87話:疑念
俺がエリナの家に帰ると、すっかり、エリナは落ち着いた様子だった。熱も無く、体に浮き上がった紋様も綺麗に消えていた。そして、寝てるエリナに、風邪薬と偽って《不死鳥の血》を与えた。これで、アイツはもう大丈夫だろう。
俺が、今、もっとも気になっているのは、エリナなんかじゃなかった。亞璃栖だ。そして、亞璃栖の中にある力、《プリンセス・オブ・ラクスヴァ》。プリンセスは姫であろう。しかし、ラクスヴァと言う単語が、分からない。何語なのかすらも。古具ではないようだ。しかし、あれほどの超常現象を起こすとしたら、俺が今まで会ったどれよりも異質だと思う。古具使い、聖剱使い、龍神、第六龍人種、吸血鬼、魔剱使い、不死鳥、悪霊。どれらも、既に知られている概念だ。第六龍人種も、超能力の類と似た、異能を使う力(己の中の龍の力)だ。しかし、あの《プリンセス・オブ・ラクスヴァ》は違う。剱を生み出し、鎌を生み出す。あの力は、一体。よく考えると、鏡ヶ丘亞璃栖と言う名前からして、俺には、おかしいとしか思えない。
――鏡の国のアリス
まるで、それを連想させるかのような名前。アイツは、何者なのだろうか。時々学校を休んでいたのは知っている。それは、俺が古具に目覚める前からそうだ。確か、副会長が刺された次の日も休んでいたはず。鏡ヶ丘亞璃栖は、一体……




