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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第3章 逆恨み

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第27話 沈黙の魔族領と赤炎の脅威

魔族領、それは通常なら、踏み入れた瞬間に実力のない者ならば、命を落とす

――冒険者ギルドが警告を出す危険地帯だ。

けれど。


「……おかしいわね」


リュミナは足を止め、周囲を見渡した。


赤黒い岩肌の裂け目から魔素の瘴気が立ち上り、地を這う霧が揺れている。

空気は重く、肌に貼りつくような圧迫感があるのに――


「魔物の気配が、ない」


アレンも剣に手を添えたまま眉をひそめた。


「普通なら、あのへんから影狼とか群れで突っ込んでくるはずだが……」


「うん。でも……ここ、完全に“空っぽ”よ」


風が岩山にぶつかり、低い音を響かせる。

その音だけが、やけに大きく聞こえた。


沈黙が広がっている。


不自然な、してはいけない種類の沈黙。


リュミナの背筋が嫌な汗を伝っていく。


(……何かが動いてる。魔族領全域で、大規模な“移動”が起きてる)


「奥に行くしかないな。これだけ静かな方が、逆に危険だ」


アレンの言葉にリュミナは頷き、二人は慎重に、魔族領の奥地へ進んだ。



地形が歪み、黒石の丘が無数に並ぶ地帯に差し掛かった頃。

リュミナは足を止め、背負ったバッグから円形の通信端末を取り出した。


「アレン。少し……時間をもらっていい?」


「ん?どうした?」


(ここで、宇宙ステーションに最後の報告を送る。

 ここなら逆探知されても問題ない。)


真剣な面持ちでポータブル端末を操作する

リュミナを見つめながらも、アレンはそれ以上を聞かなかった。

ただ真剣に、彼女を守るように周囲へ視線を配る。


リュミナは深呼吸し、端末に指を走らせる。


画面が光り、彼女の胸にひっそりしまい込まれていた情報が開かれる。


――レムナント遺跡で得た極秘情報。

「魔法兵プロジェクトは失敗」

「彼らはレヴェリスでしか生きられない」


これが意味するのはただ一つ。


(神聖帝国も……この星を“資源として奪う動機”を失う)


「これで……レヴェリスは、もう誰の戦場にもならなくて済む」


カチッ、と送信キーを押す。


宇宙の高軌道――ステルス化されて目に入ることが無い、

観測ステーションへ向けて、情報が圧縮され転送された。

小さな、けれど決定的な通信。


(――これが私にできる、最後の“研究員”としての仕事)


送信完了の表示が浮かんだ瞬間。


リュミナは迷わなかった。


端末に指を添え、ふっと笑う。


(逆探知されたら、私達の位置がバレる。

 これはここに捨てていくしかない。

 私と故郷を繋ぐ――最後の……)


次の瞬間、彼女は端末を岩場へ投げ捨てた。


ガンッ。


画面が砕け、砂煙の中で火花が散った。


アレンが心配そうに見つめる。


「……リュミナ?」


「うん、お待たせ。ごめんね」


「大丈夫か?」


「え?」


リュミナは気付いていなかった。

自らの頬を流れる一筋の涙に。


(あ……。ま、そうか。もう帰れないかもしれないんだもんね)


そして、アレンの顔を見つめた。


(でも、これでいい)


「大丈夫だよ、グレンを探そう。」


その言葉に、アレンは少しだけ目を伏せる。


「……何かあったら俺を頼れ。守る、絶対」


リュミナの胸が、ぎゅうっと締めつけられる。


(こんな顔されたら……捨てる価値なんて、あったに決まってるじゃない)


「頼りにしてる。

 非モテで、据え膳でもないと手を出せないくらいに

 頼りないから、ちょっと心配だけど」


リュミナが意地悪そうな顔で茶化した。


「……こら!今から襲うぞ!」


「わっわっわ!その気になるな!」


二人は笑いながら追いかけっこした。


その瞬間。


遥か上空を巨大な影が飛び去った。


――火竜。


リュミナは背中のリングが微かに震えるほど、ぞくりとした。


大きく旋回した火竜が、呆然と立ち尽くす二人を視界にとらえた。

高速で飛行しながら、こちらに向かってくる。


「み、見つかった!?」


「ガァァ、アーレーンーーー!!!」


飛び来る火竜が咆哮と共にアレンの名を叫んだ。


「まさか……グレン? そんな……」


グレンは肩口にかけて、未熟だった時についた切り傷がある。


その火竜にも同じ位置にかすかな傷が。


アレンが剣を抜き、息を呑む。


「信じられない話だが、イグラートが絡んでるんだ。

 リュミナ、気をつけろ。この竜がグレンだっ!」


「え?!」


リュミナも目と口を大きく開けて、驚きの表情で迫りくる火竜を見つめた。


アレンがレーザーブレードを起動させる。

リュミナもシールドとゼログラヴィティリングを起動させた。


その巨体を確認できるほど、グレンが近づくと、彼は高速飛行を行いながら

口から巨大な火球を何発も吐き出した。


リュミナが慌ててシールドを張り、全てを受け止めるが、勢いに押されて吹き飛ばされる。

それを後ろからアレンが優しく支えた。


「あ…ありがと」


グレンはその状態をあざ笑うかのように彼らの目前で急浮上して、再度大空を旋回する。


「くそ……。また来る!?」


「アレン、ここは私に任せて!

 私を信じて──下で待ってて!」


危険だ……アレンはそう言いかけて飲み込んだ。

彼女がこんな真剣な表情をした時、必ずやり切ると知っているからだ。


「必ずあいつを地面に叩き落してやる!」


「あぁ、頼む。任せた! 

 そして地面に落とした後は、俺に任せてくれ!」


二人が目を合わせて強く頷いた。


ゼログラヴィティリングが、背中でキィンと高く鳴いた。

光の翼が大きく広がり、リュミナの体をふわりと浮かせる。


「行くよ――グレン!」


彼女は空へと浮かぶように飛び上がり、そのまま重力を断ち切って急上昇した。


風圧が頬を叩き、視界が一気に広がる。

下ではアレンが剣を構え、彼女を見上げていた。


(見てて――今度は私が、あなたを守る番)


空域で待ち構えていた火竜・グレンが、巨大な翼を振り下ろした。

圧倒的質量の暴風が空気を裂いて押し寄せてくる。


「ガァァアアアアアアアッッ!!」


竜の喉奥に、赤い光が収束する。


「まずい、火球――!」


次の瞬間、複数の火球が連射のように吐き出された。

まるで戦闘機の機銃掃射だ。


「くっ……!!」


リュミナはリングを最大稼働。

トルネードを描くようにくるくると回転しながら間一髪で全ての火球をかわす。


そのまま、リュミナもレーザーガンで応酬する。

グレンも激しく動き、狙いを定めさせない。

彼女のレーザーは空しく虚空を斬り裂く。


そして、グレンも再び火球で反撃してくる。

リュミナの身体が光の軌跡を引きながら、縦横無尽な軌道を描いた。


火球が通過した空間が爆ぜ、赤い火花を散らす。


(……速い。背後を取るしかない――)


その後も、空で二つの光が何度も交差し、炸裂した。


爆風で体勢を崩しそうになりつつも、リングに全神経を集中させる。


「ガガガァァァアアッ!!」


グレンが怒り狂ったように急降下――

そのままリュミナへ体当たりを仕掛けてきた。


「重力反転……っ!!」


リングの重力制御を一瞬だけ逆相に切り替えると、リュミナの身体が急停止し、

迫り来るグレンの爪が紙一重で彼女の前を掠めた。


鋭い風圧が頬を切り裂き、血が飛ぶ。


(痛い……でも! 落ちてる暇なんてない!)


反転の勢いを利用して、リュミナはグレンの横腹へ回り込み、

至近距離からレーザーを連射した。


「そこっ!!」


「ガッ――!」


竜の翼膜が焦げ、黒煙が上がる。


だが、グレンは怯まない。

怒りを増幅させるように、体全体が灼熱化していく。

だが飛行速度が落ちた。


「ガァァァァ……アーーーレーーーン!!」


(名前を……叫んでる?)


その声に、わずかに人間の響きが残っている。


(まだ……人間の部分が――)


その一瞬の迷いが命取りだった。


高速で反転したグレンの尾が、横薙ぎに飛んできた。


「っっ!!」


避けきれず、シールドを張るが、リュミナの身体は殴り飛ばされる。

視界が一瞬白く染まる。


空の上で吹き飛ばされる感覚は、地上よりも恐怖が何倍も強い。


「まだ……負けない!!」


リングの出力を最大に上げて反転飛行、

落下軌道を強引に修正して、再びグレンの背後に回り込む。


そして。


(ここ……! 昔ついた傷!)


彼女の瞳はただ一点を見つめる。


(人型だったころの名残――)


リュミナは直感的に弱点を理解した。


「グレン!! 正気に戻って!!」


叫びながら、薄い傷跡へ向けて渾身のレーザーを撃ち込んだ。


光が炸裂し、鱗がはじけ飛び、竜が苦痛に身をよじる。


「ガアアアアアアッッッ!!」


竜の巨体が大きく揺れた。


(今――!! アレンのところへ落としてみせる!!)


リュミナは竜の軌道に合わせ、

リングの重力制御を「急下降」に切り替えた。


光の翼が高速で収束し、リュミナとグレンは――

まるで空中でダンスするように、

軌道を描きながら地上へ急降下する。


彼女は、巨大な火竜を“地面へ叩き落す”ための軌道を作ったのだ。


下には、アレンが剣を構えて待ち構えている。


「アレーーーン! 落とすよ!」


「任せろ! あとは俺が仕留める!」


地上のアレンと、空のリュミナ。

二人の叫びが、魔族領の空気を震わせた。


そして――リュミナが急旋回して背後を取ると、放ったレーザー連射が

グレンの翼膜をバラバラに引き裂いた。

飛行魔力を失った火竜・グレンが地面に落ちていく。


グレンは地面に叩きつけられて、土ぼこりを上げながら転がる。

えぐれた跡が長々と続く。


だが、グレンは立ち上がった。

体中の竜鱗がボロボロになりながら。


そしてレーザーブレードを構えたアレンが、その前に立ちふさがる。


グレンはそれに気づくと、引き裂くような咆哮を上げた。

戦闘シーンいかがでしたでしょうか?

アニメ化を夢見る身としては、その情景が浮かんで欲しいなと思いました。

しんみり⇒いちゃいちゃ⇒バトルのシームレス化も私なりに推し。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。

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