7話:特異点
翌朝、教室には入ると、高木が声を掛けてきた。
「おい、青葉、お前、会計になったんだってな」
「相変わらず、情報を手に入れるのが早いな」
流石高木である。この学園で起きたことは、数十分、遅くとも数時間で、こいつの耳に入っている。新聞部部長は伊達じゃない。そう、言い忘れていたが、こいつは、新聞部の部長である。この学園の新聞部は、かなりの情報通の集まりで、学園的なものから個人的なものまで、様々な情報が新聞となって日夜発行されている。
「昨日、生徒会長が来ていたのはそのせいだったんだな。納得いったぜ」
「まあな」
そんなやり取りをしていると、教室に大きな歓声が上がるのが聞こえた。主に女子。何事だと振り向くと、篠宮がいた。なるほど、こいつが原因か。
「やぁ、青葉君」
「よぉ、篠宮」
そんなただの挨拶すら、様になっているのだからイケメンは憎い。
「何か用か?」
「ちょっと、ここじゃ、話しにくいかな」
あ~、つまり、アーティファクト関係の話ってことか。
「んじゃ、ちょっと向こうで話すか?」
「そうだね」
そう言って、俺と篠宮は、教室から出て行く。その際に、後ろのほうで「青葉×篠宮」などと女子が言っていたが、意味が分からないので、無視をする。
「それで、何のようだ?」
俺は、篠宮と階段の踊り場まで来ると、話を切り出した。
「うん、キミを襲ってきた男だけど、今日から生徒会で、見回りをして探すことになったから、その報告かな。あと、まだ何か聞きたいことがあるんじゃないかなって思って」
察しがいいな。聞きたいことがあった。
「報告サンキュ。じゃあついでに聞くぜ。お前ら……いや、今は俺ら、か。俺らは、何で、そんなアーティファクトに対応しようとしているんだ。そもそも、生徒会全員がアーティファクトを持っているっていう時点で、いろいろ怪しいんだが」
俺の疑問に、篠宮は、苦笑いしながら答えてくれた。
「ド直球で、核心をついてくるよね。う~ん、僕ら生徒会は、アーティファクトに対応するための組織として創られたからって言うのじゃ信じられないかい?」
「いや、信じるさ」
そう、信じる。おそらく、この町は、特異点とでも言うべきか。多分だが、
「この町は、アーティファクトを保持している人間が、多く生まれるか、多く開花するかのどちらかなんだろ?」
「そう、古具使いが異様に多いのがこの町の特徴なんだよ。そして、それを押さえるために、創られたのがこの学園。まあ、他の町からの生徒も多いから、この学園には、アーティファクトを持つ人間は、そこまでいないけどね。でも、それでも、他に比べたら多いほうだよ。一つの町に、十人以上いるだけでも。まあ、その学園生の中でも有能そうで、開花している生徒が、生徒会に選ばれるんだ。今年の二年には、アーティファクト開花者があまり見当たらなかったから、会計は空席になってたけどね」
篠宮の言い方は、回りくどいな。それに、何かをはぐらかそうとしているようにも聞こえる。まあ、簡単に言えば、この町には、アーティファクトの使い手が多いから、それに対応するために、この学園と学園の生徒会が創られたということだ。会計がいなかったのは、丁度いい人員がいなかったから。俺は、その丁度いい人員に当てはまってしまったらしい。
「そんな感じか。んで?放課後は、どこに集まればいいんだ?外行くなら校門か?」
「あっ、言い忘れてたね。一回生徒会室に集まってどこ回るか分担するって」
「そうか。ん、そろそろホームルーム始まるな。じゃあ、放課後な」
「うん」
そう言って、俺は、篠宮と別れた。さて、一日、だるい授業をするとしますか。




