「ロリっ子頑張ります!」
前回の【憑依!】
路地裏でヤンキーに喧嘩を売られたルナたち。
しかし突然の不意打ちもおっぱいパリィで状況を打開するのであった!
蹴られた右手を抑えて立ち尽くす舎弟。
私はグッと拳を握りしめ、そんな彼に向かってダッシュで詰め寄り、隙しかない頬にグーパンチを見舞う。続けざまに胴にも一撃。
舎弟は苦痛に呻き、攻撃の当たりも悪くない。しかし、思ったより向こうのHPを削れている気がしない。恐らく、あの短ランがダメージを軽減しているのだろう。
なかなか長期戦になりそうな予感がする。
振り向くと、クロちゃんは不安そうな目をして物陰に隠れている。その大きな瞳はウルウルと涙ぐみ、今にも泣きだしてしまいそう。
これ以上、彼女を不安にさせるわけにはいかない。
そう思い直し、再び拳を構え直す。
舎弟が伏せていた顔を上げ、私の顔をギロリとを睨む。瞳の奥には燃え盛る闘争心がみてとれ、今の攻撃にも全く心は折れていないよう。
むしろ、私がその火をつけてしまったのかもしれない。彼はどの格闘技にも当てはまらない、明らかに我流といった感じの独特な構えで私の前に立ちはだかる。
漫画とか格ゲーの見様見真似で構えている私が言えたたちではないが。
「うぉおおお!!!!」
舎弟の右ストレート!
私は手のひらで拳を受けつつベクトルをずらし、そのまま勢いをヒラリと受け流す。
「流れる水に拳は通じないのよッ」
すれ違いざまに腹パンを一撃。
これぞ名付けてギャル流拳、なんっつって。
攻撃を躱され、カウンターまで入れられた舎弟は狼狽える。
まぁ全部漫画の受け売りなんだけど。頭に思い浮かびさえすれば、その通り身体を動かせるゲームシステム。最初は難しいけど慣れてくるとなかなかに楽しい。
とはいえ、遊んでても無駄に時間を食うだけなのでそろそろキメワザといこうじゃないの!
「陽彩!」
『オッケー!!』
陽彩と意思を確認し合う。
そして、
「【憑依】! あんたの身体、乗っ取るよ!」
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【性癖】:【憑依】発動
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憑依の対象を陽彩から舎弟へと切り替え、身体の制御を奪い取る!
「なッ、身体が!?」
『動揺したのが運の尽き! 心に隙間がある限り、私はそこへと入り込む! そして身体を奪うのさ!!』
目の前には陽彩が拳を握りしめ、ダッシュで迫ってくる。
私は奪った身体を大の字にしてノーガードの体勢に。
陽彩がパンチを構え、跳びあがる。
私は攻撃を目の前にしてもそのままの体勢をキープ。身体を奪われた舎弟が制御を奪い返そうと必死に騒ぎ立てる。
「クソッ! 返せ! 俺の身体!!」
『いいよ』
「なにっ!?」
『ただし、攻撃は喰らってっもらうけどね』
私はインパクトの直前に舎弟の身体を棄て、再び陽彩の身体に乗りうつる。
「ふざけん――」
「セイヤァーー!!!!」
舎弟の抗議の声をかき消すように、声を張り上げぶん殴る。
ノーガードの身体にジャンピングパンチがクリーンヒット、向こうのHPゲージを削りきる。舎弟は勢いに任せ石畳の上を転がっていった。
「ナイスパンチ!」
『相変わらず頭の悪い戦い方だわ』
「まぁ、上手くいって終わったんだしいいって――」
「誰が終わったって?」
ハッとしてその声の方を見ると、HPを削り切ったはずの舎弟がそこに立っていた。
「どうして!?」
「ハッ! 【雑草根性】舐めんじゃねぇ!!!」
見れば舎弟のゲージがミリ単位で残っている。状況を見るに向こうの【性癖】が発動したのか!
舎弟の癖にどこまでもめんどくさい奴!! しかし、向こうは言わば生ける屍、どんな攻撃でも一発見舞えば終わりだ!
私が舎弟に向かって駆け出そうとしたそのとき、奴は腕を大きく振り上げた。
その手の先には……、鉄パイプ!!
「お前なんてもはやどうでもいいんだよ……! この際、そっちの包帯女さえ殺れれば姉さんは誉めてくれるだろうさッ!!」
舎弟は物陰に隠れているクロちゃんに向かって鉄パイプをぶん投げた。
「クロちゃん!!」
言うより先に、身体は動いていた。陽彩の意思が私の制御を振り切り、この身体を突き動かした。
「……お姉ちゃん!!!」
「ぐぅッ!!!」
射線に投げ出した背中をパイプが打った。
スキルでダメージを軽減したものの、ずきりとした痛みが全身を駆け巡り、声にならない呻きが漏れ出る。
「お姉ちゃん……!!」
膝をついた私のもとにクロちゃんが駆け寄ってくる。
「大丈夫……! へっちゃらだから……、クロちゃんは隠れてて……」
早く立ち上がらないと……、クロちゃんを守れるのは私たちしかッ……! でもその想いに反して痛みで身体がついてこない。どうすれば――
「……、許サ、ナイ……」
そのとき、クロちゃんは小さく呟き、ゆらりと立ち上がって、舎弟に向かいふらっと一歩踏み出したのだ。
「ほう、そっちからやられに来るとは、いい度胸してるじゃねぇか」
「だ、ダメッ……! 私たちのことはいいから、逃げて!」
しかし、クロちゃんは私の声に構うことなく舎弟に向かって歩いてゆく。
一歩、また一歩と踏み出すたび、右に、左に、身体を振り子のように大きく揺らしながら歩いてゆく。まるで身体に全く力が入っていないかのように。
彼女の目が前髪の隙間からチラリと覗く。強い日差しの射す中で、その瞳孔は不自然なほど大きく開いていた。
「な、なんだ。こいつ……」
クロちゃんを襲おうと意気揚々だった舎弟ですら、彼女の様子を見てドン引いている。
「う゛う……」
彼女は発するのは、声帯を風が通り抜けただけのような不気味な呻き声。そして、ひたひたと歩くたび彼女の身体は大きく揺れ、それに合わせて首の座ってない赤ちゃんのようにその頭も大きく揺れる。
いつの間にかに、クロちゃんは向こうの間合いの中に入り込んでしまっていた。
舎弟は慄きながらも、無防備な彼女の隙を見逃さない。
「き、キモいんだよ!!!」
――グキッ。
「ひっ!」
攻撃をしたはずの舎弟が悲鳴を上げる。
奴の拳がクロちゃんの頬を打つと、彼女の首は横に九十度以上捻り曲がった。その首の曲がり方は明らかに普通の人の可動域を超えている。そして彼女は膝をつき、そのまま動かなくなった。
そんなとき、舎弟の前に透明なウインドウが浮かんだ。
「や、やった……! 包帯女を倒したぞ!!」
それは彼の性癖決闘勝利を告げるウインドウだった。
「く、クロちゃん……!!!!」
私はその様子をただ眺めることしかできなかった。
痛みはとうの昔に消えていたが、得体の知れなさがこの身体を支配し、全く身体を動かせなかった。
「はぁ……、はぁ……。これでこいつもリスポーンするし、もうその顔を拝まなくて済むってもんだぜ。さぁ、コイツの持ってた荷物を漁って――」
【RESPAWN】
「ワタシは、死ナナイ……!」
突然、地獄の底から聞こえてきたような、お腹の底にジンジンくる低い声がこの場に響き渡る。
その声に顔を上げると、再びクロちゃんが立ち上がっていた。首に紐を括り付けて吊り上げられたかのような体勢で、頭を斜め後ろにダラリと倒したまま。
サラりと垂れたグレーの髪の隙間越しに私とクロちゃんの目が合うと、彼女の口角がニヤリと上がった気がした。
「どっ……、どうして……! ゲージゼロなんだから、もう死んでるはずだろう?! まさかこいつがグレーヘアーモンスター?!」
確かにミリ単位で残っている舎弟のHPゲージとは違って、私の目にもクロちゃんのゲージはゼロに見えた。というか紛れもなくゼロだった。
「う゛う゛う゛っ!!」
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【性癖】:【拘束】発動
『装備品で対象を縛り付けることが可能になる』
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クロちゃんが呻ると、彼女の両手足に巻きついていた包帯が解け、包帯が自らの意思を持っているかのように舎弟の両手足を縛りつけて奴の動きを完全に封じ込める。
――そしてクロちゃんは頭を起こし、身動きの取れない舎弟の喉笛に噛みついた。
「あっ、あ゛ぁ!!! ぎゃぁあああああああああ!!!!」
その悲鳴は、恐竜映画で肉食恐竜に食べられるモブキャラクターのそれだった。
クロちゃんは舎弟の喉笛にかじりついたまま首を離さない。そしてそれは、舎弟のHPゲージが無くなり、リスポーンによる消滅を迎えてバトルの勝利を告げるウインドウが出現するまで続いた。
「う゛ぐう゛う゛う……!」
それを眺める私は、相変わらず動けずに固まったまま。
その様子はまさに、――彼女の【性癖】は、――【ゾンビ】だった。
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【性癖】:【ゾンビ】
『プレイヤーに【ゾンビ体質】を付与する』
『※【ゾンビ体質】:HPの最大量減少・受けるダメージ量増加・リスポーンのたびに意識レベル低下・プレイヤーの痛覚を消滅・リスポーン地点をその場に固定・一部を除く状態異常無効』
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