92話:天龍寺家
長期休暇まで後二週間をきっている。しかし、俺は、学園を休んでいた。理由は、簡単だ。会長の下へ行かなくては行けなくなったから。
「ここが、天龍寺家」
とても広大な土地と大きな家。まるで、ラノベやギャルゲに出てくるお嬢様キャラの家のようだ。俺は、今日からここの家のボディガードをすることになっている。
今、天龍寺家の当主は、深紅さんだ。だが、深紅さんは、未婚の上、もう、すでに両親(会長の祖父母にあたる)は亡くなっている。なので、今、天龍寺家に暮らしているのは、会長の家族と深紅さんだけだ。
そして、俺は、招き入れられた食堂の大きさに驚愕する。俺の部屋を三つ並べたくらいの大きさだ。
「いらっしゃいませ、貴方が妹が選んだボディガードさん?」
三十代くらいの美しい方が、俺に問う。おそらく、会長の母親だろう。
「はい、そうです」
「ふむ、見た目は悪くないんじゃない?」
こちらは四十代くらいのおじさん。おっさんじゃなくおじさんだ。おそらく会長の父親。
「ええ、そうね。早速だけど、部屋は、こちらが割り当てておいたから、そこを使って頂戴。案内は、そうね、ちょっと、誰か、この方を案内してあげて」
廊下にいたメイドに声をかけた。メイドは居れど、執事は居らず。そして、メイドの一人が、俺を先導し、部屋へ案内してくれる。
廊下で、メイドと二人きりになった。
「えっと、青葉さんでしたっけ?」
「え、あ、はい」
メイドに声をかけられ、少し慌てる。
「あの、どうやって、この家へ?男の方が、採用されることって珍しいので」
そうなのか。どうりで執事がいないわけだ。
「自分は、」
「あ、敬語は使わなくてもよろしいです。この家の方は、あまり、敬語を好かないので」
敬語を使っている人に、敬語を使わなくてもいいといわれた。何この矛盾。
「俺は、深紅さんに見込まれて」
「深紅様に?余計珍しいですね。顔を気に入ったのでしょうか?」
まじまじと見つめられる。
「青葉さん、恋人は?」
「いませんけど?」
「そうですか」
今、一瞬。このメイドがにやりと笑った気がした。気のせいか。次に見たときには、先ほどまでの普通の顔だ。
「ここが部屋です」
「あっ、ありがとう」
俺は、こうして部屋へと案内されたのだった。




