シエル様とキノコ狩り! その一
旧エヴァハルト邸に帰宅すると、二頭の山猫ブランシュとノワール、それからシエル様が出迎えてくれた。
『にゃあ、にゃあ!』
『にゃう、にゃう!』
「む。戻ったか、ご苦労だった」
すごい……。
何がすごいのか説明すると、白銀と黒銀の山猫を従えた白銀製全身鎧のおじいちゃんが、なんだか神々しく見えたという点である。
バサァとマントをはためかし、カッコよく去って行く。
わざわざ声をかけるためだけに、来てくれたようだ。
コメルヴはどこにいるのかと思えば、シエル様のマントにぶらさがっていた。
ぷうぷうと鼻風船を膨らませながら、眠っている。
シエル様はピタリと歩みを止め、振り返った。
「ああ、そうだ。リスリスよ」
「はい?」
「明日は、休日か?」
「そうですけれど」
「突然であるが、キノコ狩りに行かぬか?」
なんでも、シエル様の領地に、キノコがたくさん生えるキノコの森があるらしい。
そこには数百種類のキノコが自生しているようだが、どれが食べられるキノコで、どれが食べられないキノコなのか判別がつかないらしい。
「キノコの森……素敵ですね! 行きたいです!」
「ならば、他の者にも聞いておこう」
他の者とは、ザラさんとリーゼロッテのことである。
そんな、シエル様が直々に聞くなんて。
「二人に用事があるので、私が聞いてきますよ」
「む、そうか。では、頼む」
「了解です」
リーゼロッテとザラさんにキノコ狩りに行かないかと誘いに行ったが、残念なことに二人共予定が入っていた。
ザラさんは山猫二頭の定期健康診断。リーゼロッテは幻獣保護局で健康診断の見学をするらしい。
「キノコの森、メルちゃんと行きたかったわ」
「ザラさんの代わりに、たくさんキノコを収穫してくるんで」
「ええ、ありがとう。でも、無理しないでね。採取中は無防備になるから、アメリアやステラと、離れないように気を付けて」
「ありがとうございます」
アメリアとステラは来るとして、他はどうするのか。
『エ、キノコ狩リ? アルブムチャンモ、行ク!!』
アルブムは食べられるキノコの種類に詳しいようで、主戦力となりそうだ。
一方、エスメラルダはじめじめしていそうだから、留守番していると言っていた。
『キュキュウ』
本当は「ついて行ってあげたいんだけれど」となんとも上から目線で言ってくれる。
『魔石獣、何モデキナクテ、足手マトイニナルカラ、パンケーキノ娘ノ、負担ニナリタクナインダヨネ』
『キュキュ~~!!』
『ワア!!』
アルブムが勝手に内なる心境を語ったので、エスメラルダは毛を逆立てて怒っていた。
身の危険を察したアルブムは、触らぬ神に祟りなしならぬ触らぬエスメラルダに祟りなしとばかりに距離を取る。
『キュウ~~!』
「だ、大丈夫です。気が乗らないので行かないだけですよね? わかっていますよ」
『キュウッ』
エスメラルダはチラチラと様子見するアルブムを威嚇し、お気に入りの天鵞絨を張った籠に戻っていった。
そんなわけで、明日はシエル様と森の仲間達でキノコ狩りに出かけることとなった。
◇◇◇
翌日。
森の中の散策なので、長袖長ズボンを着用し、上から薄い外套を羽織る。少々熱いが、虫もいるし、刺がある植物もあるのでこれくらいしないといけない。
鏡に映った姿は超絶にダサいけれど、気にしたら負けだ。
アメリアも分厚い素材の帽子とケープを銜え、侍女さんに付けてもらうように頼んでいる。
ステラがどのケープにしようか迷っていたら、アメリアはこれがいいと爪先で指し示して助言していた。
なんという、仲良し姉妹なのか。
ステラはアメリアが選んでくれたケープにしたようだ。
アルブムは左右の手に、鉄串を二本持って立っていた。
「アルブム、それ、武器ですか?」
『ウウン。キノコ焼ク串。厨房カラ、借リテキタ』
「用意周到なことで」
現地でのお昼は、キノコ尽くしでもいいかもしれない。
私も厨房から道具や調味料を持ち出すことにした。
鍋やおたま、コップなどは当たり前として、塩コショウにバターにチーズ、薬草などもどんどん妖精鞄ニクスの中に詰め込んだ。
これで、準備は万端である。
集合時間となったので、庭に足を運んだ。
シエル様は、石畳の上に大きな魔法陣のようなものを描いていた。
「リスリス、来たか」
「はい」
「いい天気でよかったな」
「そうですね」
「まあ、領地は曇天、悪くて雨天だろうが」
「キノコの生える環境なので、仕方がないですよね」
「うむ」
シエル様が魔法陣を描いたあと、コメルヴが蜂蜜を垂らしていっている。
いったい、これはなんなのか。質問してみた。
「あの、シエル様。この魔法陣は、なんですか?」
「転移魔法だ」
「て、転移魔法ですか!?」
選ばれし賢者しか使えないという高位魔法を、シエル様は使えるというのだ。
さすが、大英雄。
『マスタ、準備できた』
「感謝するぞ」
転移魔法はコメルヴの力を借りて行うようだ。
「では、行くぞ。皆、魔法陣の中へと入れ」
アメリアやステラが入れるように、大きな魔法陣を描いてくれたようだ。
シエル様が呪文を唱えると、魔法陣が淡く光る。
ふわりと体が浮いたかと思えば、腕をぐいっと引かれる感覚に思わず大絶叫してしまった。




