「路地裏の喧嘩」
「見つけたぞ!」
私たちとクロちゃんの幸せな時間をぶっ壊してくれたのは、黒の短ランに赤シャツの、昨今は絶滅したと思われる、教科書通りの不良。手に持った鉄パイプを地面に擦らせ、カラカラと耳障りな音を立てている。
この前も見たな、そんな奴。
「何? アンタ」
「俺はアンズ姉さんの舎弟、ノリ!」
この前はスケ番、今度は舎弟? ここは一体何時代なんだ……。
「包帯女! 姿を見たと聞いて来てみれば、何のうのうとこの街歩いてんだ? あん?」
その舎弟はクロちゃんにガンを飛ばしながら言う。
「ううっ……」
「姉さんが、『二度とこの街歩かせない』って言ったよな?」
舎弟は鉄パイプを引きずりながら近づいてくる。それを見たクロちゃんは怖がって私のブレザーの裾を掴む。
「大丈夫、お姉ちゃんがいるから」
そう陽彩はクロちゃんにだけ聞こえるように呟いて、優しく彼女を自分の方へ抱き寄せる。
「そんでお前が……、噂のピンク髪か」
「噂って何さ」
「お前、姉さんに見逃されたらしいじゃねーか」
「ええ」
「でもなぁ、このノリ様は見逃さねぇ! やってやんよ!!」
舎弟が鉄パイプを合図のように地面に叩きつけ、駆け出す。
「オタクちゃんさぁ、どうする? この前はギャルに押しつけてヤンキーから逃げたけど」
妙に気合いの入った煽りが飛んでくる。
クロちゃんの手前、役に入り込みすぎだ。オタクちゃんなんて呼ばれたことないぞ……。
『あれは、作戦だから! こんなヤツ相手なら、何とも思わないっての!』
「あれ? 弱そうなヤツには調子いいじゃん?」
『そ、そんなことないし。……次はスケ番にもイキってやるっての』
「じゃあ、いくよ」
その言葉と同時に身体のコントロールが私に戻ってきた。
「この前と同じ、私が身体を動かすから、陽彩はアシストよろしく」
『わかりみ』
「クロちゃん。大丈夫だから、ちょっと下がっててね!」
クロちゃんはこくりと頷き、私の後方に隠れる。
片足を半歩引いて構える。
眼前の舎弟が鉄パイプを上段に振りかぶる。
「うぉらあ!!」
「ふっ!」
爪先で地面を蹴って、後方へ飛び退く。
目の前で鉄パイプが空を切った。打ち損じた先端が石畳を叩き、足元で橙色の火花が散る。
やっべ。
耳を突く金属音に私は直感する。
殴られたことなんてないけど音だけで痛いのが分かる。
当たるわけにはッ――!
舎弟はもう一度、頭の後ろに鉄パイプを振り上げた。
後ろへ避ける? それとも横?
悩んでる間に、舎弟は威勢のいい声を張り上げ武器を振る。
『左!』
考えるまでもなく身体を陽彩の言った方へ。
鉄パイプが空振る、胸先数ミリ。
ブレザーの前ボタンを留めておっぱいを押さえつけていなかったら、当たっていただろう。ギャルなりのに着こなしに感謝。
振り下ろされた鉄パイプを、向こうが構えるより早く左足で踏みつけ抑える。
「なっ!?」
予想だにしないことが起きた。そんな感じに、舎弟は目を見開いて驚いている。
その間抜け面に左の裏拳を見舞う。
拳がクリーンヒット。呻き、のけ反る舎弟。
無防備な首筋に、間髪入れずにハイキックを叩き込む。
「ぶべぇっ!」
陽彩のアシストのおかげで蹴りはキレを増し、舎弟を二歩、三歩と後ずらせる。しかし、武器だけは手放さない。
「いい蹴りすんじゃねぇか」
「そりゃどうも」
攻撃を喰らっても軽口を叩く余裕があるとは、向こうもそれなりにやるらしい。一筋縄ではいかないか。
下がったヤツを追うべくして一歩、踏み出そうとする。だけど舎弟が私を牽制するように、適当に鉄パイプをぶん回すもんだから、思わず踏みとどまる。
「くそッ、邪魔な武器め……」
素手と鉄パイプ、リーチの差は歴然。向こうは考えなしに振り回せばいいけど、こっちはそうもいかないわけで。
それに私は殴られて喜ぶような『ドM』ではないから、なるだけ攻撃は喰らいたくない。
『そんなに邪魔なら弾けばいいんじゃない?』
陽彩が私の頭の中でいいことを囁く。
「でもいいの? あのときは散々嫌がってくせに」
『う、うるさい! 今は勝つため、手段は選んでらんないかんね』
恥じらいがなくなったのは私の影響なのか、はたまたギャルプレイのせいなのか。
前者なら私色に染まっていってる感じがしていいし、後者でも普段とのギャップの凄さにそれはそれで興奮する。
攻撃を誘い込むべく大きく下がると、舎弟もそれに合わせるように武器を構えて向かってきた。
『タイミングのアシストいる?』
「いや、目視で十分!」
迫ってくる舎弟がパイプを振りかぶる。
「何を一人でごちゃごちゃと!!」
向こうは歩幅を合わせると同時に左手を右手に添え、上段からこの胴体狙って思い切り得物を振り下ろす。
来た! 引き寄せろ、極限にギリギリまでッ!
全力のフルスイングだろうが、陽彩の使えるとっておきな動体視力をもってすれば、スローに見える。だから、直視で必殺の猶予タイミングを見極めるんだ。
目を見開いてパイプを、見る。
刻一刻と鉄パイプが私に迫ってくるのが、見える。
ヒットまでの猶予は体感、三カウント。
三、ゆっくりと、着実に、私を打たんと鉄パイプが向かってくる。
拳を下げ、身体の前から横へ。
二、軌道はぶれることなく、私の身体に向かって進む。
ほんの少し、身体をくの字に。
一、身体の大きく突き出してる部分、その寸前に攻撃が迫る。
上半身に、全ての意識を集中。
行くぞ!
鉄パイプが、胸に触れる。同時に陽彩の豊かな胸部を大きく突き出す。
柔らかな胸が押しつけられた棒の形に合わせて、むにっと形を変える。
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【性癖】発動
【巨乳フェチ】
【ブレザー服】
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──全てを弾く無敵の装甲!
「必殺! おっぱいパリィ!!」
ガギン、という小気味よい効果音と、火花のようなエフェクトが出て、胸が鉄パイプを弾いた。
「んなッ!?」
攻撃を弾かれた舎弟はのけ反って大きな隙を晒している。その姿はひっくり返ったカエルのように不格好。
私は武器を持つ右手に全力全開のハイキックを放つ。
蹴りがパイプを握る指に直撃。舎弟は悶絶し、堪らず持っていた手を解くと、その武器は弧を描きながら大きく弾け飛んで行く。
『やるじゃん』
「まあね」
武装解除が成功し、陽彩もご満悦。
これで互いに素手同士、間合いもほぼ互角になった。
「んじゃ、こっからはこっちの番だ!」
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