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星降る魔女の子供達  作者: ねぎとろ


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『いずれきっと』

 皆んなが自己紹介していく中、最後に私が自己紹介をしようとした所、口を開くその瞬間にルーナによって抑えられてしまった。

 驚いて一瞬硬直してしまうも、すぐに私の口から手を離してルーナは喋りだした。


「メルクにノーヴァ、貴方たちには事前に説明があったと思いますが、改めて紹介しておきましょう。この隣に居るやかましいのが特記戦力の烙印者よ。名前は確か……」

「えっ!? まさか忘れたの!?」

「あ、そうでした。ユフィでしたね。覚えてあげてください。あぁ、それと烙印者ですが今はうるさいだけで暴れないので大丈夫ですよ」


 ふふっと笑いながら私の事を説明してくれるのは有り難いし、見ている分にはとても可愛いのだけど、驚かせてきたのは何かの仕返しだったりするんだろうか。

 それとも単純に冗談でからかってきただけ、なのかな?

「って、私は猛獣か何かなの!? 無闇に暴れたりしないよ! あ、でもそっちを望むなら……ガルルッ! どう? 猛獣に似てる?」

「あーはいはい。もう大人しくしてなさい」


 両手を広げてルーナに襲い掛かろうとしたものの、軽くあしらわれた事にショックを受けてしまった私を他所に、メルクはルーナへとこっそり話しかけている。

 まぁ、こっそりといっても私にも聞こえてしまっている訳だが。


「あ、あのー、本当に烙印者を戦力だなんて大丈夫なんですか?」

「あら、メルクはクロス総隊長の決定に異議を申し立てるの?」

「い、いえそういう訳じゃ! ただちょっと怖いというか、なんというか……」

「冗談ですからそんなに怖がらないで下さい。そもそも烙印者に対して反対している人も多いですし、私も最初は懐疑的でしたから大丈夫ですよ」


 実際に私を目の前にし、烙印者という存在を再認識したからなのか、チラチラと私を見ては怖がっていたけれど、ルーナが冗談を言ったお陰なのか震えは止まっている。

 ただ、未だメルクはルーナに聞きたいことがあるらしく、手持ち無沙汰な私と、ボケーっとしているノーヴァは完全に蚊帳の外へと追いやられてしまっている状況だ。

 この状況なら二人で話せるし、もしかしたらノーヴァと仲良くなれるチャンスかもしれない。


「あ、あのさ、ノーヴァちゃんって――」

「――烙印、見せて欲しいっす。気になるっす!」

「えっ? もしかしてずっとそれ考えてたの!?」


 私が話しかけた瞬間、顔を瞬時にこちらへと向けたかと思えば、さっきまでのボーっとした顔とは違い、目をキラキラ輝かせてお願いをしてきた。まるで子犬のようだ。


「うーん、あんまり軽々見せたくないっていうか、流石に恥ずかしいのもあるしなぁ。どうしようかなぁ……」


 んー、と頭を悩ませながらやんわりと嫌だと告げてみた所、どうやら断られるとは思っていなかったようで、物凄く悲しそうな顔をしながら俯いてしまった。


「うっ、そういう反応されるのはなんか予想外すぎるんだけど。っていうかさ、烙印者が怖くないの? 烙印を見るのだって普通の人は怖がるだろうしさ」

「別に怖くなんかないっすし、ウチはユフィさんの事をもっと知りたいだけっすから」

「そっかぁ。そう言ってくれるとなんだか嬉しいかも!」

「じゃ、じゃあ見せてくれるっすか!?」

「わっ、押しが凄い! えーっと、ちょっとだけ。だからね?」


 正直私の烙印の位置は普通とは違うし、場所が場所だけに見せたくはないのが本音だ。

 とはいえ、ここまできてやっぱり見せないという訳にもいかず、私は羞恥心を抑えながらゆっくりと服を捲った。


「凄いっす! カッコいいっす! もっと良く見せてください!」

「えぇ!? 嫌だよ! 女の子同士とはいえ恥ずかしいというか、なんていうか……」


 嫌な顔をされるか、嫌われるのかと思って少し覚悟していたものの、ノーヴァから返ってきた言葉は予想外なものだった。

 けど、これ以上見せ続けるのは私の心が持たなそうだ。


「うー、もう隠されちゃったっす。……でも、一目見れたのは良かったっす。ちょっと憧れちゃうっすもん!」

「いやいや、あんまり良いものじゃないよ。皆に嫌な顔されるし、怖がられちゃうしさ。そんな事言ってくれるのはノーヴァちゃんだけだよ」

「そうなんすか? ウチはカッコいいと思うんすけどねぇ」


 相変わらず本心で言ってくれているし、どんなに否定しても褒めてくれるのは嬉しい反面、こういう時にどう言葉を返せばいいのか分からなくなってしまう。

 だけど、こうして裏表なく言ってくれた言葉が私を少しだけ救い、心を軽くしたのは紛れもない事実に違いない。

 しかし、どうしたものだろうか。ノーヴァに「ありがとう」と伝えたいけど、今朝も見たはずの鬼がまた目の前に……。


「貴方達、なにを騒いでいるのかしら?」

「あー、あはは。ちょっと烙印を見たいってお願いされちゃって……」


 苦笑いしながら答える私に対して、ルーナはため息をついてしまった。

 迂闊な行動をした所為でどうやら呆れさせてしまったようだ。


「あの、ウチが見たいって言ったのであんまり怒らないでくださいっす」

「いえ、それは無理です。ユフィさんには危機感が全く足りてませんから」

「え、そうかなぁ? 一応考えて行動してるつもりだけど」

「いいえ、全くもって駄目です。幾らお願いされたってそう簡単に烙印を見せたりしたら、貴方を知らない人も怖がったり、襲ってきたりするんですよ? 烙印の位置がどうこうではなく、そういった意識をちゃんと持ってください」


 ルーナの言葉を受け、最初こそ怒られると思っていたが、私の身を案じての言葉であることを知り、私は真剣な面持ちで頷いた。

 勿論、胸元だから基本は他の人に見えないし、見せるつもりはないけれど、改めて自分が烙印者だという事に危機感を持つべきだ。

 魔女の器だし、いつ何が起こってしまうのかも分からないのだから。


「うん、ルーナちゃんの言う通りだね。ごめんなさい、これからは気を付けていくね」

「そうしてください。メルクも貴方の一挙手一投足に怯えてしまっているから是非とも自重してくださいね」


 グサッと心に刺さる言葉が聞こえた気がするが、悲しむよりも前に私はメルクへと近付いて頭を下げ、謝罪を述べる事にした。


「えっと、ご、ごめんね。こうやって沢山喋れるのが嬉しくって、危害とかは絶対に加えないから安心して!」

「い、いえ、もう大丈夫ですので、あんまり、その、近寄らないでくれると……」


 あからさまにメルクから避けられた事で、ショックを受けた私はその場に崩れ落ちるが、


「ほら、こっちに来てジッとしていなさい」


 それを見かねたルーナが私を隣に呼んでくれた事で、なんとか気を持ち直して移動するも、場の雰囲気は確実に悪くなってしまった。

 重苦しく、誰も口を開こうとしない。このままじゃ駄目だ。

 ここは一つ、これからも仲良くする為に私がどうにか頑張ってみるとしよう。


「あ、あのさ! あ、いや、ごめん。なんでもないです」


 意気込んでみたのは良いが、急に喋った事で声が裏返ってしまい、恥ずかしさでつい謝ってしまった。

 そんな私を見てルーナは助け舟を出す。


「まだ訓練までは時間ありますし、お二方に聞きたいことがあるのなら今のうちですよ」

「そうだよね。それじゃ、二人に質問良いかな?」

「は、はい! えっと、だ、大丈夫です」

「どんとこいっす!」


 了承してくれた二人に他愛無い質問。

 ではなく、まずはジャッジメントに入った理由と、どうして私を監視する任務をやろうと思ったのか聞いてみることにした。

 これで私を避ける理由を知れれば良いけど、ノーヴァはともかくメルクの顔を見る限り、答えてくれるかは微妙そうだ。


「ジャッジメントに入った経緯。ですか……」

「あー、あまり話したくなかったら別に大丈夫だよ。人それぞれ理由はあるだろうしね」


 ここまで話す事に躊躇するという事は余程話したくないか、思い出したくない事があるのだろう。

 もしそうだとしたら、それは私も同じだし、気持ちは充分理解出来る。

 だから、無理に話してもらうのは申し訳なかったのだが、メルクは覚悟を決めたのかパチンと自らの頬を叩いて顔を上げ、ゆっくりと語り始めた。


「……いえ、お気遣いありがとうございます。それに、私達は貴方の生い立ちを事前に知っていますので、ここは公平にお話致します」

「うん、ありがとね」


 そうしてメルクは一度息を整えると、自分とノーヴァの生い立ちから今に至るまでを語り始める。ゆっくりと、肩と声を震わせながら。


「私とノーヴァちゃんがジャッジメントに入った経緯は幼い頃に起因しています。まず、私達は同郷で姉妹同然に暮らしていました。でも、そんな日々は長くは続きませんでした。蟹の、蟹の烙印者が……」

「メルク。良いよ、後はウチが話すから」


 今にも泣きそうなメルクの手をノーヴァが優しく握り、代わりに話そうとする。

 が、メルクは自分で話すと言わんばかりに首を横に振った。


「ううん、大丈夫。ありがとね、ノーヴァ。私が全部話すよ。ちゃんと覚えてるのは〝私〝だけだから――」


 涙ぐんだままに語り続けるメルクは話し終わると同時にその場へと力なく座り込んでしまったが、話を聞いた限りだとこうなってしまうのも仕方ない事だと思えてしまう。

 というのも、ノーヴァとメルクは二人とも幼い頃に蟹の烙印者によって両親を亡くしたらしく、それからはジャッジメントに拾われ、育てられてきている。

 一応、ジャッジメントでは不自由なく生活出来ていたようだが、家族を烙印者に殺されたトラウマは残り続けているだろうし、同族である私の事が苦手でも仕方がない。

 でも、どうしてノーヴァは私に苦手意識を持たないのだろうか。これも覚えていないから? それとも――って、考えても意味ないか。


「そっか。両親が烙印者に……ね。それなら確かに苦手意識を抱いちゃうよね」

「はい。どうしても好意的に思うのは難しいです。ごめんなさい」

「ううん、大丈夫。絶対いつか仲良くなってみせるから!」


 俯くメルクと少しでも仲良くなろうと手を顔を近づけたのは良いものの、急に距離を縮めてきたことに驚いたのか、


「む、無理だと思います! 私は烙印者が嫌いですから! 貴方の監視だって、近くに居れば手っ取り早く仇を討てると思ったから受けただけですし!」


 すぐさま離れてしまい、距離を取ると同時に早口で勢い良くまくし立ててきた。

 とはいえ、こうして逃げられてしまったけど、さっきまでの悲しそうな顔から赤面している表情に変わっているのは少なくとも良い事に違いない。


「うぅ。逃げちゃった。あっ! んじゃ、仇を討ったら友達になってくれる?」

「っ! そ、その時になったら考えてあげます!」

「やった。言質取ったからね」


 メルクの心を完全に開くのは、それこそ件の烙印者を倒すまでは難しいかもしれない。

 ただ、約束に近いものを結んだし、きっといずれは友達になってくれるだろう。

 ま、その為にはもう少し好感度を上げないといけなさそうだけど。

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