85話:紅き夜―ここに顕現するは、《蒼天》の力―
残りは四体もいるのか。俺は、疲れた体を引きずりながら、そんなことを考える。期日まであと一日とちょっと。時間と発熱具合を考えると、少しでも早くしなければ、寿命を大きく削る。ただでさえ、アイツは、体が弱かったのだ。幼い頃から体が弱く、今は普通に暮らしているが、昔は、病弱な少女だった。
「ちょっと、清二君?!」
「すんません、急ぐんで!」
俺は、駆け足で、学校を去ろうとする。それを止めようとする会長。
「ちょっと、待ちなさい!状況の説明を!」
肩を掴まれる。しかし、
「今は、それどころじゃ……」
そこまで言って、俺は、気が付く。背後に何かがいるのを。
「死の風よ!」
悪霊をまとめて刈ろうと風が吹く。そして、三体の悪霊が消え去った。
「な、何なの?」
会長の疑問に答える暇は無かった。刈りきれなかった。一体気配がある。
「どこだ!」
「ここよ……」
突如上から声がする。そして、降り始める《火を纏った羽》。幻影かと思うほど眩い朱色と共に、不死鳥とその背に乗った少女が降り立つ。
「さあ、蒼刃のものよ!妾の最後の試練をはじめよう!」
不死鳥が美しい声で告げた。そして、少女、鏡ヶ丘亞璃栖に乗り移った悪霊が、無数の剱を生み出す。
「|《姫神来光》《プリンセス・オブ・ラクスヴァ》。この体の娘が保有する《力》を拝借させてもらいました」
そして、剱を宙に浮かせながら、一本の鎌を生み出す。その鎌は、まさに死神の鎌と言うに相応しい形状の鎌。
「《古具》、か?」
一瞬の思考。しかし、その間も与えてもらえなかった。
「刈り取りなさい、《死神の鎌》!」
無数に伸びてくる斬撃。
「《聖覇にして殺戮切断の剱》!!」
その斬撃を受け流すが、その強さに、押し飛ばされそうになる。何て力だ……。
「死の風よ!!!」
俺の攻撃。しかし、鎌に粉砕されてしまう。
「その程度の攻撃では、この鎌は砕けませんよ。本気で来なさい」
本気。そこで、聖の言葉が蘇る。蒼き、力……。蒼き力とはなんなのか。いや、その前に、何故、この悪霊だけ、言葉を発する?何かが、何かが引っかかる。一体、何なんだ……
「こないなら、先に、潰します」
鎌が、俺の喉元を狙って伸びる。
「|《死神の鎌》《デス・サイズ》!!」
「《聖覇にして殺戮切断の剱》!!」
ギリギリで受け止めるが、押され、弾き飛ばされる。そして、会長達のほうへ突っ込んでしまった。
「きゃっ!」
副会長がクッションになり、俺に傷は無かった。しかし、副会長に下敷きにされた会長は、重そうにしている。ひょいと避けた篠宮が、俺たちを起こした。
「だ、大丈夫かい、青葉君」
「あ、ああ」
俺は、篠宮の手をとり、立ち上がった。
「副会長、すみませんでした」
「いえ、大丈夫です」
そして、俺は、力が湧いた気がした。
――さあ、お兄ちゃん。戦おう、エリナ姉のために
ああ、そうだな、聖。
「《蒼き力》」
不死鳥が呟いた。それと同時に、
《これは、蒼い力だ。まさしく聖と覇の入り混じる、神の力だ!》
《殺戮の剱》がそう告げた。デュランダルは、青白い発光と共に、形を変形させる。生まれ変わりしデュランダルは、両手剱で、刀身が身長ほどの大きな剱だ。刀身が水晶のように淡く蒼くなっている。そう。これは、
「《蒼天の覇者の剱》!」




