『総隊長と隊長達』
私は置いてけぼりの中待ち続ける。
孤独と不安が心臓を押し潰しそうになっていくが、それにも耐えて希望を祈る。
魔女が居るのなら、きっと神様だって居るだろう。
私に微笑んでくれるかはともかく、藁にもすがる思いだ。
そうして、そんな事をしているうちに時間は幾らか経過し、どうやら話が纏まったのか、
「我が儘に付き合ってもらって済まない。感謝する」
「いや、まぁ隊長の指示ですし、決めたことなら仕方ないですよ」
「そうそう! ちょっと怖いけど、隊長が居れば大丈夫ですし!」
軽く談笑しながら私の元に沢山の人が近寄ってきた。武器を抜いていないのを見るに、少なからず敵意は持っていないようだ。
「……凄いなぁ」
烙印者という存在そのものを嫌悪している筈なのに、こうも簡単に私に近付けるのは、偏に隊長と呼ばれるこの人の人望が厚いからだろう。
ただ、それでも生きたいという私の願いを叶えようと行動し、理由もないのに納得させるのは本当に凄い事だと思う。
「それじゃ、とりあえずこの服を着て貰っていいかな? さすがにその服だと烙印が見えてしまいそうだからね」
「分かりました。ご迷惑をお掛けします」
服を貰い、私は上からそれを着る。そうすれば胸という隠れた部分にある烙印は見えなくなっていった。これで周りの人が見ても普通の女の子だ。
「……こんなのが烙印者だなんて信じられないわ」
「えっ?」
隊員達の陰から聞こえた微かな声に反応したが、返答がなかった事で誰が喋っていたかまで判別する事は出来なかった。
が、考えていたのも束の間、隊長が歩き始めたのを皮切りに、私は厳重に取り囲まれながら組織ーー『ジャッジメント』の本部へと連れて行かれるのだった。
「クロス総隊長。ただいま帰還致しました。死者数名、負傷者多数。以上が今回の戦いの結果です。また、別に重要な案件がありますので、隊長を全員招集し、人払いをお願いします」
「そうか。ご苦労。事前の報告を受けて既に招集はしてある。数分もすれば集まるだろう」
「はっ! 迅速な対応、感謝致します」
包囲されながら組織の中へと連れていかれた私は、行く先々で奇異の視線を向けられながらも、本部の重要そうな場所へと辿り着いていた。
周りは薄暗く、隊長と話している人の顔もよく見えない。
ただ、シスターがたまに使っていた通信機器のようなものはある。
実物は見たことがないけど、本で何回か見たり、読んだりした中で想像していた指令室というやつで概ね間違っていない筈だ。
私からすれば全てが珍しく、こんな状況なのに好奇心がそそられてしまう。
「よぉクルス。なんかやばいもんを連れてきたんだってな」
「別に危険ではないさ。まぁ、カルマは気に入らないと思うけど」
「お前たち、クロス総隊長の前で無礼な態度はやめたまえ。失礼だろう」
「あっ? スターク、お前は厳しすぎるんだよ。だから、お前の隊員たちは堅苦しいんだ」
いつの間に背後に立っていたのか、突然聞こえた声に私の肩はビクッと震え、現実に戻されるように好奇心は一気に失せていく。
「ちっ、ビクビクしやがって。烙印者風情が人間みてえな真似してんじゃねえよ」
嫌悪感を剝き出しにした言葉によって私の心はより畏縮してしまう。
けれど、私はこの人達に自分の価値を示さなければならないのだ。
無理難題に近いような気もするが、生きる為にはやるしかない。
「さて、集まったな。それでは話を始めようか」
元々指令室に居た人物、『クロス』という組織のトップが手を叩き、一声上げると隊長達はすぐさま姿勢を整えた。
そうして、場の雰囲気が一気に変わった事によって私の緊張感も更に高まっていく。
「まずは状況確認の為にクルス君からの報告をもう一度聞くとしよう。構わないかな?」
「はい、問題ありません。では、本日あった烙印者討伐及び、烙印者をこの場に連れてきた経緯を説明致します」
クルスが説明をしている最中、私はクロスへと今まで逸らしていた目を向けた。
どういう人物なのか、果たして情に脆いのか、それとも――敵に対して容赦ないのかどうかを見定めようと。脳をフルに回転させながらジッと見つめる。
「――ふむ。助かったよ、ありがとう」
「いえ、他の隊長への説明も省ける為、こうしてもう一度報告できるのは有り難いです」
「さて、早速だが君に聞いておきたいことがある。烙印者としてではなく、戦場に居た存在として問いたい。良いかな?」
観察する事に集中していたのが悪かったのか、報告が終わった事に気付かなかった。
その結果、顔を向けて訊ねてきたクロスと目が合ってしまい、思わず顔を逸らしてしまった私は、何も話を聞いていないにも関わらず、
「……はい、大丈夫です」
っと、俯き小さな声で答えてしまった。
「では、第一の質問だ。先の報告では今回討伐した烙印者には乙女のような烙印が刻まれていたと聞いているが、君もそれを目撃したのかな?」
問いかけに答えようと必死に記憶を探るが、断定は出来そうにない。近くで見て、話しまでしたのに。
こうなれば私の取る手段は一つだけ。先の報告に同調し、とりあえず頷くだけ。
「よろしい。これで乙女、魚、羊、牡牛、山羊の烙印者を討伐した事になる。それでだ、次の問いになるが、君は残りの烙印者が何人存在しているか分かるかな?」
「いえ、その、分からないです」
「ふむ。となると烙印者達は情報共有をしていない、もしくは君だけが知らない可能性があるか。……まぁ良い。スターク。残りの烙印者の数は分かるな?」
話を振られたスタークと呼ばれる隊長は一歩前に出る。
その姿を嫌でも目で追ってしまった私は、眼鏡を掛け冷徹といった言葉が似合う容姿に怖くなり、目を逸らして他の隊長に目を向けてしまった。
しかし、短髪で綺麗な顔立ちをしている優しい好壮年のクルスはともかく、長髪で無精髭の生やしたカルマは視線に気付くと敵意を向けてきた。
「ひっ……」
思わず声を上げてしまった事で、カルマはイラついたように舌打ちをし、手を振ってスタークにさっさと話をするように促す。
「少し邪魔が入りましたが、お答え致します。まず、今回乙女を討伐したと断定した場合は残りの烙印者は七人。ただし、それはあくまでも彼女が現れる前の事です。つまり現時点では彼女を入れて八人となっています。烙印者が現れた経緯を考えれば、合計十三人存在するという事も有り得ない事ではないでしょう」
――残り八人の烙印者。それは私を含めた数であり、元々この組織が想定していた人数よりも一人多いらしい。
ただ、普通に考えれば器という存在を想定しないだろうし、十二人だと勘違いしても不思議じゃない。
なにせ私はイレギュラー。今や消えてなくなった数えられない星の烙印を持つのだから。




