スノードロップ大捜索!~準備編~
スノードロップ。初めて聞く名前だ。そう呟くと、使用人の女の子が図鑑を持って来てくれた。
◇スノードロップ◇・・・冬季に雪の花を咲かせる植物。蜜たっぷりの雪の実はある一定の条件のもと実らせるが、詳しい条件などは謎に包まれている。
「ノワールはスノードロップの実が好物なのです。昔は夫が探しに行っていたのですが、亡くなってしまい――もう、何年も口にしていなくて」
「な、なるほど」
なんだか、無理難題な気がしてきた。私に見つけることなどできるのか。
しかも、アメリアと二人で探して来いと言っている。
「お祖母様、わたくしも行くわ!」
「侯爵家の一人娘が何を言っているのですか? そもそも、あなた、今騎士をしていると聞きましたが――」
ここで、リーゼロッテへの説教が始まる。
正論に次ぐ正論にぐうの音も出ない、という状況だった。私の付きそいなんかしたばかりに、こんなことに。申し訳ない。
「でも、魔物が出たりしたら、どうするの? メルは戦闘手段など持たないのに!」
「でしたら一名、供を連れて行くことを許しましょう。リーゼロッテ、あなた以外で」
「そんな!」
突然誰か連れて行けとか言われても……。気軽に誘える人なんて、ザラさんくらいだ。
ウルガスはお願いしたら了承してくれそうだけれど、休日なので気の毒だろう。
「どうしましょう……」
「メル、幻獣保護局の知り合いに頼みましょうか?」
「それもちょっと悪いような……」
私事なので、できれば自分達の力だけで達成したい。
しかし、私とアメリアでは、いささか不安だ。
かと言って、無関係の人を巻き込むには――
「あ、都合の良い存在がいました」
「え?」
「侯爵家に一度戻りましょう」
ブランシュはノワールと遊ぶらしいので、エヴァハルト伯爵家に置いていってほしいと頼まれた。ザラさんにはリーゼロッテが知らせておいてくれるらしい。普段預けているお屋敷なので、問題はないだろう。
「では、行ってきます」
『にゃ~~!』
『みゃ~~!』
部屋を出て行こうとしていたら、私を追って来る二頭の山猫。
自分達も連れて行ってと言いたいのか。
「いや、普通に無理ですよ」
『にゃう~~』
『みゃう~~』
いや~ん、いけず~! みたいに言われても。
エヴァハルト夫人がブランシュとノワールを呼ぶと、あっさりテッテケテ~と踵を返す二頭。絶対について行きたいというわけではなかった模様。
さすが猫。気まぐれだ。
◇◇◇
侯爵様はお仕事で不在。
というわけで、事情を説明する文書を職場に届けるよう執事さんに頼み、作戦実行に移る。
「メル、本気なの?」
「本気です」
手に魔棒グラを握り締め、先端には糸を巻き、垂らした先に括ってあるのは――侯爵家の料理長ご自慢のパンケーキ。
これで、妖精アルブムを釣り上げるのだ。
「でも、あの妖精にスノードロップ探しなんてできるの?」
「おそらく。一応、植物系の妖精みたいですし、食い意地も張っているので、適任だと思います」
なぜ、こんなことをしているのかと言うと、アルブムが見つからなかったからだ。
使用人達に聞いても、いろんなところに出没するので、わからないとのこと。
ただ、侯爵様の仕事場について行っておらず、屋敷のどこかにいることは確かだとか。
厨房でパンケーキを焼いていれば現れるかなとか思っていた。けれど、来なかったので、アルブムがよく通る廊下で待ち構える作戦に出たわけだ。
廊下の真ん中に糸を巻きつけたパンケーキを設置。
私とリーゼロッテ、アメリアの三名は曲がり角の陰に隠れ、様子を見守る。
「……あの、メル」
「なんですか?」
「一応、知性のある妖精だから、無理なんじゃ……」
『ワ~イ、パンケーキ、見ッケ!』
出た、妖精アルブム!!!! チョロい。チョロ過ぎる。
私はアルブムの出現と共に、魔棒グラを引く。
『イタダキマ~ス、オット?』
少しずつ、魔棒グラを引いていく。
『アレ~、オカシイナ~』
糸に括ったパンケーキを引けば、ちょこちょこと付いて来るアルブム。
パンケーキが動くことには、疑問を持たないらしい。
最後は一気に引いて。
『パンケーキチャ~ン、待ッテ~~、ウフフ……』
『クエエエエ!!』
『ギャアアア!!』
アメリアが踏みつけて、アルブム捕獲。
『ナッ、オマッ、アルブムチャンガ、何ヲシタッテ言ウンダ!』
「すみません、ちょっとお願いがありまして」
『人ニ、物ヲ頼ム態度ジャナイゾ!』
「それは謝罪いたします」
まず、誠意の印として、パンケーキを与えた。
『ワ~イ……ッテ、コレ、侯爵家ノ、料理長ノオッサンノ、パンケーキジャネエカ! パンケーキノ娘ガ、作ッタヤツジャ、ナイノカヨ! オイオイ! 安定シテイテ、美味イナア!』
満足したんだか、しないんだか、よくわからない感想だった。
もぐもぐと、幸せそうに食べているけれど。
『……デ、アルブムチャンニ、話ッテ?』
「あの、スノードロップって知っていますか」
コクリと頷くアルブム。
探すのを手伝ってくれないかと頼み込む。
『エエ~~、ドウシヨウカナ~~』
「そこをなんとか」
もしも見つけたら、パンケーキを好きなだけ焼いてあげるという条件を出した。
『アルブムチャンニ、オ任セ!』
あっさりと了承してくれた。
こうして、私とアメリア、アルブムでスノードロップを探しに出かける。
「メル、本当にその妖精で大丈夫なの?」
「信じましょう」
この、アルブムの食い意地を。
移動はアメリアに乗る。
鞍無しの騎乗は怖いなと思っているところに、執事さんが鞍を差し出してくれた。
「あの、これは?」
「鷹獅子用鞍の試作品らしいです」
今後、私が注文するだろうからと、侯爵様が試作品を作ってくれていたらしい。
リヒテンベルガー侯爵家御用達の革職人が制作した物で、上等な品だというのは見ただけでわかる。
「これは、使ってもいいのでしょうか?」
執事さんは笑顔で頷く。
「はい。おそらく、今のアメリアさんのお体にぴったりでしょう」
しかし、無償で受け取るのはちょっと……。
「大丈夫よ、メル。飛行の様子を提出してもらえば、それが幻獣保護局の研究に役立つから」
「そ、そうなんですね」
今はお言葉に甘えるしかない。鞍なしで飛ぶのは、かなり危険だろうから。
女性使用人のお姉さん達が、アメリアに鞍を装着してくれる。
ベルトで締め、固定させた。
「アメリア、きつくないですか?」
『クエ~』
問題はない模様。
私は姿勢を低くしたアメリアに跨る。
『アルブムチャンハ、パンケーキノ娘ノ、服ノ中ニ、潜ッテ』
『クエエエエ!!』
アルブムの発言を聞いたアメリアが、「何言ってんだ、こいつ!!」とキツめのツッコミを入れていた。アルブムは『ア、ハイ、スミマセン、踏マナイデクダシャイ』と即座に謝罪する。
「アルブムはこの革袋に入っていてください」
『エ、マタ、アルブムチャン、袋ニ入レテ、輸送ナノ?』
私は黙って、エヴァハルト伯爵家でもらったチョコレートの焼き菓子を袋に入れた。
アルブムは目を輝かせ――
『ヤッタ~~!』
そう叫びながら袋の中へと飛び込んでいく。安定のチョロさ。
袋の口をぎゅっと締め、鞍に縛ってぶら下げた。
「では、リーゼロッテ、行ってきます」
「ええ、気を付けて」
「アメリアが付いていますから!」
『クエ!』
『アルブムチャンモネ!』
リーゼロッテは聖水をくれた。これで、魔物の心配はしなくてもいいだろう。
聖水は革袋に入れて、アルブムの隣に吊るしていたら、『ナンカ、寒気ガスル!!』と叫んでいた。
多分、アルブムは魔物寄りの属性なのだろう。一言謝って、逆側に吊るした。
準備は整ったので、いざ出発!
アメリアは侯爵家の広い庭で助走し、翼をはためかせて飛翔。
「ひええええ!!」
『ギャアアア!!』
ふわりと高く飛び上がるアメリア。
私は鞍の持ち手と手綱をぎゅっと握り、恐怖と戦う。
『クエクエ~~』
アメリアは楽しそうだった。
良かったね。
私とアルブムは泣きそうだけれども。




