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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第3章 逆恨み

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第25話 好きだから

宿屋に着き、いつものボロ部屋に荷物を下ろした。


「はぁ。疲れたね、こんなぼろい部屋でも自分の家みたい。」


「まぁ、ずっと俺達が借りてるしな。お得意様だ。」


リュミナはベッドに座ると、パーソナル端末を取り出して中を見ている。

このデータを秘密裏に宇宙ステーションに送信さえできれば、この星が救われる。

だが、そう簡単な話でもない。


頭をフル回転させても、良い案は出てこなかった。


アレンは鎧を脱いで、部屋着になる。

そして、何もやることが無いかのように、立ち尽くしたまま、

難しい顔をしているリュミナを、呆然と見つめていた。


遂に意を決したのかアレンが口を開いた。


「……なぁ、リュミナ。バールに話したあれ、どういう意味だったんだ?」


「あれ?あぁ、ちょっとね。

 本心は出会いたくないけど、同族に野暮用があるのよ。」


「いや、それじゃなくて。」


「ん?なんだっけ?」


「あれだよ、その……。」


「あ!!おっぱい揉まれた話か!?」


「違うって! ……『私たち付き合ってないの?』ってやつ」


「あぁ、そっちか。あれが何?」


「いや、だからどういう意味だっての?」


「えぇ?どういう意味って言われても。」


「いきなりで驚いたんだが。」


「……。私はアレンのこと、好きだよ。

 だからアレンはどう思ってるの?ってだけだけど。」


アレンがこれでもかと目を見開いて固まった。


「ど、ど、ど……どうしていきなり。あ……!?ネコテイムか!」


呆れた顔をしたリュミナ。


「違うって。

 あれだけ一緒にいて、あれだけ助け合ってて。

 いっぱい笑いあって。いっぱい泣いて。

 アレンは何とも思ってないの?」


「いや、俺は……その。でも、なんだ。今までそんなことなくて。

 信じられなくて。」


(はぁ……重症だなぁ、こいつ)


「アレンってさ、真面目だし、強いし、それにルックスだっていい方だよ?」


「あ……そんなこと言われたことない」


「まだ、信じられないの?」


そういうとベッドから立ち上がって、リュミナはアレンと向かい合った。


「ちょっと待ってね。」


ナノクリーナーを起動するとリュミナの身体が淡く光った。


「なんだ?」


「動かないで。」


そういうと今度はアレンの体にナノクリーナーを押し付けて起動させる。


「わ……?なんだこれ?」


ナノクリーナーをしまって、無理やりアレンを引っ張り、

ベッドの傍に連れてくるとリュミナはアレンの手を引きながらベッドに背中から倒れた。


ベッドの上で横になるリュミナ、両手と膝を立てて覆いかぶさるようになるアレン。

二人の顔が近い。


ドライで冷静な態度をとっているリュミナだったが猫耳がピンと立って真っ赤に染まっているところから緊張しているのは明らかだった。


そして、アレンもようやく片肘をついて腕をリュミナの頭の後ろに回して、もう片方の手で恋人つなぎした。


そのままリュミナに覆いかぶさるように、ゆっくりと顔を近づけてキスをしようとすると


カッカッカッカ


外を歩く人の足音で二人ともびっくりして固まる。


しばらくしてから再び二人は目をつぶってキスをした。

唇が離れる。アレンが今度はリュミナの首筋に顔を埋めた。

リュミナが服のボタンをはずし始めた。


カッカッカッカ


再び外を歩く人の足音。

ボタンを外す手が止まる。


「あぁぁぁ!!だめ!無理!!」


リュミナが両手でアレンを押しのけて、ベッドの上で背中を向けて座る。

再びボタンをとめなおす。


「リュ、リュミナ……。」


「無理!アレン、いっぱい稼いで一戸建てを買って」


「無茶言うなよ」


「……。一戸建て、買ったら続きシヨ」


「……何年後だよ」


背中を向けたままのリュミナを見て諦める。


「はぁ、ちょっと夜風にあたって、頭冷やしてくる。」


リュミナは振り返らずに、手を振った。

アレンは退室した。


(……その気になりかけちゃった。最後まで行きかけた……。

 もし、アレンとそんな関係になったら、私はどうなるんだろう?

 もう二度と宇宙には帰れなくなるのかな。

 いや、未開文明に干渉しすぎて、重罪になるかもしれない。

 連れ去られて、ずっと牢屋かなぁ……。

 アレンにだって迷惑がかかるかもしれない。)


リュミナがベッドに仰向けに倒れた。

気付いたら涙が頬を伝って落ちていた。


手で拭う。


(あ、私……アレンと別れたくないんだ……。)


そんな時、リュミナの荷物の中から機械音が響いた。

慌ててそれを取り出す。観測船から持ち出して、

ずっと復旧作業を行わせていた小型端末がようやく復旧した音だった。


(あ、こいつのことすっかり忘れてた。自己修復できたんだ?)


GPS機能をOFFにして起動させる。

ほとんどの機能はダウンしているようだったが、メール機能とデータ共有機能は、動作しそうだった。


(あ、これでデータを送信できる!!)


GPSを無効にしたとして、この大規模データを送信中に場所を探知される可能性がある。

この街で実行しない方がよいだろう。


(アレンにもう一度魔族領まで連れて行ってもらおう)


ふと、ドアの方を向く。


(アレン、あんな状況で、怒ったのかな?)


・・・

・・


アレンは胸の奥の火照りを誤魔化すように、冷たい夜風を受けながら街を歩いた。

思考はめちゃくちゃだ。

リュミナの言葉も、体温も、猫耳の動きすらも、頭にこびりついて離れない。


「……ダメだ。ビールで一回落ち着こう」


ふらっと立ち寄った酒場は、夜も更けているのに客の声でざわついていた。

アレンはカウンターの端に座り、ビールを注文する。


ジョッキが置かれた瞬間、喉が勝手に動いた。

冷たい苦味が体の奥を通り抜け、それでもモヤモヤは消えない。


リュミナが自分のことを好きだと言ってくれた。

そして、あそこまで態度で示してくれた。

本来なら自分からリードすべきなのに。


一戸建て、買おう。

アレンの中で闘志が燃える。


ビールを半分ほど飲んだところで、常連らしき二人組の冒険者が

ひそひそと話している声が耳に入った。


「なぁ……見たか? あの白銀の風のグレンがよ。

 廃人みてぇな様子で街に戻ってきたって話」


アレンの手が止まった。


「廃人? グレンが?」


二人組は続ける。


「顔色真っ青でよ、なんかブツブツ言ってんだと。

 ギルドの掲示板で魔将イグラートの目撃情報見て

 ……そのまま一人で街を出たってよ」


「はぁ? あいつ一人でか? 馬鹿じゃねぇのか?」


「しかもよ、誰が声かけてもまともに返事もしなかったって話。

 『あいつらのせいで……全部壊れた……』とか、

 『奴らもぶち壊してやる……』とか、ずっと呟いてたらしい」


アレンの心臓が強く跳ねた。

イグラートはアレンとグレンが決別する原因でもあり、そしてリュミナと出会うきっかけでもある。


グレンが極度のショック状態だったことを思い出す。

あの時の目はもう、人を見ていなかった。


そして今は「復讐」に取り憑かれたまま、一人で魔族領へ?


アレンはビールを置き、深く息を吐いて、小さく独り言を言った。


「グレン……お前……死にに行く気かよ」


さらに別の客が口を挟んできた。


「グレンって、ほら……白銀の風が解散になってさ。

 今まで散々、裏で悪さしてたのがばれてるから

 どこにも拾ってもらえなかったんだろ?

 なにせ、仲間だって売るっていう噂だぜ?

 だから、とうとう壊れたんだろ」


「まぁ、可哀想だが自業自得だよな。

 でも魔将に関わったら、生きて戻れねぇぞ」


アレンは立ち上がった。

モヤモヤは吹き飛び、代わりに重苦しい焦燥感だけが残っていた。


グレンの考えが読めなかった。だが、彼が自分やリュミナに対して

何かしらの強い害意をもって襲ってくるのは、予想が出来た。


その瞬間、リュミナの声が脳裏をよぎる。


――「アレンはどう思ってるの?」


胸が熱くなるが、すぐに抑えた。

あの時のリュミナの顔が思い出されて、拳を握る。


「俺には守るべき大事な人がいる。グレンには負けない。」


アレンは酒場を出る前に、残ったビールを一気に飲み干した。


冷たいはずなのに、苦味が妙に鋭く喉を刺した。


――街の空気の奥に、嵐の気配が迫っていることに、誰も気づいていなかった。

R15ギリギリを攻めたロマンス回でした。

リュミナの本気回です。安宿の外のお邪魔さんのせいで未遂です。


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