謎の遺跡 その三
「ぎゃっ!!」
『ワ~オ!!』
我ながら、蛙が潰れたような声を上げてしまった。どこから出たのか、自分でも分からない。
それにしても、かなり乱暴な転移魔法だ。シエル様の時は、こんな風じゃなかったのに。
「い、痛たた……」
結構高い場所から落とされた気がする。受け身は取れなかったけれど、幸い怪我はないようだ。
ここは、いったいどこなのか。
周囲は真っ暗だ。何も見えない。
というか、人の気配がない。
もしかしなくても、私はみんなと離れ離れになってしまったようだ。
『ムググウ……』
「!」
何かの声が聞こえた。もしや、魔物なのか……?
残念ながら以前購入した鈍器のような武器は重く、使いこなせないので置いてきてしまった。
代わりに魔棒グラを持ってきているものの、これは武器にはならないだろう。
だんだんと、闇に目が慣れてきた。周囲の様子が少しだけ分かるようになる。
ここは、石造りの小部屋のようだ。すぐ目の前に、木製の扉がある。
『ウググ』
「ひやっ!」
くぐもった魔物の声をよくよく聞くと、すぐ近くから聞こえてきた。
ここで、妖精鞄ニクスがもぞりと動く。
「え!?」
ニクスが自立したかと思ったら、違った。ニクスの下に、何かがいるのだ。
『プハァ!!』
その声とぼんやり浮き上がった白い影は見覚えがある。
「えっと、アルブムですか?」
『ソウダヨ!』
「……」
なんと、アルブムが一緒に転移していたようだ。
「アルブムか……」
つい、本音が零れてしまった。
と、ここで、少し離れた場所からドコドコと物音が聞こえた。
「この音は──もしかしてスラちゃん!?」
音を頼りに手探りで探すと、ツルリとしたスラちゃんの瓶を発見した。
「スラちゃん! よかった!」
発見してもらえたのが嬉しいのか、ドコドコと連続で瓶の蓋を叩いていた。
嬉しくって、頬擦りして喜んでしまった。
この場に転移されたのは、私とアルブム、ニクスにスラちゃんだけだったようだ。
なんというか……戦力は非常に偏っている。
「ここ、何なんですかね」
『ウ~~ン、ワカンナイ』
真っ暗闇の中、膝を抱えて座り溜息を一つ。
「私達、ここにいたほうがいいんですかね?」
『魔物ガイルカラ、デルノハ、危険ダロウケレド』
ただ、ここが誰もいない空間だった場合、いくら待っても助けはこないだろう。
「う~~ん」
どうしてこうなってしまったのか。頭を抱え込んでしまう。
「なんか、暗いと考えも後ろ向きになります」
そう呟いたあと、スラちゃんがドコドコと蓋を叩き始める。
「ん? スラちゃん、なんですか?」
暗いので、スラちゃんの身振り手振りが見えず言いたいことが伝わらない。
『パンケーキノ娘、ソノスライム、何カ灯リニナルヨウナ物、持ッテイルンジャナイカッテ、言ッテイルンジャナイ?』
「灯りになるもの?」
角灯はリュックサックの中に入れていたが、転移のさいに紛失してしまった。ニクスの中には食材と調理道具しか入っていない。
「灯りになる食材なんて──あった!!」
それは以前、魔物退治で出かけた『メリキア神殿』で発見した幻灯の実だ。
これを食べると、体が発光するのだ。スラちゃんに与えると、スラちゃん灯となる。
何かに使えるかもしれないと、多めに採ってニクスの中に保存していたのだ。
今の今まで、すっかり忘れていた。
ニクスが幻灯の実を出してくれる。
「ありがとうございます」
『いいよん』
幻灯の実を受け取り、スラちゃんへと差し出した。
「スラちゃん、幻灯の実、食べてくれますか?」
もちろんだと言わんばかりに、瓶の蓋をドコドコと叩いてくれる。
「ありがとうございます。助かります」
蓋を開いて幻灯の実を瓶の中に落とす。すると、スラちゃんがほのかに光り出した。
「なんだか、ホッとする灯りです」
スラちゃんのおかげで、ひとまず安堵することができた──って、このままじゃいけないんだけれど。
「まずは、アメリアとステラを呼べないか試してみますね」
契約の強い繋がりを信じて──。
「アメリア! ステラ!」
……沈黙。
何回か呼んでみたものの、何も起きない。契約印に触れても、意思の疎通はできなかった。
魔法の仕掛けがあるような場所なので、どこかで妨害されているかもしれない。
「アメリアとステラは大丈夫でしょうが、エスメラルダは……」
単独での転移も心配だけど、誰かと一緒の場合も心配だ。
ツンツンツーンとしていなければいいけれど。
『ジャ、トリアエズ、姿ト気配消シノ魔法ヲカケルカラ、ジット、シテイテネ』
「姿と気配消しって、アルブム、そんな魔法使えるのですか?」
『ウン。アルブムチャン、ナカナカ、捕マラナカッタデショ?』
樹液が取れる森で、人から食べ物を盗んでいた悪戯妖精だったアルブム。
言われてみれば、捕まえられないというので、第二部隊に役目が回ってきたんだった。
「姿と気配消しの魔法──目には見えないって高位魔法だったような。アルブムって、もしかしてすごい妖精なのですか?」
『フフン、マアネ!』
アルブムは腰に手を当て、誇らしげに胸を張っている。
ただの食いしん坊妖精だと思っていたけれど……。
『ジャ、呪文ヲカケルヨ』
「お願いします」
アルブムは両手をくるくると回し、何やら呪文を呟いている。
『光ヨ、遮レ! 目ニハ見エナイ!』
アルブムと私、スラちゃんの前に魔法陣が浮かび上がり、パチンと音がなって弾けた。
これで、私達の姿や気配は遮断されたようだ。
『ヨシ、行コウ!』
いつになく、アルブムが頼もしく見えた。




