83話:紅き夜―滅びの力と蒼い力―
Scene清二
俺は、重い体を引きずってエリナの家に帰った。
「ただいま」
「お~、おかえり」
はにかむエリナを眺めながら、俺は、世界と意識が隔絶された。
――お兄ちゃん。ねぇ、お兄ちゃん
聖の声がする。自然と頬が緩む。
「聖……」
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、――を知っているの?」
何を知っているかだって?聞き取れなかった。
「私はね、誰よりも、お兄ちゃんを知っている。色んなお兄ちゃんを知っているよ……厳しい、優しい、愛しい、全てのお兄ちゃんを知ってる」
俺の全て?
「さあ、全てを、知ろうよ。お兄ちゃん」
ここは、どこだ?
「ダメよ、これ以上は!私の力は、すべてを滅ぼしちゃう!」
「抑えて!諦めたらダメよ!」
この声、聖と白羅?何で、二人の声が?
「ううん、もうゲームオーバーかな」
聖の周りが歪む。よく見たらここは、俺と白羅が訓練をしていた部屋じゃないか。
「《滅び》を呼ぶ力。この世界を滅ぼす前に、私は、私自身を消し去る!」
聖の声。
「待って、聖!」
聖!
「さあ、《滅びの第六龍人種》の力よ!」
――そして、因果の崩壊が始まるの……
「お、お兄ちゃん?」
聖の目から涙が溢れ出す。
「これは、記憶。お兄ちゃんの、記憶?全ての世界の、私の……」
そして、聖は告げた。
「――嗚呼、お兄ちゃん。ゴメンね……」
――そして、崩壊した因果を調律するために、様々な世界で、私は、死んでしまった。それは、お兄ちゃんがよく知ってるよね?
「聖。お前は、」
――そう、私は蒼刃聖。《滅び》の力を持ちながら、《蒼い力》を持ったお兄ちゃんの妹、だよ。
「《蒼い力》?」
――そう、蒼刃の力。私とお兄ちゃんが受け継いだ、最強の《神の力》だよ。そして、お兄ちゃんもまた、私と同じ、《滅び》の力と、《蒼い力》を……。
そして、意識は、再び彼の世界に戻る。




