秋の味覚の保存食作り
つい先日まで茹だるような暑さだったのに、あっという間に肌寒い季節を迎えようとしていた。
街路樹はすっかり紅葉し、赤や橙色に染まっている。
騎士隊の制服も、生地が分厚いものに衣替えした。
アメリアやステラ、エスメラルダの毛もよく抜ける。
夏毛から冬毛に生え変わっているようだ。
アメリアが冬毛から夏毛に生え変わる時は大変だった。
櫛で梳っても梳っても、毛が抜けるのだ。寮の廊下を毛だらけにするわけにはいかないと、必死になってお手入れをしていた。
今回は、幻獣保護局の方々がお手入れしている。
なんか、毛艶が良くなるクリームみたいなのを塗ってもらったからか、ピッカピカだ。
エスメラルダは嫌がるかなと思ったけれど、アメリアやステラの様子を見て安心したのだろう。幻獣保護局のお姉さんに身を委ねていた。
と、そんな感じで幻獣姉妹の毛の生え変わりを見て、私は秋をしみじみと感じていた。
◇◇◇
遠征帰りなので、食料保管庫が空っぽだ。
ウルガスと共に、市場に出かける。
「いや~~、リスリス衛生兵。すっかり秋めいてきましたね~~」
「そうですね」
フォレ・エルフの村の秋は大変だった。雪深くなる季節に備え、秋の森に食材を捜しに行き保存食をせっせと作らなければならないから。
「エルフの村って、大変なんですね」
「そうなんですよ。基本、自給自足なので」
秋になると大きな籠を背負い、手にも籠を握って木の実にキノコ、果物を集めまくっていた。
一年の中で、秋はもっとも忙しく過ごしていたかもしれない。
今年は、実家に保存食をたくさん送ろう。王都は食材が驚くほど安いので、家族が好きそうなものを詰めてあげなければ。
秋は実りの季節だ。
果物、キノコ、木の実、何もかもが安くて充実している。
「リスリス衛生兵、食材がいろいろあって迷いますね!」
「ええ」
広い市場の露店を見回し、一瞬でお買い得商品を探す。
「あ、山栗が安いですね」
一粒が大きくて、殻もツヤツヤしている。これは買うしかない。
「山栗はそのまま煮てもおいしいですし、甘露煮にしたり、シロップ漬けにしたりしてもいいですよね」
「リスリス衛生兵の話を聞いていると、食べたくなります」
ずっしりと重い一袋を購入した。ウルガスはしっかりと荷物持ちの役割を果たしてくれる。
他に、塩豚や燻製肉を作るために、猪豚のブロックを購入する。
パン粉に、塩、コショウ、豆類、試食して美味しかった芋チップスなど、大量に食材を買い集めた。
ウルガスが両手に荷物を抱える状態となってしまった。
「ウルガス、半分持ちましょうか?」
「いや、いいっす。俺、荷物持ちで来たので」
「そうですか。助かります」
「買い物はこれで終わりですか?」
「はい」
騎士舎に戻ると、すぐに調理に取りかかる。
『パンケーキノ娘ェ、アルブムチャンモ手伝オウカ?』
出たな、食いしん坊妖精。
買ってきた食材を前に、アルブムは目を輝かせていた。
下心が見え見えである。
「アルブムはとりあえずそこで見学していてください」
『ハ~イ!』
栗は三分の一は熱湯に浸けて、三分の二は茹でる。
熱湯に浸けたほうは、十分ほどで湯を切り鬼皮と渋皮を剥く。
皮剥きはアルブムに手伝ってもらった。
『皮、湯ニ浸ケルト、チョット剥キヤスク、ナルンダネ』
「そうなんですよー」
『山栗ッテサ、イガイガ付イテ、イルジャンカ』
「そうですね」
『アレ、取ルノ大変ナノニ、サラニ、中ノ皮モ硬クテ、アルブムチャン、キイ~~ッ、テナッテイタノ!』
森の小動物のちょっとした悩みなのか。
イガイガは足で踏んだら簡単に取れたけれど、アルブムはそうもいかなかったのだろう。
『デモ、山栗ッテ、煮タラ、驚クホド、オイシクナルンダネ!』
「そうですね。生で食べるより、ずっとおいしいです」
皮を剥いた山栗は、十五分ほど茹でる。
煮立った湯を捨て、今度は砂糖とちょっとだけの塩を入れてじっくり煮込む。
「よし、こんなものですね。『フォレ・エルフ風・山栗の甘露煮』の完成です!」
『ワ~~! 甘イ匂イ!』
手伝ってくれたアルブムに一粒あげた。
「アルブム、あ~ん」
『ア~ン、ムグッ!』
アルブムは頬に手を当て、目をキラリと輝かせている。
おいしかったのだろう。
もう一つの鍋の山栗は、先ほどと同じように皮を剥く。
ボウルに栗を入れ、麺棒ですり潰す。
「これが、けっこう力仕事、なんですよね」
『アルブムチャンガ、混ゼヨウカ?』
「お願いします」
選手交代だ。
アルブムはけっこう力があるので、瞬く間に山栗を潰してくれる。
次に、鍋に潰した山栗に砂糖と牛乳を入れ、火にかけながら練るのだ。
これも、ふんわりと甘い匂いが漂う。
『イイ匂イ~~』
「ですね」
混ぜるのはこれくらいでいいのか。
題して『フォレ・エルフの冬籠り山栗ペースト』の完成だ。
どちらも瓶に詰めたら、数ヵ月保つ。
鍋にこびりついた山栗ペーストを、私の私物のクラッカーに載せた。
「アルブム、どうぞ」
『エ、イイノ~?』
これが目的だったくせに。
「いいですよ」
『ワ~イ!』
私もアルブムと一緒に、味見をする。
何回も作っているので、間違いないんだけれどね。せっかくなので。
サクサクのクラッカーに、ねっとりとした山栗のペーストが絡み合う。
素朴な甘さが、またクラッカーに合うのだ。
サクサク、サクサクとアルブムと共に無言で食べてしまった。
美味しいものを食べる時は、無口になってしまうのだ。




