78話:紅き夜―悪魔と英雄―
ソロモンの七十二柱。ソロモン王が封印したとされる七十二の悪魔のことをさす言葉だ。アスタロットやシトリー、グレモリーなど有名な悪魔たちが封印されている。バアル・ゼブブ(ベルゼブブと言ったほうが一般的だろう)なんていうのもいる。少し話は逸れるが、七十二柱の封印は、解かれている。ソロモン王がバビロニアにある「バビロンの穴」と呼ばれるとても深い湖に壺に封じて沈めた。のだが、後に人々は、財宝が眠っていると勘違いし、壺の封印を解いてしまったのだ。そして、悪魔たちは地獄へと帰っていった。それが、ソロモンの七十二柱。
フェネクスは、その中で三十七柱に位置する。あの順番を序列とするなら三十七番目の悪魔なのだ。その特徴は、はっきり言って思い出せない。さらっと上辺だけをなぞった知識では、きっかけが無いと思い起こせない。
「天使も悪魔も堕天使も興味なかったしな」
神話は、面白いからそれなりに好きだったが、聖書関係になってくると、そこまで大それた知識は持ち合わせていない。
「そもそも、俺の先祖が、どうしてフェニックスなんてもんと関わったのかがわかんねぇしな」
恩を返すと言われても、まったく心当たりのないお礼を無理やり受け取らされたような愕然とする感覚が俺を襲う。
玄関で音がし、エリナが帰ってきたことが分かった。
「おかえり」
「ただいま~っす」
どうやら、もう、すっかり日は沈んでいたようだ。もう、時計は九時を指していた。
「随分遅かったな」
「ん?まあね」
少し、頬が朱色に染まっている気がする。が、まあいいか。一々気にしていたらコイツと一緒に居るのは、無理だ。
そして、その夜も、俺は、エリナと共に寝た。
「ねえ、セイジン。セイジンは、」
「ん?」
「何と戦っているの?」
いきなりの質問に、俺は、
「戦うってなんだよ。この平和大国日本で」
「でも、戦ってる。昔から。聖も清二も」
声が鋭くなる。俺のことを、聖のことも、そのまま呼び捨てにする。
「聖と俺が?何言ってんだよ」
少なくとも、俺は、古具が目覚めるまで、戦いなんていう「物騒」な概念は無かった。
「清二は、最近。でも聖は、昔から」
「聖が?」
俺の妹が、昔から戦っていた?それは、無い。でも、エリナは昔から、人間性に妙に鋭い。
「なあ、エリナ。もし、俺が、世界を悪から救うための英雄だったら」
「そうだね、セイジンは、英雄っぽいところあるもんね。慢心とか」
誰が、慢心王だっ!我と書いてオレと読むようなことはしない。
「でもさ、本当に。セイジンは、英雄に向いてるわ」
「俺が?」
「そう、セイジンが。なんたってセイジンは、昔から私の英雄だもの」




