そして、それを見送ったドラ猫獣人は空に向かって大声で話し始めた。
「あー、あー。聞こえとるか? ドラ助ニャ。今な、ちょーっとトラブってな? すぐ人出が必要なんニャ。んぁ? そんなん決まっとるやろ、お客様第一ニャ!! 何としても納期に間に合わせるために、建築班の『耳尻尾ども』は全員、それに空いてる『毛皮モン』も動員! んじゃ、よろしく頼むニャ」
そう言うとドラ猫獣人は「お騒がせして、ホンマすいません」と、すれ違う人々にペコペコと頭を下げてどこかへ行ってしまった。
「なーんか、嫌な感じ」
陽彩も私と思うところは同じなようで。
どうにもこの街と、これからお世話になる『ファーリーファンダム』、何かがある。そんな気がしてやまない。
そうは思いつつも、私たちは矢印ガイドのナビに従って、再び『ファーリーファンダム不動産』に向かうのであった。
お読みいただき、ありがとうございました!
なにやら不穏な気配が……
ルナたちは無事にマイホームを購入できるのか?
次回をお楽しみに!




