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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第1章 星空の誓い

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第4話 初めての街

峡谷を抜けたとき、リュミナは目を細めた。

久しぶりの光が、まるで別の世界のように眩しかった。


瓦礫の向こうに、石造りの外壁が見える。

街――それは、彼女がこの惑星で初めて目にする文明の灯だった。


「……着いた。境界都市ザルドだ」


アレンは微笑み、背負ったリュックの紐を締め直す。


「長かったな。……お前も、よく頑張った」


「あなたが無茶をするからです」


「でも助かった。ありがとな、リュミナ」


リュミナの猫耳が、ぴくりと動いた。

不思議と否定の言葉が出なかった。


(……感謝されるの、嫌じゃない。あれ?)


ここに来るまでにも、何度もモンスターに襲われた。

だが、アレンがほとんど一人で撃退した。


確信した。


彼は弱かったんじゃない。

彼は人知れず努力を積み重ねてきた。

だけど誰からも認められず、自信を持てず。


結果的に卑屈な方向にねじ曲がっていったんだ。

だが、レーザーブレードを手にしたことで、

そしてリュミナが彼を認めたことで、

――彼は、自信を取り戻した。


門前に立った二人に、衛兵の視線が注がれた。


「おい、アレンじゃねぇか! お前、生きてたのか!?」

鋭い声に振り向くと、革鎧姿の男が駆け寄ってきた。

アレンの友人の衛兵バールだ。


「お前、死んだって聞いたぞ。

 グレンたちが妙な顔で帰ってきたからな!」


「……死にかけたのは事実だ。九死に一生を得たよ」


アレンは苦笑しながら肩をすくめる。


「でも、もうあのパーティは抜けた。

 ……俺には、やりたいことができたからな」


バールは眉をひそめ、リュミナに目を向ける。


「そっちは?」


アレンが一歩前に出た。


「訳ありなんだ。彼女はヒューマンとビーストのハーフだ」


一瞬、空気が張り詰めた。

バールが小さく息を呑み、他の衛兵が顔を見合わせる。


(……やっぱり。この星では差別構造は健在。

 ヒューマンハーフはギフトを持たない平凡種、つまり“劣化種”)


だがアレンは怯まなかった。


「命の恩人だ。俺が保証する」


その声に、バールは渋々頷いた。


「……わかった。通れ。だが、余計な揉め事は起こすなよ」


二人は無言で街へ入った。


・ ・ ・


街の喧騒に、リュミナの耳が忙しく動く。

馬車の音、商人の呼び声、焼きパンの香り。


「……空気、汚れてる。

 いや……違う。刺激が多い」


「はは、都会は初めてか?」


「と、都会……?」


(これが??こっちの人の文化感覚、たまに面白い)


アレンは笑いながら、路地の先を指さした。


「まずは飯だ。腹、減ってるだろ」


「い、いい。私はそんなに──」


──ぐぅ。


リュミナの猫耳がぱたん、と伏せた。


「……鳴ってない」


「ははっ。嘘が下手だな」


・ ・ ・


入ったのは木造の食堂。

テーブルを叩く笑い声、皿の音、香辛料の匂い。

アレンが注文を済ませ、リュミナの前にスープ皿を置いた。


「口に合うといいけど」


「……ありがとう」


スープを一口。

リュミナの目が、ぱっと見開かれた。


「……っ、なにこれ。うま……」


猫耳がぴくぴく、パタパタと揺れる。


アレンが笑う。


「気に入った?」


「……うん。すごく」


リュミナはスプーンを止められない。

夢中で三口、四口と。


(あれ、私、こんなに食べるの好きだったっけ?

 あ、でもこれ、帝国の栄養ペーストより全然美味しい……)


「もっと食べるか? おかわり頼むぞ」


「え、いいの?」


「ああ。遠慮するな」


リュミナの耳が、ぴんと立った。


(……この人、優しい)


「ふふっ。耳、正直だな」


「なっ、見るなっ」


頬が熱くなり、耳が伏せた。


アレンは優しく笑う。


「美味しそうに食べる顔を見るのは楽しいな。」


「……あなた、観察魔ですか?」


「そうかもな。仲間のことをよく見ておくのは、冒険者の基本だ」


(……仲間。私のことを、そう言うんだ)


・ ・ ・



食事を終え、二人は雑貨通りへ。

アレンが前を歩き、武具や布地の露店をひやかしていく。


「服、約束してただろ。街に戻ったら買ってやるって」


「……覚えてたの?」


「もちろん。あの白衣、もう修復できないだろ?」


「……うん。焼けた」


アレンは少し考えて、行きつけの防具屋に入る。

そして黒と金のローブを手に取った。

魔力素を帯びた、程よい装飾が施されていて、高位魔術師装備に見える。


「これなんてどうだ? 軽いし、戦闘にも向いてる。

 それに……その髪色に合う」


猫耳が、ぴくっ。


(……また、“似合う”とか言う)


「……軽いのはいい。機能的。……でも」


「でも?」


「……ありがと。受け取る」


ローブに袖を通した瞬間、リュミナの耳がふわっと立った。


「……変じゃない?」


「いや。すごく、似合ってる」


「……そ。なら、いい」


視線を逸らして、耳をぱたんと寝かせた。


(この惑星、干渉したくないのに……心のほうが先に動く。

 そういえば私、勉強ばっかで恋愛とか、あまりしてこなかったなぁ。

 これって買い物デート? 何考えてんだ!?)


急に顔を赤らめた。


「どうした?」


「何でも……ない。」


・ ・ ・


夜。

宿の屋根裏部屋。

街の灯が小窓から見える。


リュミナは新しいローブをたたみながら、

小さく息をついた。


「……この惑星、思ってたより“温かい”」


観測船から辛うじて持ち出せた端末が、

机の上に置かれており、微かに点滅する。

損傷した観測ログと本部からのメールを復旧させている。


リュミナは端末の光をそっと消した。


(報告書、書かなきゃ......

でも、何を書けばいいの?


"未開惑星で遭難。現地人に救助される。

制御装置が誤作動。命令に従う状態になった"


......これじゃ、笑い者だ)


外では、アレンが宿の手伝いをしている声がする。

笑い声。人の気配。


(でも、悪くない。

この声、もう少し聞いていたい)


耳が小さく揺れた。


──彼女の“観測”は、いつの間にか“恋”にすり替わろうとしていた。

穏やか回ですね。常にドタバタだと疲れちゃうので。

息継ぎできましたでしょうか?


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