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猫恋 ~銀河帝国出身の私が異世界の猫たらしに命令されて恋に落ちました~  作者: ひろの
第2章 追われるもの

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第17話 母国の影

冒険者ギルドの扉を押し開けると室内は朝の光に満ち、活気にあふれていた。

受付の雑踏をかき分けアレンとリュミナはギルド長の呼び出しに応じ、静かな応接室へと案内された。


「アレン、リュミナ。座れ。」


柔らかな革張りの椅子に腰を下ろすと、ギルド長は慎重に言葉を選びながら口を開いた。


「最近、お前の元パーティのメルナが、お前たちを狙っているという話が耳に入った。

 ここ1週間ほど彼女の姿を街中で見かけていない。注意したほうがいい。」


アレンは軽く咳払いをし、言葉を濁した。


「は、はぁ……なるほど。気をつけます。」


リュミナが横目にアレンの顔を見上げた。

真面目そうに苦笑いしていた。


(……隠し通す気ってことね。)


リュミナも小さく頷いた。


「バルドも最近見かけていない。お前、何か知っていないか……?」


「いえ、特には。」


ギルド長は目を細め、深刻そうに二人を見つめた。


「まさかお前達が?」


「ははは……バルドはA級冒険者の中でもかなり上位にいます。

 無理ですよ、俺では。」


「そうか。わかった。くれぐれも無理はするな。

 報告は随時あげてくれ。何かあれば、すぐに知らせるんだ。」


「了解です。」


アレンは短く返事をし、立ち上がる。

二人はぎこちなくも背筋を伸ばし、応接室を後にした。


廊下に出ると、普段通りの賑やかな声が戻ってきた。

だがアレンもリュミナも胸の奥でわずかな緊張を感じていた。


「狙われている……か。」


(もう少し早く教えてほしかったわね。)


アレンのつぶやきにリュミナは心の中で応えた。


二人は言葉少なに次の行動を考えながらギルドの外へ向かった。


ギルドを出た瞬間、外の風が頬を撫でた。

石畳の通りには露店の香辛料や焼きパンの匂いが漂い、人々の声が賑やかに響いていた。


「そんなに時間が経ってないのに……久しぶりの街って気がする」


アレンが小さく息を吐くと、リュミナは猫耳をフルフルと揺らした。


「うん。なんか落ち着くね。魔族領とは空気の匂いが違う。」


彼女の声にはどこか安堵が滲んでいた。

戦いと緊張の連続だった数日を終え、ようやく“日常”が戻った瞬間だった。


「せっかくだし、食料の補給でもしとこうか。あとは……」


「服。」


「え?」


「だって、ほら……。私だってモンスターやメルナと戦ってるんだよ?」


「……確かに。」


リュミナが自分の服の袖をつまみ、ちょっとだけ唇をとがらせた。

焦げ跡や節々の端切れが戦いの名残を物語っている。


「じゃあ……ついでに見ていくか。」


二人は並んで露店街を歩き出した。

行き交う人々の喧騒、鉄器がぶつかる音、香辛料の刺激的な香り。

リュミナはきょろきょろとあたりを見回しながら、まるで旅先の観光客のように楽しそうだ。

自然と腕を組んで歩いた。

これくらいではアレンももう驚かなくなった。


「アレン、見て!これ可愛い!」


 リュミナが指さしたのは、薄い布に花柄を縫い込んだストールだった。

 露店の老婦人が、にこやかに二人を見つめる。


「まぁまぁ、似合いのカップルさんだねぇ。

 ほら、この子の髪色には青の方が映えるよ。」


「かっ、カップル!?」

「ち、違っ……俺たちは――」


慌てて否定しようとするアレンの声をリュミナの小さな手が止めた。


「……ちょっとくらい、いいじゃない。カモフラージュカモフラージュ。」


猫耳がピクピク動いている。冷静な物言いとは異なり内心は嬉しそうだ。

老婦人は、からかうように笑いながら青いストールを手渡した。


「ほら、お姫様。彼氏さんに巻いてもらいな。」


“彼氏さん”という単語に、アレンの動きが一瞬止まった。

手が震えるのをごまかしながら、リュミナの肩にそっとストールをかけた。


薄布が彼女の銀髪に落ち、朝の光を反射して柔らかく輝いた。

その瞬間、アレンは言葉を失った。

彼女が振り向いて笑う姿がほんの少し息を奪うほど綺麗だった。


「……どう?」


「……似合ってる。」


短く答えたその声が思いのほか真剣すぎてリュミナは息を呑んだ。

心臓がどくんと鳴る。

何かを返そうとしたけれど、喉がうまく動かなかった。


「まったく、若いっていいねぇ。」


 老婦人の一言で、二人は同時に顔を真っ赤にした。


「こ、これください!」


 リュミナが慌てて代金を支払い、二人はそそくさとその場を離れた。


通りを抜ける途中もリュミナはストールを指先でいじりながら、ちらちらとアレンを見上げていた。

その横顔に気づかぬふりをしつつ、アレンもまた口元を少しだけ緩めていた。


その後、服を新調し、さらにご機嫌になったリュミナ。


大通りで人気のお店、炙り屋グルドの魔炙りチーズ包みを頬張り、飛び跳ねながら歩いていた。


「はふはふ。美味しい。アレンは要らなかったの?」


「あぁ、お前さっきから買い食いしまくりだろ。本当にお姫様か?」


「しーっ!それは言っちゃダメな奴……。ふふふ。」


「あんまり跳ねると買ったばっかりの服を汚すぞ?」


「そんな鈍くさくないって。……ねえ、アレン。」


「ん?」


「今日は楽しいね。もう少しだけこうしててもいい?」


「……いいさ。今日は休みだ。」


二人は人の波に紛れ、賑やかな通りをゆっくり歩き出した。


その時慌ててリュミナが路地に隠れた。

無理やりアレンも引っ張り込んだ。


「アレン、抱いて。」


「は?」


「いいから!早く!」


アレンが優しくリュミナを抱きよせた。

その後ろ、通りの反対側の歩道をリュミナと同じような

猫耳ハーフヒューマンの女性が何かを探すように通り過ぎた。


こちらの様子をちらりと見たが、ただの恋人同士の抱擁に見えただろう。

彼女が通り過ぎた後、しっかりと抱き締めてリュミナの香りを堪能しているアレンを、リュミナは乱暴に引き剥がした。


「うえぇ?!なんだ?」


アレンを無視して、リュミナは路地影から猫耳ハーフヒューマンの背中を見つめた。


(あれはセレナ主任だった。現地の人の服を着ていたけど間違いない。

 腕のパーソナルシールドと護身用レーザーブレードも見えた。) 


セレナ・ヴァル=ノルディア研究主任。


彼女の直属の上司で、何かを探しているようにも見えた。

一番可能性が高いのは、リュミナを探していることだろう。


リュミナが実験場のデータを宇宙ステーションに送信したからに違いない。

彼女の救難通信用端末から送信されたデータは、本国にとって衝撃的な事実だ。

それと同時に彼女の生存も伝えたことになる。


ニャニャーン神聖帝国にとって、リュミナは貴重な情報源として、

その重要度が増したに違いない。


神聖帝国は軍国主義国家だ。

この星の住民がニャーンの亜種という事実は、今後レヴェリス人を素材に

クローン魔法兵の量産などが可能になり、研究の重要度が大幅に増していると思われる。


リュミナにとってそれはアレンとの生活の終焉であると共に、この惑星レヴェリスに多大な不幸をもたらす要因となるだろう。


「リュミナ、どうした?」


「私の存在を探している祖国の諜報員が居た。」


「え?」


「私と同じ猫耳ハーフ。見つかるわけにはいかない。」


「……姫ってのは本当だったんだな。」


(セレナ主任以外にもニャーンが降りている?あまり派手な活動はしないはず。)


「これからはあまり派手な活動はできないわ。」


「分かった。このまま宿に戻ろう。」


「えぇ。」


(いやだ、アレンとのこの生活を……。終わらせたくない。)


現実⇒甘々⇒そしてSF的恐怖


この流れいかがでしたでしょうか?


ご感想やご意見、スタンプ、どんな些細なものでも大歓迎です。励みになります。

もしよろしければ、次の読者への道標に、評価やブクマをお願い致します。



ちなみにですが、この物語は私の代表作ニャーンの物語群の一角です。

もし興味を持たれましたら、ニャニャーン神聖帝国の他の物語もご一読ください。

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