南国フルーツ
三日間の楽しい船旅はあっという間に終わってしまった。
美味しい魚介類、三食昼寝つき、無人島に到着するまで待機をするだけの簡単なお仕事という、快適な時間を過ごした。
森暮らしをしていた私にとって、広大な海の景色は新鮮で、ずっと眺めていても飽きなかった。
隊長はザラさんのツボ療法で船酔いから解放されたらしいけれど、海が時化ていつ具合が悪くなるのかと、気が気でないようだった。
ようやく陸へ降り立ち、ほっとしているように見える。
水兵部隊はこのあと別の任務があるので、私達を降ろしていなくなってしまった。
浜辺には船から島へ移動するために乗った小型船しかない。帰還は二日後を予定している。
早い段階で鷹獅子を発見した場合は、花火を打てば迎えに来てくれるようになっていた。
現状として、無人島から脱出する手段がないという状況だったけれど、なんだかワクワクしている。
ここはサンゴ環礁の無人島で、白い砂浜に豊かな植物、果物もたくさん生っているようだ。
まさしく、絵画などで描かれる楽園の姿そのものだろう。
浮かれ気分でいたが、顰め面をした隊長の顔を見れば、現実を思い出す。
そうだ。ここへは任務で来たのだった。
「鷹獅子探しだが、人員を三つに分ける」
まず、島を右から探すのは隊長とザラさん。
左から島を探すのは、ベルリー副隊長とウルガス。
私とガルさんは無人島の森部分を横断するように命じられる。
「よし、ガルさん、頑張りましょう!」
エイエイオ~! とガルさんと二人で気合いを入れた。
ピンと体を伸ばした状態から、その場に蹲って二人でヒソヒソ話をする。
「あの、森の果物とか、木の実とか、採っても構わないそうですよ」
無人島の果物は自由に食べていいらしい。水兵部隊の隊員が言っていたのだ。
食堂で食べた南国の果物は、甘く汁気たっぷりで大変美味しかった。焼いたら美味しいという話も聞いたので、夕食時に挑戦したい。
頑張って果物を探すことにした。
あ、違う。目的がすり替わっていた。
鷹獅子を探すことにした。
砂浜を振り返れば、緑豊かな森が広がっている。
不思議な光景だ。
「じゃあ、行きましょうか」
ガルさんはコクリと頷いた。
「うわあ、うわあ~……」
なんていうか、凄い。圧倒されるような自然を前に、語彙力を失いつつある。
生まれ育った村の森と違うのだ。
鮮やかな緑は、さんさんと降り注ぐ太陽の光によって育った物だろう。
葉っぱも面白い。指先を広げたみたいな形だったり、黄とか、赤とか色鮮やかだったり。
食べられる果物の種類は水兵部隊の隊員に聞いた。その辺は抜かりない。
一歩足を踏み入れたら、さっそく果物を発見した。
「あ、あれ、毛の生えた果物!」
水兵隊員に毛むくじゃらの赤い果物があると聞いていたのだ。
話にあったとおり、本当に果物からもじゃもじゃと毛が生えていた。
「ガルさ~ん、これ、持って帰りましょう!」
実を言えば、果物を入れるカゴも譲ってもらっていた。隊長が訝しげな表情でいたけれど、鷹獅子を入れると言って誤魔化した。
背の高いガルさんが果物を千切ってくれる。
手を伸ばせば、木になっている実に手が届くのだ。
「一人五個くらいでしょうか?」
ガルさんはコクリと頷き、丁寧に千切ってくれた。
一個だけ、味見をしてみる。
ナイフで切り目を入れたら、つるりと剥けた。
実は半透明で、水気たっぷり。甘酸っぱくて、シャリシャリとした食感だった。
「美味しいですねえ」
王都では手に入らない物らしい。こんなに美味しいのに、王族の人達は見た目が気持ち悪いからと言って食べないんだとか。もったいない話である。
ホクホク気分で先に進む。
しばらく歩けば、今までの森と異なる点に気付いた。まずは湿気に驚く。とにかく暑い。額に玉の汗が浮かんでいた。それから、虫が多い。
「ひゃっ!!」
私にまとわり付く羽虫を、ガルさんが手で追い払ってくれた。
フォレ・エルフの森にも虫はいたけれど、ここの虫は大きくて怖いのだ。
ブンブンという羽音も不気味で、恐怖心を煽ってくれる。
虫など気にするな。己を鼓舞しつつ、さらに先へと進んだ。
「ぎゃあ!!」
しゅるんと上から落ちて来たのは、黄色と赤の縞々蛇。
私のすぐ目の前でシャアと牙を剥いた瞬間、ガルさんが槍で一突き。すぐさま倒してくれた。
色が綺麗な蛇は毒がないらしい。注意しなければいけないのは、茶色とか黒とか、地味な色合いだとガルさんが教えてくれた。
果物がたくさんあると喜んでいたけれど、森の中は危険がいっぱいだった。
途中で、龍目という果物を発見する。なんでも、ゼリー状の実で、凄く美味しいとか。
けれど、ガルさんの手も届かないような高い所に生っていた。
ここは諦めようと思っていたら、ガルさんが木に登って採ってくれると言う。
「あの、蛇とかいるので大丈夫ですよ。え、いいのですか?」
木登りは得意だと話すので、お言葉に甘えることにした。
龍目は鳥の卵みたいなまん丸の実をしていた。かなり高い場所に生っていたが、ガルさんがたくさん採ってくれた。食べるのが楽しみである。
他にも、いくつか果樹を発見し、遠慮なく収穫した。
カゴの中身はたくさんの果物で満たされる。
重たくなってきた。そんなことを考えていたら、ガルさんが荷物を持ってくれる。優しい。
身軽になって足取りも軽くなっていたら、遠くから何かの鳴き声が聞こえた。
『クエッ、クエエエ!』
咄嗟にガルさんを見る。
どうやらガルさんも聞こえていたようだ。
ゆっくりと、相手にバレないように進んでいく。
『ギャア、ギャア!』
『クエ、クエ~~!』
何かの生き物たちが取っ組み合いの喧嘩をしているようだった。
そっと近付き、大きな草と葉の間から覗き見る。
片方は真っ黒い鳥。かなり大きい。
もう片方は鷲……と思いきや、四足獣だった。大きさは私の上半身くらいか。
あれは――鷹獅子の子ども!?
「うわ、鷹獅子だ。ガルさん、どうしよう……」
ヒソヒソ話をする。
このまま飛びだせばびっくりして逃げるかもしれない。なので、ガルさんが黒い鳥に槍を投げ、私が鷹獅子を捕まえに行くということになった。
時機を見計らい、鳥が少し離れた瞬間にガルさんは槍を投げた。
同時に、私も飛び出して行く。
『ギャアアア!!』
『クエ?』
見事、黒い鳥に槍が命中!
鷹獅子を革袋の中に入れようとしたが、傷だらけでびっくりしてしまった。
『ギャアア!!』
槍が刺さったままの鳥が、最後の力を振り絞って鷹獅子に襲いかかる。
「危なっ!」
咄嗟に、私は鷹獅子に覆いかぶさった。
歯を食いしばり、衝撃に備えていたが、想定していた痛みは襲ってこない。
不思議に思い、顔を上げる。
すると、拳を突き上げた姿勢のガルさんがいた。少し離れた場所に、黒い鳥が息絶えていた。
なんと、ガルさんが自身の拳で止めを刺してくれたようだ。
「うわ、よ、よかった……!」
はあと大きな溜息。なんとか怪我をせずに済んだ模様。
『ク、クエ?』
「あ!」
鷹獅子の存在をすっかり忘れていた。
私の胸の下にいて、小首を傾げている。
よくよく見たら、背中の翼が曲がっていた。黒い鳥の羽根も突き刺さっている。痛々しい姿だった。このまま革袋に入れるわけにいかない。
案外大人しいので、応急手当をしてみようと思う。
「ガルさん、ちょっと手伝ってくれますか?」
コクリと頷き、鷹獅子の体を押さえてくれる。
『クエッ、クエエエ!』
「大丈夫ですよ。すぐに済みますから」
バタバタとしていたけれど、噛みついたりする様子はない。
まず、ピンセットで羽根を引き抜く。
『クエエエ~~』
痛がる鷹獅子。
なんか、悪いことをしているように思えるけれど、仕方がないのだ。
全部綺麗に抜き取って、水で傷を洗い流す。
人間用の傷薬軟膏は良くないと思って、塗布しなかった。
折れた翼は木を添えて固定させておいた。
とりあえず、応急処置はこれくらいだろうか。
幸い、見た感じでは衰弱している様子はない。お腹が空いているからか、カゴの果物をすんすんと匂いを嗅いでいた。
「果物、食べるかな?」
一個、毛むくじゃらの果物を手に取り、ナイフで皮を剥いて差しだしてみる。
『クエ~~』
手渡しで与えたが、ガツガツと食べたのでホッとひと安心。
鷹獅子は甘い果物などを好むと聞いていたのだ。食欲はあるようで、安心した。
あとは、ゆっくりと砂浜まで運べば任務完了だろう。




