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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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220/413

骨董市にて その一

 本日も隊長の眉間にガッツリ皺が刻まれている。ということは、今日も遠征だろう。

 先ほど、ウルガスが「今日の日替わり定食、炙り肉なんですよお~~」だなんて喜んでいたけれど……。

 隣のウルガスは、まだ気づいていない。これから遠征任務ということに。

 隊長は淡々と、騎士隊全体の報告事項を読み上げている。

 記念式典についてや、街中での騒ぎについて、年に一度のギルド監査などなど。

 そして最後に、本日の任務について発表された。


「これから遠征に向かう」


 視界の端に映るウルガスの表情が、一瞬にして消えた。

 やはり、遠征任務の可能性にまったく気づいていなかったようだ。


「本日向かうのは、モンリテールで行われている骨董品市場だ」


 モンリテールは王都から馬車で一日半の距離にある、商業都市だ。街中に運河が通っており、品物は船で運ばれるらしい。

 船に乗って回る、船上商店街は国内でも有名なんだとか。

 そのモンリテールで、違法薬物の取引が行われている疑いがあるとのこと。


「壺や茶器の入った木箱に薬を入れて売っているんだとよ」


 私達の任務は、骨董品市場で違法薬物を発見すること。


「ただ、この骨董品市は国内最大規模で行われる大取引会で、とんでもない数の商店が参加している」


 当然ながら、任務に向かうのは第二部隊だけではない。

 現地には多くの騎士が派遣されるらしい。


「もちろん、騎士隊の装備ではなく、各々変装して向かうことになっている」


 諜報部隊の衣装部が、服を貸してくれたらしい。

 私達隊員の寸法に合うものを、無差別に持ってきたようだ。

 各々、服が入った袋が手渡される。


「中身は移動する時にでも確認しろ」


 いったいどんな服が入っているのやら。気になるけれど、ぐっと我慢だ。


「続いて、任務について説明する。まず、調査は二人一組で行う」


 出た。いつもの二人一組任務が。しかし、遠征先で組むのは初めてかもしれない。

 私はだいたい隊長と組まされることが多い。

 果たして、今回はどうなっているのか。


「俺と組むのは、ウルガスだ」

「あ……はい」

 

 ウルガスは隊長の話をきちんと聞いているのだろうか。いまだ、瞳が失意に濡れているようにも見えるけれど。


「アートは、リヒテンベルガー、ガルはスラと、そして、ベルリーとリスリスだ」


 おお、なんだか珍しい組み合わせかもしれない。


「今回、妖精、幻獣組は留守番とする」

『エ~~!?』


 驚きの声をあげたのは、アルブムだ。エスメラルダは目を細め、隊長を睨んでいる。

 なんでも、幻獣や妖精を連れていると目立つからなんだとか。


「今回は潜入調査だからな。すまんが、幻獣保護局で大人しくしていてくれ」


 隊長が「お~い」と声をかけると、幻獣保護局の局員が入ってきた。みんなを迎えに来てくれたようだ。

 アメリアやステラは、大人しく従う。

 アルブムは『イヤダ~~、アルブムチャンモ、任務ニ行ク~~!!』と叫んでいたが、「お食事のご用意がございます」と言ったら『ア、ハ~イ』とあっさり従っていた。

 アルブムよ、あまりにもチョロすぎるぞ。

 私が抱いていたエスメラルダも、幻獣保護局のお姉さんが持っている天鵞絨ビロードが敷かれた籠の中に入れた。


『キュ!?』


 エスメラルダは、信じがたいという視線を私に向けていた。

 仕方ないではないか。

 エスメラルダみたいな艶々毛並みの可愛いウサギさんを連れていたら、注目が集まってしまう。

 潜入調査なので、目立ってはいけないのだ。


『キュキュウ、キュキュキュ!?』


 いや、『私と仕事、どっちが大事なのよ!?』と言われましても……。

 生活があるので、普通に仕事が大事です。


 エスメラルダ用の食事は、旧エヴァハルト邸に置いてある私が作った保存食を食べてもらうことになった。


「エスメラルダ、いい子にしているのですよ」

『キュウ、キュキュ~ウッ!!』


 エスメラルダは『帰って来たら、覚えてなさい!!』とか言っていた。ぜんぜんいい子じゃない。


「すみません、手間取りまして」

「いや、いい。それだけ、幻獣と人の繋がりは強いのだろう」


 そういえばアメリアも、小さい頃は私と離れたがらなかった。

 エスメラルダよりは、可愛い規模のイヤイヤだったけれど。

 もう少し一緒に過ごしたら、親離れ(?)するかもしれない。


 そんなこんなで、私達は遠征任務に就くことになった。


 ◇◇◇


 まず、ガルさんが馬車の御者を務めるようだ。

 安全運転に定評があるので、平和な道中になるだろう。

 

 青空の下、馬車は走り出す。


「あ、そういえば、変装の確認をしていませんでした」


 袋を取り出し、広げてみる。


「私のは──あ、メイドですね」


 帽子にブラウス、エプロンドレスにリボン、靴下が入っていた。

 ブラウスの袖口やスカートの裾にフリルがあしらわれていて、可愛いらしいお仕着せだった。


「リスリス衛生兵に似合いそうだな」

「本当! メルちゃんが着たら  、可愛いと思うわ」


 ベルリー副隊長やザラさんは褒めてくれたけれど、一人だけ視点が違う人がいた。


「その服、まったく機能的じゃないわね。そんなにフリルがついているメイドの仕着せなんて、見たことがないわ」


 リーゼロッテから鋭い指摘があった。たしかに、可愛さを重視していて、お茶を淹れる時とか袖口のフリルが邪魔になりそうだ。


 ちなみに、隊長はメイドの仕着せの細かい点は気にしていなかったらしい。女性ならではの視点だろう。


 続いて、私と組むベルリー副隊長の服装を確認する。


「私のは……男性用の昼用礼装フロックコートだな」


 ああ、絶対カッコイイ! 絶対似合う!

 なるほど。私とベルリー副隊長はご主人様とメイドという設定のようだ。


「私のも、アンナと同じような服が入っているわ」

「私はドレスよ」


 ザラさんも昼用礼装。リーゼロッテはドレスらしい。


「二人は骨董市にやってきた、夫婦設定だ」


 隊長の言葉を聞いたザラさんとリーゼロッテは、同時に嫌そうな顔をする。

 二人は顔を見合わせ、同時にため息を吐いていた。


「任務だから……仲良くやりましょう」

「そうね……任務だから、きちんとしなくては」


 最後に、隊長とウルガスの服を確認した。


「あれ、俺も、アーツさんやベルリー副隊長みたいな昼用礼装です」


 対する隊長は、従僕の仕着せが入っていた。


「ってことは、俺が主人で隊長が使用人って設定ですか!?」

「みたいだな」

「うわあ……」


 それも、気が重たいだろう。


「ウルガス、お前、堂々としていろよ。ビクビクしていたら、バレるからな」

「うう……」


 楽しみにしていたお肉は食べられないわ、隊長に脅されるわで、ウルガスが不憫になった。

 昼食はそんな彼を元気つけるための料理を作ることにした。


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