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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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34話 『裏切り者』

「--あの、ちょっと待ってください! さっき隊長が居ないって言いましたけど、クルスさんはどうしたんですか!?」


 カルマを振り払い、私はクロスへと駆け寄りながら訊ねる。まるで今知ったかのように。

 しかし、カルマは以前私とクルスについて話していたのもあって、焦っているような私の姿を見て睨むような視線を向けてきている。

 恐らくこれ以上余計な事をするなという事だろう。

 ――だが、私はそんな視線を無視してクロスからの返答を待つことにした。

 例えカルマの額に青筋が浮かぼうとも。


「はぁ。本来なら君は知らなくても良いことだが、まぁクルスが連れてきた人物だしな。伝えておくとしよう。――単刀直入に言う。クルスは我々を裏切った可能性が高い。未だ理由は不明だが、本部にずっと顔を出していない事、そして何より烙印者の元に君を送り出したという疑いがある。直接聞いていない以上は真偽不明だがな」

「で、でも万が一裏切っていたとしても家族を人質とか、な、なにか理由があって仕方なく従わなきゃいけなかったとかじゃないですか!? もしそうだったらカルマさんだってクルスさんの事を許して……あげても……」


 私の声は徐々に勢いをなくしていき、次第には消えてしまいそうな程の声量になっていく。

 正直私としてはクルスが裏切っているにしても、事情次第、そうせざる負えない状況なら仕方ないと考えていた。

 ……でも、こうして二人の顔を見てしまえばそんな事を考えていた自分が如何に組織という枠組みで考えた場合に愚かだと気付いてしまったのだ。


 ――組織の中において、裏切り者の末路というものは誰であっても例外なく変わらないのだ。


「なぁ、お前本気で許されるとか思ってんのか? 裏切りってのは仲間を売るって事だぞ!? 有り得ねえだろ普通!」

「……分かってます。でもクルスさんは組織にずっと貢献してきたんですよね? だったらせめて少しでも情状酌量の余地を認めるとか……」


 自分が甘い事を言っているのは分かっている。

 それでも、自分を救ってくれたという恩があるからこそ、そう簡単には見捨てられないのだ。

 そしてきっとカルマも友人として思う所があるのだろう。

 だからさっきまでの怒気を収め、今はちょっと困ったように頭を掻いている。


「……あー、まぁ言いたいことは分かる。理解も出来る。でもな、クルスが隊長だからとか、今まで組織に貢献してたとか、そんな理由で許すのも駄目なんだよ。だってそれじゃあ今まで殺されてきた裏切り者はどうするんだ? ってなるし、親兄弟を人質に取られてる奴なんて腐るほど居て、そいつらを殺してる以上は例外を作れば組織というのが壊れるのは分かるだろ?」

「っ、そう、ですよね……」


 カルマの言葉はぐうの音も出ない程の正論だった。例外を作れば組織は壊れていき、守るべき秩序は失われていく。

 だからこそ、守らなければならないルールというものがあるのだ。

 ルールを破れば処罰が下る。それは当たり前の事で、例えクロスがルールを犯したとしてもそれは変わらない。いや、変えられない。

 ……残酷だけれど、それが組織というものなのだから。


「ま、ユフィ。お前がクルスを、仲間を大切に思ってるって事は充分伝わった。だからそんな暗い顔すんな。ルーナ達を助けに行くんじゃなかったのか?」

「おいカルマ! お前何を言って――」


 優しく諭すように慰めながら頭を撫でるカルマにクロスが詰め寄る中で、私は一度俯いてから顔を上げ、自分の頬を叩いて気持ちをリセットする。

 クルスの事はクルスに直接会った時に決断すれば良い。

 例え殺すとしても話くらいはきっと出来る筈。

 だから、今はカルマの言う通りルーナ達を、隣国を助けに行くのが先決だ。


「私、行っても良いんですね?」

「おう。こっちは俺に任せとけ。でも、早く帰って来いよ」


 クロスに胸ぐらを掴まれながら、カルマは私に親指を立てて笑顔を向ける。


「勝手な事を言って……。はぁ、分かった。許可しよう。どうせ駄目だと言ってもその顔を見る限りだと聞かなそうだしな。ただその代わり、カルマ。お前がしっかりと街を守るんだぞ」

「はい。任しといて下さい。片腕だろうとそこらの烙印者には負けませんから」


 そんなカルマの独断専行に呆れながらも、仕方ないといった感じでクロスは納得すると、私へとさっさと行けと言わんばかりに手を振った。


「それでは隣国を救出しに行ってきます! 許可をくれてありがとうございました!」


 そうと決まればここで立ち止まっている暇はない。もう戦っているかもしれないルーナ達を助けるために、一刻も早く向かう事にしよう。


「あぁ、さっさと行って帰って来いよ。勿論ルーナ達と一緒にな!」

「はい!」


 瓦礫の崩れる音。鳴り止むことのない悲鳴と、数十体にも及ぶ残滓達の不気味な鳴き声。

 煙はそこら中から上がり、国として見る影もなくなっている。

 人々がパニックになって逃げ惑う中、私の視界には戦っている人達が次々に映り込んだ。


「あそこも、あっちも結構押され気味か。助けないとだよね!」


 隣国に辿り着いた私はまず真っ先にルーナ達を探すのではなく、外壁に登って見渡し、殺されそうになっている人達を助ける事にした。

 正直言って、早くルーナやノーヴァに会いたい気持ちはあるが、こんな惨状を目にしてしまえばそうも言っていられない。


「あ、ありがとうございます! でもあなたは一体……」

「あー、まぁ本部からの救援って所かな。あ、そうだ、烙印者がどこに居るか分かる?」

「ら、烙印者ならさっきあっちで二人の女の子と戦っているのを見ました。一人は確か、ルーナさんだったかと……。すいません、お役に立てなくて」

「ううん。充分だよ。ありがとね!」


 ここに派遣されている隊員の数はそれなりに居るとはいえ、残滓に対する数としては足りていない。

 現に、こうして隊員を救う為に奔走して分かったが、おおよそ一人で一体相手しないと対処出来ない程の残滓が生み出されているのだ。

 とは言え、このまま私が全力で残滓討伐に専念すれば少なくとも半分は倒せる。

 隊員の負担も十二分に減らせるだろう。しかしそれでは、


「……根本を解決しないと意味ないよね」


 残滓を幾ら倒そうが烙印者が居る限りは生み出されてしまう。

 それに、この数を生み出しているという事はほぼ間違いなく未だ複数人の烙印者が生きている。

 だとしたらそっちを叩いてしまった方が早い。

 残滓による被害者は増えてしまうが、そこは今戦っている隊員達に踏ん張ってもらうとしよう。

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