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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第2章 追われるもの

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第22話 崖上の光(ラスト・アセント)

リュミナの神経系とゼログラヴィティ・リングが完全に同期し、彼女の意志で速度調節ができるようだ。

重力が反転したような浮遊感の中、どんどん速度が上がっていく。


「し、しっかり掴まってて!!」


「掴まってるけど速いってぇぇぇ!!」


アレンはリュミナの正面から抱きつくように腕を回し、まるで命綱のようにしがみついていた。

リュミナの背のリングから発生した光の翼が、淡い青光を放つ。

アルティオン粒子が崖沿いに渦を巻き、二人の体を一気に押し上げていった。


風が唸り、景色が弾丸のように流れ去る。

リュミナは両腕を広げ、身体全体で重力を感じ取るように神経同期していく。

感覚で、速度を操る。思考より早く、重力を“乗りこなす”。


「リュミナ、そっ速度を落とせ。振り落とされそうだ。」


アレンが少しずり落ちて、ちょうどリュミナの胸に顔をうずめる体勢になる。


「わ、わぁぁぁっ!! こら、アレン!!

 どさくさにまぎれて何してる!?このムッツリ!」


「ちっ違う!落ちそうなんだー!!!」


アレンがさらに強く抱きしめて顔を押し付けた。


「きゃはは?!こら、やめろ!」


集中が乱れて、空中でくるくると回転しながら落ちかける。


「ぎゃあああぁ!!」


アレンが叫ぶが、なんとか体勢を持ち直して、上昇に向かった。


「リュミナ、もっと集中して飛んでくれー!!」


そう言いながら胸に顔をぐりぐりと押し付けられる。


「無理だぁぁ! こんなことされて集中できるかぁぁぁ!!」


リュミナとアレンの絶叫が風にかき消される。


急ブレーキをかけると慣性でアレンがずり上がり、ちょうど顔が目の前に来る。

リュミナの頬にアレンの息が当たり、耳まで真っ赤に染まる。


「アレン、覚えてろよ!」


「そりゃ、こっちのセリフだぁぁぁ!!!」


崖をかすめるように、二人は螺旋を描いて急上昇する。

重力に逆らうというより、“流れに乗る”感覚だった。


「うわぁぁぁっ、落ちる! 落ちるってば!!」


「落ちてないの! 上がってるの!!」


ふたりの声が交錯し、風音と混ざって消えた。


そして――急上昇の頂点で、リュミナがリングの出力を落とす。

ふっと重力が戻り、ふたりの体が地表へと引かれていく。

軽やかに姿勢を変え、リュミナは滑空しながら地上へと降り立った。


そこは、もはや“地上”とは呼べない光景だった。

メテオストライクの余波で、あたり一面が吹き飛んでいる。

黒焦げの大地。ひび割れた岩肌。

かつての遺跡の入り口があった場所は、巨大なクレーターと化していた。


「はぁはぁ。」


アレンは息を整えてから、呆然と立ち尽くし、喉の奥で息を漏らす。


「……えげつねぇな。まじで世界が抉れてるじゃねぇか。」


急に後頭部をリュミナがどついた。


「アレン、どさくさに紛れて……ドスケベ!ムッツリ魔王!」


「な!?違うって。落ちて死にそうだったんだぞ!!」


「でも、あれは酷いでしょ!!」


「いや、お前が一番酷いって!もう二度と空なんて飛びたくねぇよ!」


二人が痴話喧嘩をしていると、唐突に声が響く。


「馬鹿な!?生きていただと?この崖に逃げたのか!?」


シエルが浮遊しながら驚きの表情で睨みつけていた。


「シエル!?」


アレンがレーザーブレードを起動させ、リュミナもレーザーガンを構える。


「アレン……メテオ・ストライクってもう1発来ると思う?」


「いや、あれは日に何発も打てる代物じゃない。おそらく大丈夫だ。」


「了解、じゃあ、射撃戦の再開ってことね。」


浮遊したままのシエルが不機嫌そうに叫んだ。


「二人でこそこそと話しやがって!調子に乗るなよ、ハーフめ!」


にらみ合うリュミナとシエル。それでもリュミナは小声でアレンに話しかけた。


「アレン、私が空中戦をやる。アレンは地上から牽制して。

 彼女が下りてきたら、すかさず斬り付けて、地上に下ろさないで。」


「わかった。空中でやる気だな?

 確かにシエルの浮遊魔法はお前の飛行魔法ほど飛び回れないはずだ。」


「その通り。今の私は空の王者よ!」


そういうとリュミナが高速で上空に飛び上がった。

慌てたシエルがリュミナに対して無数の火球を撃ち続けたが、

そのホーミング能力では全てリュミナを捉えきれずにその後方を連続して空を切る。


シエルが焦りと驚きの目のまま火炎を放ち続けた。


「なんだ!? あの速さは!? 視界から消えた!?」


シエルは慌てて周囲を見渡す。

空中に留まりながら両腕を広げ、連続詠唱を開始。

彼女の周囲に、紅蓮の火球がいくつも浮かび上がる。

視界にリュミナを捉えた次の瞬間――一斉射出。


ドン、ドン、ドンッ!!


対空砲のような轟音が空を裂く。

無数の火球が尾を引いてリュミナを追いかけるが、

その軌跡はあまりにも遅い。


リュミナの身体が、まるで光そのもののように空を駆け抜けた。

わずかに身体をひねるだけで、火球は次々と空を切り裂き、

爆風だけが地上に降り注ぐ。


「当たらない……!? 私の追尾火炎が!?」


焦りがシエルの額を伝う。

それでも撃ち続ける――だが、次第に息が荒くなっていく。

浮遊魔法を維持するために、常に魔力を循環させねばならない。

それはつまり、彼女の“脚”は今、魔力で支えているのと同じことだった。


「くっ……思ったより、体力を削られる……!」


放てど放てど、リュミナには掠りもしない。

視界の端に白い光が残像のように走り、追いきれない。


シエルが一瞬、息を整えようと高度を落とした――その瞬間。


「そこだ!!」


地面から閃光。

アレンが地上から跳躍し、レーザーブレードを振り上げた。

その一閃がシエルのローブの裾を切り裂く。


「なっ……!? 下にいたのか!」


反射的にシエルが再浮上する。

だが、浮遊高度を維持するために魔力をさらに消費する羽目になった。

肩で息をしながら、彼女は睨みつける。


「卑怯者……地上から狙うなんて!」


「戦いってのはそういうもんだろ!」


アレンが叫ぶ。


「降りた瞬間、俺が切る。それだけだ!」


シエルは歯を食いしばり、再び浮遊高度を上げようとした――

だが、魔力が追いつかない。


(体が……重い……?)


疲労と魔力消耗で動きが鈍った、その瞬間。


「――いただき。」


リュミナの声が風に乗って届く。

上空から一直線に、青い閃光が走った。


バシュウゥゥッ!!


レーザーガンの光線が空を裂き、シエルの肩をかすめる。

続けざまに数発。

狙いは正確とは言えないが、回避を強いられたシエルの体勢がどんどん崩れていく。


「くっ……この……っ!」


火球を撃つが、精度が落ちている。

弾幕は薄く、力も弱い。

その隙間を、リュミナの光線が縫うように走る。


一発、二発、三発――

シエルの腕と太腿をかすめるたびに、衣服が焦げ、赤い線が刻まれた。


「うそ……こんな……攻撃精度……!」


シエルは唇を噛み、必死に高度を保とうとするが、

その体がゆっくりと、重力に引かれて沈んでいく。


「リュミナ、あと少しで落ちるぞ!」


「わかってる! このまま削り切る!」


上空で、青と紅の光が交錯する。

風が爆ぜ、砂煙が舞い上がる。

シエルの浮遊が限界を迎えるのは、もはや時間の問題だった。


ビシュッ


遂にレーザーがシエルの右胸を撃ち抜いた。


「ぐふっ」


血の塊を吐きだすと、浮遊魔法を維持できなくなって落下し始めた。


落下地点でアレンがレーザーブレードを構えた。


「だめぇぇ!!!!アレン。殺しちゃダメ!!」


必死な形相のリュミナが大声で叫んだ。

アレンはびくりとした後、レーザーブレードを停止させ、

腰に吊るすと落ちてきたシエルを両手で受け止めた。

勢い余って尻から地面に倒れたが、何とかシエルも無事だ。


シエルは既に気を失っていた。


リュミナが素早く飛行して近づいてくると、そのまま地面に着地して、

滑るように足で土を巻き上げながら停止した。


そしてシエルの元に近づいてメディカルボックス内の

ナノマシンで彼女を治療し始めた。


「リュミナ?」


「アレン、そんなに簡単に人を殺しちゃダメ。

 この人はもう戦意がないの。

 必要のない殺しはしないで。」


「……わかった。そうだったな。助けられそうか?」


「……なんとか。右肺を少しやられてるけど、助けられる。」


リュミナの懸命の治療によってシエルは一命を取り留めた。

空中戦でした。前半はアレンのラッキースケベな空中戦で、後半は対シエルの激闘です。


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

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