メル、社交界デビュー!? その三
アリタはシエル様と木材を集め、収集品を収納する小屋を作った。そこで、寝泊まりもしているらしい。
シエル様も小屋を気に入り、一緒に寝ているのだとか。
なんというか、それでいいのか大英雄という感じだけれど。
ちなみに、コメルヴはイヤイヤ付き合っている感じだったらしい。
庭の真ん中にある小屋は、夜になると虫の大合唱が始まるらしい。シエル様は無理に付き合う必要はないと言うが、コメルヴは『離れ離れになりたくない』といって傍に居続ける。
それを聞いたシエル様は、防音魔法で虫の鳴き声を完全シャットアウト。
以降、コメルヴは快適な夜を過ごしているという。
コメルヴは虫の鳴き声が苦手だったとは。
その前に、アリタも虫だけれど。鳴かないから問題ないか。
そんなことを考えながら、アリタとシエル様、コメルヴが焚火をする場所に辿り着いた。
「こんばんは」
『あ、リスリスちゃんだ』
『アルブムチャンモ、イルヨ!』
『本当だ!』
相変わらず、アリタはほのぼのする。
見た目は、二メトルの巨大な白い蟻だけれど。
「どうしたのだ?」
「ちょっと、お話したいことがありまして」
そんなことを言ったら、シエル様は隣をポンポンと叩く。座れ、ということなのか。
「これに座れ。アリタが作った、干し草座布団だ」
シエル様が差し出したのは、丁寧に編んだ麻袋に、干し草が詰まった座布団。腰かけると、ふかふかな座り心地に驚いた。
「うわ、これ、いいですね!」
「だろう?」
シエル様はきっと、兜の下でにっこりと微笑んでいるだろう。全身鎧姿だけれど、最近、いろいろ表情とかわかるようになった。
「夕食はまだか?」
「あ、はい」
「ならば、リスリスも、これを、食べて行くといい」
シエル様が指差した先には、骨付きの鳥肉がぶら下がっていた。
薬草と塩コショウでガッツリ味付けし、炙りながらじっくり焼いているらしい。
「まだ、しばらく焼きに時間がかかるがな」
「何か、パンとか持ってきましょうか? それとも、今ここで焼きます?」
「竈がないのに、パンが焼けるのか?」
「はい。鋳鉄製の鍋でしたら、可能ですよ」
「ほう?」
小型の竈のようなものと言えばいいのか。
「では、その作り方、教えてくれないか?」
「はい、わかりました。じゃあ、材料を家から持ってきますね」
鋳鉄製の鍋は、ニクスの中から取り出して焚火の傍に置いて温めておく。
そんなわけで、屋外でのパン作りが始まった。
まず、温めていた鋳鉄製の鍋にバターを落とし、溶けたら小麦粉、酵母、塩、砂糖を加えて混ぜていく。
最初は生地がべたべたしているけれど、練っているうちにまとまってくる。
生地がなめらかになったら、濡れ布巾を被せて三十分ほど一次発酵をさせる。
発酵を待つ間、シエル様に夜会参加についての相談をすることにした。
「あの、それで、お話なのですが」
「うむ」
「実は、王宮の夜会に招待されてしまい、困っています。その、私が粗相をしたら、リヒテンベルガー侯爵に迷惑がかかりますし」
「そうか」
多くを語らずとも、シエル様は私が言いたいことを理解してくれた。
「まあ、あの場は、何も知らずに行くのは辛いだろう」
礼儀やしきたりで塗り固められた世界なのだ。森育ちの私が、行っていい場所ではない。
「ただ、どうしても行かなければならない時は、一つだけしていたらいいことがある」
「それは、なんですか?」
身を乗り出して、シエル様の話に食いついてしまう。
「ピンと、背筋を張って堂々としていることだ。どっしり構えていたら、あの場で悪目立ちすることなどない」
「な、なるほど」
たしかに、舞踏会の雰囲気に圧倒されて、オロオロしていたら相手に付け入られる隙になるだろう。
「話しかけられた時はどうすればいいのですか」
「笑みをたやさず、ありがとうとでも言っておけばいい。話しかけるさいは、適当に相手を褒めればよいのだ。褒められて、悪い気がする者はいないからな」
さすが、大貴族でもあるシエル様。社交界のことは、なんでもわかっている。
話を聞いているうちに、なんだか大丈夫そうな気がしてきた。
「当日は──そうだな。私が傍にいてもよい」
「シエル様が、ですか?」
「ああ。私にも、招待状が届いていてな。行く気はなかったが、リスリスが行くというのならば、参加してやらなくもない」
「ご一緒できたら、嬉しいです!」
「だったら、共に行こう」
「ありがとうございます!」
シエル様がいたら、無敵の要塞の中にいるようなものだろう。
心配は綺麗さっぱりなくなった。
と、ここで一次発酵が終わる。生地はいい感じに膨張していた。
生地を切り分け、丸める。それを鍋に戻し、二次発酵を始めるのだ。
『リスリスちゃん、パン作りって、大変なんだね』
「慣れたら簡単ですよ」
『ちょっと、ハマりそうかも』
アリタのパン屋さんとか、ちょっと想像したらほのぼのする。
二次発酵は二十分間。その間、この前のキャンプの話をした。
『あれ、そこっておじいちゃんとこの前行ったキャンプ地じゃない?』
「そうだな」
『あそこ、強力な魔物が寝床にしていて、倒したあと結界を張ったんだよね』
「まあ、朝飯前だったがな。結界は森の木々を媒介にしているがゆえ、私が死んでも森がなくならない限り永久に続くものだ」
「わ、わ~~……」
やはり、あそこに結界を張ったのは、シエル様だったようだ。
しかも、強力な魔物の寝床だったなんて。
シエル様がいなかったら、私達が戦うことになっていたはずだ。
それを考えたら、ゾッとした。
心の中で、シエル様に感謝する。
と、そうこうしているうちに、二次発酵が終わった。あとは、焼くだけだ。
表面に卵液を塗り、火にかける。三十分くらい焼いたら、香ばしい匂いが漂ってきた。
アルブムはくんくんと鼻をひくつかせ、パンの匂いをかいでいる。
『ハ~~、イイ匂イ!』
「アルブム、何回も言いますが、火に近づきすぎると、丸焼きになりますからね」
『ウン、気ヲツケル』
蓋を開くと、ふっくら焼けたパンが。
『ワ~~!!』
『スゴイネ~~!!』
骨付き鳥肉も焼けたようだ。パンは千切って、皿に置く。バターを添えるのも、忘れない。
夕食の時間となる。
まずは神様に感謝の祈りをして、いただきます!
まずは、パンにバターを載せた。
パンの熱で、バターがじわ~~っと溶けていく。
バターが黄金色になったら、食べごろだ。
「ん! おいしい!」
パンの皮は香ばしく焼かれ、中はふっくら。おいしく焼けている。
「これは……最高のパンだ」
シエル様より、最大級のお褒めの言葉を賜る。
外で作って食べるというのも、おいしさの一つになっているのかもしれない。
骨付き鳥肉は、想像を絶するおいしさだった。
皮はパリパリ、中は肉汁がじゅわ~~。ナイフやフォークを使わずに、そのままかじりつくのが大正義だ。
心配事はなくなったし、食事はおいしいし。
最高の夕食だった。




