98話:龍王と天龍寺
朝登校した俺は、のんびり授業を受けていた。そして、昼になった。
「体がだるいな」
昨日の深紅さんとの戦いで大分疲労が溜まっていたようだ。午前の授業は、全て睡眠の時間となっていた。
「よう、お疲れみたいだな」
高木が声をかけてくる。
「おう、まあな」
「何かあったの?」
白羅が問いかけてくる。
「いや、馬鹿みたいに強い人と殴り合いしただけだ」
「何かの比喩か?お前、怪我ねぇし、そもそも喧嘩とかしないだろ?」
高木の前で話してしまったのは、心理的疲労ゆえか。
「そんな凄い奴がいたの?」
アーサーの問い。
「ああ、ありゃ、化け物だよ。白羅並だったぜ」
「何の話だよ!ゲームか?ゲームとかそういう類なら記事にするから教えてくれよ!」
五月蝿い高木を無視して続ける。
「火、風、雷を使うってチートだろ」
「火、風、雷?もしかして、鎧でも着てなかった?」
白羅は何か知っているらしい。
「ああ、着てたな」
俺は素直に頷いた。
「そう、それは、おそらく……」
一拍置いて、告げる。
「|《龍王の遺産》《ドラゴン・グリッター》。グリッターは、光るって意味なんだけど……」
確かに、深紅さんも呼び出すときにそう呼んでいた。
「鎧に五つの宝石がついていて、右腕に赤、左腕に青、胴の真中に黄、左足に緑、右足に茶。この五つはそれぞれ、」
「竜の力を意味しているのか?」
それは、昨日の戦いの時点で予測していた。
「赤は炎竜、青は水竜、黄は雷竜、緑は風竜、茶は土竜。それぞれの特性を象徴しているの。使用者によっては、ある属性が高められて、たとえば、炎が業火になったり、水が吹雪になったり、風が嵐になったり、……と、力が変わってくるわ」
「だから、なんのゲームの話なんだよ!」
「高木、五月蝿いから失せろ」
「そうね、失せて」
「同意する」
俺、白羅、アーサーから立て続けに言われ、とぼとぼと高木は、別のスクープを追いかけに行った。
「あれも古具だよな」
「ええ、神が龍の力を真似て造った《竜の古具》よ」
ところどころ、龍のニュアンスが違う気がする。
「ええ、だから《龍王の遺産》。名前の龍は《龍》でも、力自体は《竜》なのよ」
黒板に《龍》と《竜》を書きながら言う。なるほど、真の龍は《龍》。真似た龍は《竜》ってわけか。
「天龍寺深紅だったっけ?まあ、名前に《龍》って字が入ってるほどだから、竜の力を持っててもおかしくはないんじゃない?」
アーサーが、混乱しながら女口調で告げた。
「天の龍が宿る寺で天龍寺、ね。意味ありげな名前よね」
次いで白羅も口にした。
「天龍てのは、何の龍なんだ?」
俺の疑問は、炎龍なら火の龍。氷龍なら氷の龍。風龍なら風の龍。そういう簡単な名前ならすぐに検討がつくのだが、天龍は、何の龍なのだろうか。
「天と言うと、天と地。所謂、天国と地獄から、聖なる力を司るとされることが多いわ」
じゃあ、逆は地龍なのだろうか。いや、土と被る。では獄龍?
「聖が創るものなら、悪は壊すもの。聖は、創造。悪は、滅び。このことから、天龍の逆は、悪龍や、滅びの龍と呼ばれているのよ」
――滅びの第六龍人種。聖が言っていた言葉。
「大分話が逸れたわね。まあ、その天龍寺と言う家に関しては、何かしら龍との関わりがあるのかもしれないと言うことよ」
聖の件を思い出した俺と聖のことを知っているであろう白羅は苦々し気な顔をしていた。おそらく、白羅は、聖の力と同じ力の方に話が行きそうだったから、話を戻したのだろう。




