86話:紅き夜―《蒼き夜》―
俺は、俺の持つ力の全てを《蒼天の覇者の剱》に注ぎ込む。この中に組み込まれている《殺戮の剱》を《全力解放》し、力を全開にしている。剱は、蒼く光を放つ。
「行くぜェ!」
「こ、これは……っ!《死神の鎌》、迎え撃ちなさい!!」
鎌が、宙を舞い、剱と共に、俺に向かって飛んでくる。しかし、
――轟
ゴウと言う音と共に、全て粉砕した。
「そんな馬鹿なことがっ」
悪霊が呆然とする中、俺は、悪霊の元へ駆ける。
「なっ、このまま斬る気ですか、そんなことをしたら、この体は」
「魔を断ち、罪人を殺す。聖を切るものに、罰を与えることに戮力する。それすなわち、殺戮切断」
そう、殺戮切断は、咎人を殺す力。聖なるものに危害は与えない。
――ズシャァア!
そして、切り裂く。――悪霊のみを。蒼い斬撃が、幾十の光となって、陽の沈んだ空を蒼白く染めた。――《蒼き夜》。
「な、そんなヴァ、カ、……な、こと、が」
悪霊は消え去り、亞璃栖だけが残る。
「よっ、と」
倒れる亞璃栖を支える。そして、
「おい、不死鳥。テメェを、《見つけた》ぜ」
俺は、告げた。
「ええ、確かに、見つけられました。妾を、よく見つけることが出来ましたね、蒼刃の子よ」
不死鳥は、言った。
「妾の血を欲しいですか?」
「血の効能を教えろ」
俺は、問う。
「量しだいでは、不老不死になれます。少量飲めば、寿命が二十年程度延びる程度でしょうが、」
「じゃあ、少量でいい」
俺は告げた。
「なんとも、欲のない。いえ、貰うだけ、欲はあると言うことでしょうか」
「どういうことですか、青葉君」
副会長が、俺に問う。
「すみません、副会長。今回の件は、俺の私用でして」
「私用、ですか?」
副会長の問いに答える。
「ええ、この《火の鳥》の血とやらを賭けた対決です」
「青葉君?」
俺の様子から、何かがおかしいと思ったのだろう。
「清二君は、その血が欲しかったの?」
「いえ、最初は貰うつもりはありませんでしたが、今は」
会長の問いに答えた。
「なるほど、目的は、あの娘のためでしたか」
不死鳥は告げた。
「あの娘?」
会長の問い。
「今回、試合の都合上、ある少女の寿命を大幅に削ってしまいました。それを元に戻すつもりですね」
「……」
俺は、答えない。数拍の間を空けて、
「誰があんな奴のために」
とそっぽを向きながらいったのだった。




