75話:紅き夜―始まりを告げる鳥の声―
不死鳥とは、一般的に、再生の鳥として知られ、死すると火の中から再び蘇るとされることがある。よって、《火の鳥》などと呼ばれることもある。姿は大きな鳥。時と場合によっては、鳳凰と混同されるが、あくまで、不死鳥のルーツはエジプトで鳳凰のルーツは中国である。つまり別物、と扱われる。また、朱雀に関しても同様である。
青森から帰ってきてから数日後のことだ。高木が、
「おい、青葉。最近、夜になると、大きな鳥が空を飛んでるらしいぜ」
「鳥?飛行機を見間違えたんじゃ無くてか?」
「おいおい、俺がそんなパチ情報持ってくるかよ」
確かにコイツの情報は確かなものが多いが……
「にわかに信じられん。そんな大きな鳥がいるか?」
「一説によると鳳凰らしい」
鳳凰。霊鳥か。
「別の説だと《火の鳥》らしい」
「《火の鳥》だ?」
俺は、怪訝な顔をしてしまう。つい数日前に、青森で聞いた話を再び聞くことになるなんて思わなかった。
「おい、信じがたいからって、そこまであからさまにするか?普通」
「あ?違ぇよ。ちょっと、最近、《火の鳥》の話を聞いてな」
「マジか、その情報、俺にもくれよ」
いや、あげられるならあげるが、信憑性もないし。
「無理だ」
そして、その夜のことだった。
目の前が朱色に染まる。
「《蒼刃》の血族の者よ」
そして、バサァと羽が広がり、火の粉を纏った朱色の羽が撒かれる。落ちた羽の火の粉は燃え広がらない。不思議な火の粉だ。
「お初にお目にかかります」
綺麗な声だった。とても美しい声。それが、大きな鳥から発せられた。
「妾は、不死なる鳥。不死鳥です」
その鳥の輝き、太陽の如し。その鳥の声、天使の如し。その鳥の姿、火の鳥が如し。まさしく、幻想鳥。
「妾は、主様に恩を返したいのです」
不死鳥は告げた。恩返しをしたいと。
「恩?」
俺の短い問いに不死鳥は、答える。
「主様がご先祖に、妾は大いなる恩恵を与えられました。そのご恩です」
ご先祖。俺の家系の、誰に?だが、その問いをする前に不死鳥は告げる。
「古の言い伝えにより、《蒼刃》の者よ、妾の血を飲むことを許します」
血を飲む?つまり、不老不死になる権利と言うことか?さらに不死鳥の言葉は続く。
「ただし、四日以内に、妾を見つけられなければ、主様の周りの人間が一人、」
一泊空け、冷酷な声が続く。
「死ぬことになるでしょう」
「死ぬ、だと?」
「妾は不老不死を司るもの。死すら招くことが可能なのです」
俺は、不老不死になりたいとは思わない。聖の事故死の件を一生背負う覚悟は無いからだ。だから、断……
「もう、始まります。それでは、ヒントを」
……る暇さえ与えてもらえなかった。
「不死なる鳥は、あくまで、鳥である」
不死なる鳥は、あくまで、鳥?当たり前だろ。
「それでは」
不死鳥は、無数の朱色の羽を撒き散らし、姿のを消す。
こうして、青葉清二の四日間、|《紅き夜》《クリムゾン・ナイト》が始まったのだった。




