『仲間が出来ました?』
それからというもの、私は来る日も来る日も訓練をする日々を過ごしていき、やがて半年かそれくらいが経過した時、不意にクロスからの呼び出しが掛かった。
「もしかして他の隊員からの不満が大きいとかでの呼び出しだったら嫌だな……」
他隊員の事については頑なにクルスが教えてくれないからこそ、嫌な想像をしてしまうが呼び出しを無視する訳にもいかない。
「し、失礼します」
意を決して部屋へと入ると、そこにはクロスとその横に見慣れない女の子が居た。
「急に呼び出してしまって申し訳ない。姿勢は崩した状態で構わないよ」
「は、はい!」
この空間に緊張しているというよりは、女の子が嫌悪感を向けてくるのに気になってしまって声が上ずってしまうが、それを気にすることなくクロスは呼び出した理由を話し始めた。
「早速で済まないが本題に入ろう。今日まであの牢屋で良く過ごしてくれた。君の成長も確認できたし、敵対する意思がない事も分かった。そこでだ、今日から君にはこの子に監視されるという条件の下、寮で生活してもらおうと思う」
紹介と共に姿勢よくクロスの横に立つ女の子へと視線を向ければ、嫌そうな顔をしながらも会釈をしてくれた。ただ、顔を上げた後は顔を背けられてしまったけど。
「えっと、牢屋じゃなくなるのは嬉しいのですが、これは新しい訓練とかですか? というか明らかに私を嫌っているみたいなんですが……。その、大丈夫なんですか?」
「ふむ。まぁ君が烙印者である以上は仕方のない反応だと思うが、まぁ少なからず君の事をあまり気にしない隊員を選んだつもりだ。これからの生活できっと仲良くなれるはずさ」
「はぁ。それだったら良いんですけど……」
チラッともう一度視線を向けても、プイっといった感じで目を逸らされてしまう。でも、確かに嫌そうにはしているが、敵意や殺意といったものは感じられないし、単純に誰かと暮らすという事が嫌なだけかもしれない。
というか他の理由だとしたらクロスが言うように仲良くなるなんて到底不可能だろうし。
「さて、君は新しい訓練なのか疑っているみたいだけど、そういった趣旨は特にない。さっきも言ったように単純にこれまでの君を見てきた結果、寮でも問題ないと判断したまでだからね。とはいえ、君が不満に思うなら元の牢屋でも構わないがどうするかな?」
多分監視があるという点からクロスはもしかしたら私が不満に思うかもしれないと思って牢屋でも構わないと提案してくれているのだろう。
でも、普通の女の子になりたい私からすれば牢屋なんて言語道断。普通の生活を得られるこの唯一のチャンスを棒に振るわけにはいかないのだ。
それに監視されているという事はつまり話し相手、友達が出来る可能性だってある。
「クロス総隊長からの有り難い申し出、喜んで受けさせていただきます」
頭を下げる私に対して、クロスは一度頷いた後に「うむ」と言い、続けて私の顔をジッと見た後に再度口を開いた。
「折角だ、今日の訓練は無しにして寮に行ってみたまえ」
「良いんですか!? ありがとうございます!」
クロスからの言葉を受け、楽しみでソワソワしている心を宥めながらスキップで部屋を出る。
「っ!? な、なにっ!?」
気分が乗っており、一切警戒してなかった私は、不意に肩を叩かれた事で心臓が飛び出るほどに驚いてしまった。
「どこに行く気? 寮はそっちじゃないわ」
背中越しに聞こえた声は耳から脳に響き、ここにきてようやくちゃんと挨拶をしていない事を思い出した私は、振り返って話しかけようとした。
でも、声を発するよりも前に私は見惚れてしまい、石のように固まってしまったのだ。
「――か、可愛い! ってか、可愛いというより綺麗!」
「な、急に何を言ってるんですか!?」
興奮している私の言葉を受け、あまり言われ慣れていないのか耳まで真っ赤にしながら女の子は怒り、照れ隠しのように顔を背けてしまった。
「ちょ、ちょっと、あんまり見ないでください!」
「えー、でも可愛いし、隠すなんて勿体ないよ!」
私が喋るたびに湯気が出てるんじゃないかってくらい顔を真っ赤に染め上げてしまうが、そういった反応に私の心は歓喜していく。だって、まるで仲良しの友達みたいに思えるから。
「私の何処が可愛いって言うんですか!? 貴方みたいに目だって綺麗じゃないですし、体だって貧相です。良い所なんて一つもないですよ!」
「そんな事ないと思うけどなぁ」
良い所なんて一つも無いと言うけれど、身体のラインがしっかりとしていたり、淡い水色の髪に銀色のヘアアクセがピッタリ合っている。それに、目元は少し怖いものの、声とも合っていて大人びているような雰囲気は私には無い部分だ。
でも、なによりもそんな大人びた感じなのにこういった反応をしてくれる所が可愛いと思う。
「ほ、ほら、私と違って大人びてる所とか、声だって綺麗だし、他にも……」
「――も、もう結構です!」
「なんで!? もっと沢山あるのに!」
「あー、あー、何も聞こえません!」
耳をがっしりと塞ぎ、徹底的に聞こえないようにしてしまった為、私は泣く泣く褒めるのをやめることにした。きっと、これ以上は鬱陶しがられるだけだろうから。
そうして私が黙った事で、女の子は耳から手を離すと、
「……それで、聞きそびれていたけど貴方の名前はなんて言うの? これから一緒になるわけだし名前くらいは聞いてあげるわ」
目線を逸らし、取り澄ました態度で訊ねてきた。
「えへへ~、素直じゃないなぁ。ま、いっか。私はユフィだよ! これからよろしくね!」
「ふーん、監視されてる立場なのにニコニコしちゃっておかしい人ね。私はルーナよ、こちらこそよろしく」
口調は怒っているようにも思えるけど、どうやらそういう訳ではないらしく、それよりも私に対して「よろしく」と言った事が恥ずかしいのか、早足で歩き始めてしまった。
「えっ、ルーナちゃん。ちょっと待ってよ~。私は寮の位置を知らないんだってばー!」
私を監視する立場の人がどんどん離れていって良いのかという疑問はさておき、『ルーナ』という友達になれそうな女の子の後を追いかけた私は、歩幅を合わせて隣を歩く。
きっと、寮に着くまでに設備を一通り案内してもらえるだろう信じて。




