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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第4章 未来へ

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第34話 決着の時

イグラートが押し出す魔剣が、アレンを斬り裂くのも時間の問題のように思われた。


「アレーン!!」


リュミナが叫ぶ。


「うぉぉぉ!!」


それに応えてアレンが最後の力を振り絞った。

イグラートの魔剣を少し押し返す。


だが、イグラートが顔に青筋を立てながらも、さらに力を籠める。

筋肉が大きく膨らんだ。まるで鬼人族オーガの特性のように。


「切り札とは最後まで残しておくものだ!」


イグラートが叫んだ。

アレンの最後の力押しを、その圧倒的な力で押し返そうとした。


……その瞬間


アレンは身をひるがえすと同時にレーザーブレードを停止トリガを押す。


一瞬でレーザーブレードの刀身が消える。

そして反発力を失ったイグラートは完全にバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。

それをぎりぎり避けながら背後に回るアレン。


「切り札とは最後まで残しておくものだ!」


アレンがイグラートの言葉を返すように叫ぶと同時に、

逆手に持ち替えたレーザーブレードを起動させる。

再び光刃が現れ、そのまま背中からイグラートを刺し貫いた。


「がはぁっ!!」


どす黒い血を吐き出すイグラート。


「ば、バカな!?

 その魔法剣には刀身がなく……すべてが魔力素の塊だというのか!?」


この世界には魔力素を剣にまとわせる技術は存在するが、それを硬質化して剣にする技術は存在しない。

レーザーブレードを光の魔法剣と誤認したイグラートは――そこに限界があった。


そのまま、アレンがレーザーブレードの出力を最大にする。

光刃が太く輝き、イグラートの傷口を広げた。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!

 うぅぅ……無念……まさか……このようなゴミ虫に……。くそぉ………。」


ガターン


地面に魔剣が落ちて小刻みに震えている。


うなだれたイグラートはそのまま動かなくなった。

レーザーブレードを停止させると支えが無くなったイグラートが地面に倒れ伏した。

すでにこと切れていた。


全ての力を使い切ったアレンが、そのまま仰向けに倒れた。

リュミナが駆け寄り覆いかぶさった。


「アレーン!!アレンアレン!!」


もはや指先を動かすのも億劫と言わんばかりのアレンが、優しくリュミナの頭を撫でた。


「聞こえてるよ。大丈夫。約束は守った。」


涙でぐちゃぐちゃになった顔でリュミナは頷きながら、アレンに頬ずりした。


その時、北門から勝鬨が上がった。


「あちらも終わったようだな。」


苦しそうに呟いたアレンを無視してリュミナはずっと抱き締めていた。


北門の勝鬨が街全体に響き渡る。


リュミナはアレンを抱きしめたまま、周囲の景色に目を向ける。


空にはシエルの蒼い魔力が舞い上がり、北門の魔物たちは散り散りになっていた。

残骸や砕けた魔物の屍が地面を覆う。

遠くの建物の屋根の上から、街の守備兵たちや市民たちの歓声が聞こえた。


「皆……無事なんだ……」


胸にこみ上げる安堵と感謝。

リュミナは力なくアレンの肩に顔を押し当てる。

彼の呼吸はまだ荒いが、確かに生きていて、戦いは終わったのだと教えてくれる。


北門を抜けて広場へと目を向ければ、街の兵士たちが互いに抱き合い、勝利を喜ぶ姿があった。


シエルは魔法の残滓を静かに払いつつ、倒れた魔物を一掃している。

リュミナは胸が熱くなる。


「これが……私たちの勝利……」


アレンがゆっくりと立ち上がり、彼の視線は街全体を見渡した。

重苦しい空気が消え、青空が広がり、街は光を取り戻していた。

戦場だった場所も、少しずつ日常の匂いを取り戻していく。


「リュミナ……ありがとう。君がいたから、俺は最後まで戦えた」


アレンの言葉に、リュミナは涙をこぼしながら微笑む。

街の歓声と、仲間たちの安堵の声が、二人を包み込む。


空中では、散らばった魔力の残滓が光と共に消えていく。

シエルが振り返り、リュミナたちに微笑む。


浮遊して、二人の傍に舞い降りた。


「よくやったな、リュミナ。そしてアレン」


街全体が安堵と喜びの空気に満ち、まるで戦火の傷を癒すかのように、住民の声や笑い声が遠くで響き始める。


リュミナはアレンの手を握り、静かに頷く。


「これで……終わったんだね……」


「あぁ、全部な。」


アレンが力強く言う。

その言葉には、疲労と安堵だけでなく、街や仲間たちを守り切ったという誇りを滲ませた。


二人は抱き合ったまま、勝利の街の景色を見渡す。

空には青と光の魔力が混ざり合い、勝利の余韻を告げるかのように輝いていた。


戦いは終わった――そして、街には、確かな希望が残されたのだった。


・・・

・・


その夜、街全体で行われている勝利の宴を、早めに抜け出して、二人はいつものぼろ宿の一室に戻ってきていた。


リュミナはベッドの上に座った。そして少し俯いてナノクリーナーを起動した。

アレンは窓から外の喧騒を笑顔のまま、覗いている。


「あいつら、疲れてるはずなのに今日は寝る気がねぇな。」


「そうだね。」


アレンがゆっくりと窓を閉めて、笑顔のまま、リュミナの横に座った。


「なんか俺達英雄になっちまったな。お前は女神様だってよ。」


「はは……ゼログラヴィティリングはやりすぎたかもしれない。

 恥ずかしくて街を歩けなくなりそう。」


「あははは、そうだな。」


「ねぇ、アレン……。」


リュミナが少しだけ真剣な顔でアレンを見つめた。


アレンは何かを察したように、リュミナの頭に手を置いた。


「あぁ、一戸建て、買うよ。」


「え?あぁ、そ、そうだね。」


「だから、ちょっとだけ待ってくれ。今の俺達なら高額依頼だって受けられる。

 すぐに達成してやるさ。」


「……うん、待ってる。」


「あぁ、今日は疲れたなぁ、お前もだろ?

 明日から頑張って稼ぐぞ!!」


そういうとアレンはベッドに身を倒した。

まもなく寝息が聞こえる。


(そうよね……疲れてるよね。あんな激闘を繰り広げたんだし)


リュミナがアレンの頬に手を重ねた。


(アレン、ごめん……。多分今日が……、私があなたといられる最後の夜)


すっと涙が頬を撫でた。それに気づいたリュミナもベッドに身を倒した。

アレンに背を向けたまま、リュミナも目を瞑る。

涙が止めどなく流れた。




リュミナは覚悟している。

ここまで派手に暴れたんだ。

宇宙ステーションにもリュミナの存在は筒抜けのはずだ。


魔族領でデータ送信したことも仇となった。

データ送信元として神聖帝国はあの場所に注目しただろう。

そこから魔族襲来が発生したのだ。

監視の目を強めるに違いない。


そして――そこで奮闘するリュミナ。


これで見つからない理由がない。


明日にはどんな手を使っても拉致されるだろう。

監視ドローンは町全体、下水道の類にまで配置されているに違いない。


逃げようがないのだ。


だからこそ、今夜が二人でいられる最後の夜。


リュミナは、もう覚悟している。

どうすればアレンを守れるか。

自分だけで罪を背負えるか。


二人の生活はもはや終焉を迎えようとしていた。

幸せな終焉……とは至らない最悪の終焉


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― 新着の感想 ―
バトルがただ剣を振るというような感じでもなく、技や知恵で勝つというところがハラハラと達成感が掻き立てられて素晴らしいと思います。 なかなかこういう感じの知的なバトルはないので迫力があると思います。
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