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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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チーズ&ベーコンのホットサンド

 隊長は雪山で縄を引いていた。縄で繋がれた者がきちんと歩いているか、振り向いて確認する表情は険しい。まるで山賊だ。

 足元の悪い雪道をやる気なく歩く、縄に繋がれた者達。

 隊長はだらだら進む者達に我慢の限界だったのか、縄をぐんと強く引いた。


「おらっ、さっさと歩け」

「うっ、うう~~」

「うわっ! ひ、酷い……」


 涙目、涙声になる続く者達。誰かと言えば、私とウルガスだ。

 なぜ、罪人のように縄で繋がれているかと言えば、再び雪山を登ることを嫌がったからだ。

 繊細な私とウルガスは、雪熊の衝撃から立ち直れないでいる。けれど、隊長は容赦しない。嫌がる私達を縄で一列に繋ぎ、罪人のように無理矢理連行し始めたのだ。

 そんなわけで、半泣きで雪山に入ったのである。


 ベルリー副隊長が可哀想だと言ってくれるが、隊長は甘やかすなと切って捨てる。

 ザラさんはおんぶしてあげようかと優しく聞いてくれたけれど、丁重にお断りした。

 そのやりとりを聞いていたウルガスが、うんざりとした口調で言う。


「俺はおんぶして欲しいです」

「あら、いいわよ」


 まさかの了承にたじろぐウルガス。断られると思っていたのだろう。

「やっぱりいいです」と、やんわり辞退していた。


 一行はわりと死んだ目で雪道を進んでいく。

 雪国暮らしのザラさんのみ、なんてことないという表情でいたけれど。


 貴族のお坊ちゃん捜索から一夜明けた。昨日の悪天候とは打って変わって、晴天である。

 辺りは一面銀世界。太陽の光を受けて雪面はキラキラ輝いているが、それは時として人の命を奪いかねない、残酷な美しさなのである。 


「隊長、荷物はともかく、雪熊は放っておきましょうよ~、生きていたらどうするんですか?」


 ウルガスの必死の訴えも、隊長は聞き入れない。

 なんでも、中位~上位魔物を倒せば、勲章をもらえるらしい。けれど、討伐した証拠も必要なのだ。

 隊長は雪熊の首を持ち帰ると朝から張り切っている。


「悪天候、危険な目に遭ってまで倒したんだ。報告書にはウルガスの一撃で倒したと書いておく」

「いや、止めてください。変に周囲から期待かけられても困るので」

「給料も上がるから、大人しく書かれておけ」

「嫌だ~~」


 ウルガス、繊細な青年よ。

 私はお給料を増やして欲しいので、雪熊の足音を聞き分けた功績をしっかり書いておくようにお願いした。


 二時間ほど歩いたところで、昨日放棄した鞄などを発見。ガルさんが探し出してくれた。吹雪いていたので、雪の中から掘り起こすことになったけれど。

 無事に荷物を回収し、すぐに雪熊捜索に移る。

 荷物があった辺りが戦闘場所だけど、雪がたくさん降ったので雪熊の血痕は綺麗になくなっている。これもガルさんの鼻頼りの捜索が始まった。


 雪熊は負傷してから結構歩き回っていたようだ。


「ウルガスの矢って、全部毒矢なんですか?」

「いえ、違いますよ。毒矢は高価なので、滅多に使いません」

「なるほど」


 毒矢は騎士隊の弓使いに支給される物らしい。


やじりは魔石で作られていて、魔物の血に反応して毒を発生させる特殊な物なんですよ」

「へえ、そんな凄い矢があるんですね」


 国家機関である、魔物研究所が製作をしている武器らしい。

 使用した場合は報告書を上げないといけないので、若干面倒なのだとか。


「魔物研究所、ねえ」


 ザラさんが意味ありげな呟きを漏らす。


「あの、魔物研究所ってどんな施設なんですか?」

「言葉のとおり、魔物の研究に血眼になっている奴らの巣窟よ」


 とある大貴族の支援を受けて活動している機関なんだとか。


「魔物の死骸を持って帰って来いってしつこいのよ」

「それは……凄いですね」


 ザラさんの知り合いがいるらしく、遠征部隊に配属されたと知った途端に頼んでくるようになったらしい。気の毒なお話で。


 そんなお話をしていれば、ガルさんの動きが止まる。少し先に、一部がこんもりと盛り上がっている場所があった。


「もしかして、ここの下に雪熊が?」

「みたいだな」


 隊長は手にしていた縄をぺいっと捨て、剣で雪を掘り起こす。

 自由の身となった私とウルガスは、ゆっくりと後ずさりしていった。 


 隊長、ベルリー副隊長、ガルさん、ザラさんはザックザックと獲物で雪熊を発掘していた。

 少しずつ全貌が明らかになる。

 ものの数分で、巨大な雪熊を雪の中から掘り出していた。


「よし、首を落とすぞ。ザラ、斧を貸せ」

「嫌よ。刃が駄目になりそう」

「剣は硬い物を叩き落とすのに向いていないんだよ」

「じゃあ、剣がダメだったら貸してあげる」


 そんなやりとりをして、剣でガンガンと熊の首を斬り落とそうとする隊長。

 その後ろ姿は、騎士団正規の隊員にはとても見えない。


「うわあ、凄く山賊」


 私のわりと失礼な感想に、ウルガスは深々と頷きながら「同感です」と言っていた。

 結局、隊長の剣では斬れなかったようで、ザラさんの斧で首を斬ることになる。

 死後硬直をしていて、さらに凍っていたのでなかなか苦労しているようだった。

 やっとの思いで雪熊の首を斬り取る。

 雪熊の首を回収できたので、隊長もホクホク顔であった。


 首から下の雪熊は再び雪の下に埋められることになる。最後に聖水を掛ければ、他の魔物も寄って来ないだろう。首にも同じように聖水を振りかける。

 首は敷物に包んで、隊長とガルさんの二人掛かりで引いていくらしい。

 布が足りなくて、鼻先だけはみ出ているのが可愛いような。可愛くないような。

 いや、可愛くないか。

 そんなわけで、本日の任務は無事終了。あとは山を降りるだけだったが――ここで食事にしようと言い出す隊長。


「雪熊の頭部を囲んで食事をするなんて……」

「別に囲まなくても、向こうに置いておけばいいだろう。空腹状態で下山するのも良くない」

「うう……」


 確かに、空腹だった。けれど、雪熊を見れば食欲が減退していく不思議。

 途中で倒れたりしたら迷惑になるので、渋々と鞄からパンを取り出す。干し肉と交互に齧りながら下山すればいいと思っていたが――


「あ!」

「どうした?」

「パンがカチコチになっています」


 なんと、驚いたことにパンは凍って硬くなっていた。昨日と違い、薄い革製の肩掛け鞄に食料を入れていたのが良くなかったのか。

 なるほど。雪山遠征だとこういうことも起きるのかと、納得した。

 隊長はカチコチパンを見下ろし、思いっきり顔を顰めた。


「スープでふやけたパンはもう食いたくない」

「我儘ですね」


 凍ったパンを見た瞬間、スープに入れようと考えていたのに、隊長からダメ出しを受けてしまう。

 仕方がないので、ちょっと手間が掛かる調理を行うことにした。

 雪原で調理するのは難しいので、この前発見した洞窟まで移動する。

 そこで、ガルさんとウルガスに焚火作りをお願いした。


 まず、厨房係の騎士のお兄さんから受け取ったバターの入った壺を取り出す。


「なんだ、それ?」

「バターです」


「雪山で体調がヤバイと思ったら、バターを舐めろ!」と熱血な感じで渡されたのだ。

 スープにバターをドカ入れしたのはお前だなと、心の中で思った。まさか厨房係にバター信者がいたとは思いもしないだろう。


「なんでバターを持たされたんだ?」

「手っ取り早く栄養分を吸収できるからでしょうね」


 バターにはたんぱく質、脂質、炭水化物、塩分など、さまざまな栄養分が含まれているのだ。でも、直接口にするのはなかなか辛い。


 調理に戻る。

 凍ったパンに薄切りにしたチーズと燻製肉、黒胡椒を振った物を挟んだ。

 それから、熱した鍋にバターを、バターを……。


「ぐぬぬ……」


 バターも凍っていた。鉄の匙がぜんぜん入って行かない。


「メルちゃん、貸して」

「あ、ありがとうございます」


 ザラさんは壺にぐいぐいと匙を入れ、バターを鍋に落としてくれた。

 温まった鍋の中で、じゅわっと音が鳴る。

 バターを広げ、凍ったパンにチーズと燻製肉を挟んだ物を入れる。

 あとは熱しながら、ヘラでぎゅうぎゅうと押して焼くだけ。

 ほどよい焼き色が付けば、完成だ。


「チーズと燻製肉のサクサクサンドです!」


 隊長はなるほどな、と言って受け取る。

 一度に二枚分しか焼けないので、もう一枚は本日の功労者であるガルさんにあげた。

 隊長は猫舌なのか、ずいぶん慎重にふうふうしてから噛みついていた。


「熱っ……!」


 どうやら冷ます時間が足りなかったようだ。顔が真っ赤になっている。

 ザラさんがアツアツのお茶を差しだしていた。


「お前っ、俺が熱いの苦手なの知っているだろう!?」

「あら、そうだったかしら?」


 今まで食べるのに夢中で、隊長が猫舌なことに気付いていなかった。これは良い発見。

 そうこうしているうちに、新たなパンが焼けた。

 今度はベルリー副隊長とザラさんにと思ったが。


「ウルガス、先にどうぞ」

「いいんですか?」

「ええ」


 なんて優しい人のか。ウルガスなんて、私と一緒に駄々をこねて何もしていなかったのに。

 それどころか、私にまでその優しさを示してくれる。


「次、私が作ってあげる。熱くて大変でしょう?」

「えっ、あ、はい。ありがとうございます」


 なんと、ザラさんは作り方を見ていて覚えていたらしい。器用にパンを焼いてくれた。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ザラさんお手製のパンを頬張る。


「うわっ、すんごい!」


 力の掛かり方が私と違うからか、表面はカリッカリだった。

 中からはアツアツとろ~りなチーズが出てくる。塩気の利いた燻製肉との相性は抜群。

 パンからはみ出たチーズも、香ばしくカリカリで美味しい。


 なるほど。力の入れ具合でここまで食感が変わるとは。

 その後、ザラさんと交互に焼きサンドを作った。

 私が作ったサクフワサンドはウルガスとベルリー副隊長に好評で、ザラさんが作ったカリカリサンドは隊長とガルさんの支持を得る。


 普通のサンドイッチよりも面倒だけど、たまに作るのはいいかなと思った。


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