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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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『二人だけの任務』

 水に浮かぶ死体のように湯船に浮き続ける。


「うぅ。やっと痛みが引いてきたよ……」

「ふん! もっと苦しめば良いのに!」

「あはは。でも丁度良いかもしれないっすね。他の人達が来ましたし、そろそろ……」


 私達がお風呂に入ってから数十分。

 他にも任務を終えた隊員達が続々と入り始めた事で、気を利かせたノーヴァが浴場から出る事を勧めた時、


「あら! 烙印者が居るじゃないですか」


 私達の目の前に現れた綺麗な縦ロールの髪型をした隊員が蔑むような視線を私へと向け、嫌みを含みながら声を掛けてきた。

 無駄に大きな声だった事もあって、他の隊員も私の存在、ひいては胸元の烙印に気付き、視線は嫌でも集まっている。


「ユフィちゃん。良いっすよ、こいつらの相手なんてしなくて。行こっ!」

「あら~、逃げるんですか? だったらルーナ様だけ置いていってもらってもよくって? 貴方みたいな人には相応しくありませんもの」


 ノーヴァが手を引いて浴場から出ようとするが、私は自分の意思で手を離し、言い返す為に隊員の前へと立った。

 というか、ルーナを置いていけと言われて私が何も言わずに立ち去る訳がない。


「ねぇ、私が気に食わないんでしょ。皆を巻き込まないでよ」

「別に巻き込んでいるつもりはないですわ。貴方はルーナ様に相応しくないと言っているだけですの。ですが、その言い返す度胸に免じて模擬戦で決着をつけませんこと?」

「ちょっと、貴方達勝手に――」

「ルーナちゃんは黙ってて。これは受けなきゃいけないの。私がルーナちゃんの隣に立つのに相応しいかを決める為にね」

「良い度胸ですわ! では私が勝った方がルーナ様に認められて、一緒に居られるって事で良いですわね! 模擬戦は明日の朝、訓練場で待ってますわ!」


 自分の力によっぽど自信があるのか、高笑いしながら隊員は去っていった。

 見た所体も洗っていないし、湯船にも浸かっていないが、それを告げるのは自信満々な背中を見るに野暮というものだ。


「という訳で、明日はルーナちゃんを賭けて模擬戦する事になっちゃった……」

「なっちゃった。じゃないでしょ! 私を巡っての争いなのに完全に蚊帳の外だったじゃない! ノーヴァ、貴方もよ。今度からこういう面倒くさい事になる前に力づくでユフィを連れて行きなさい。後! メルクはどこ行ったのよ!」

「あ、メルクならウチらより先にのぼせちゃったみたいで、先に部屋に戻ってるっすよ」

「はぁ。もう良いわ。ユフィ、貴方が負ける事はないでしょうけど……絶対に勝ちなさいよ」

「勿論! ルーナちゃんは絶対に渡さないから!」


 お風呂で模擬戦の約束を交わした次の日、私は約束通りに訓練場へと向かった。

 そして、完膚なきまでに叩きのめした。

 喋る暇を与えず、それも一撃で。まるで埃を払うように。

 隊員が弱かった訳じゃない。私が余りにも強すぎたのだ。

 とはいえ、手加減はするべきだったのかもしれない。なにせ、観戦していた隊員達からはより恐れられるようになってしまったのだから。

 まぁ今に始まった事じゃないし、こんな事最早取るに足らない些事に過ぎないけども。


「ま、こうなる事は分かりきってましたよね。で、これで良いんですか。貴方はもっと友達を作りたいのでは?」

「大丈夫。分かってくれる人はきっと居るからさ。ほら、ルーナちゃん達みたいにね」


 離れて模擬戦を見ていたルーナと共に、ノーヴァ達の待つ自室へと歩き出す。

 部屋に戻れば任務の日々を忘れて何気ない会話に興じ、次の日も、そのまた次の日も特別な事はしなくとも、私達は数日と短い休暇期間を満喫した。


「……こんな日々がずっと続けば良いのに」


 呟く私の願いが叶えられることはなく、残酷にも休暇が終わるとすぐに私達へと任務が下される事になった。

 それも、オペレーターであるメルクと私だけで行うという異質な任務が。


「ねぇメルクもこの任務おかしいと思うよね!?」

「そうですね……。確かにオペレーターが本部から出て任務を行うのは前例もありませんし、おかしい事かもしれません。ですが、今回の任務はクルス隊長から以前頼まれていたものです。それに、総隊長も許可を出しているので問題はないと思いますよ」

「そっかぁ、そうだね。クルス隊長なら信用出来るもんね!」


 どんなに違和感を感じたとしても、今回の任務がクルスから頼まれたものである以上は私も問題ないと思える。

 今までも助けてくれたし、きっと何か考えがあってこの組み合わせにしたのだろう。っと、信頼を寄せているが故にそう考えてしまうのだ。


「とにかく今更考えても仕方ありませんし、任務を遂行しますよ。えーっと、確か調査するのはこの辺り……きゃあ!」

「なにっ! どうしたの!? ――っ! なにこれ……もしかして烙印者の仕業!?」


 メルクの叫び声に反応し、咄嗟に近くへと寄ってみれば、目の前に広がる光景に私は驚きと怒りを覚えてしまった。

 決して残滓では出来ない人の殺し方。

 子供も大人も関係なく切り刻まれ、まるで美術品かのように仕立て上げられている。

 これは烙印者の仕業で間違いはなく、腰が抜けているメルクを立たせようと手を伸ばしながら辺りを見渡すが、誰もいる気配はない。


「嫌、嫌! どうして、思い出したくないのに、こんなのを見せられたら……」


 メルクは恐怖で動転しているのか、頭を抱えて涙を浮かべたかと思えばブツブツと呟き始めた。

 見るからにトラウマが蘇ったのは間違いなく、こんな状態では逃げることもままならない。


「メルク! 大丈夫、大丈夫だから。私を見て、ほら、私が居るから!」


 トラウマの引き金となっている眼前の光景から強制的に目を背けさせるには無理やりにでも抱きつき、強制的に視界を遮るしかなかった。

 こんな所で隙を見せるのは危険すぎるが、今はメルクを落ち着かせてすぐにでも逃げられるようにするのが先決だ。


「あ、あれ、ユフィ……さん?」


 泣きじゃくる子供をあやすように抱き着いて数分、ようやくメルクが落ち着いた。

 同じ烙印者だから私で余計にトラウマを思い出してしまうか不安だったが、どうやらこんな私の顔でも少しは安心してくれたようだ。


「良かった。落ち着いたみたいだね。もう立てそう?」

「はい、すいません。少し昔を思い出してしまって……」

「そっか、って事はもしかしたら近くに仇の烙印者が居るかもしれないのか」

「ユフィさん、そういえば――」


 ボソッと呟いた私を見て、メルクが何かを言おうとした時だった。


「見―つけた!」


 突如として背後から影が伸び、振り向くよりも前に声が聞こえ、気が付けば私は宙に浮き、勢いよく吹き飛ばされてしまった。

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