54話:第六
Scene 白羅
彼は、本当に熱心な努力家だ。だが、ただの努力では、どうにもならない壁がある。それを私は、どうしようもないくらいに知っている。だけど、彼は、清二は、壁を壊せる。彼の内には、私の呪いとは違う、純粋な力が眠っている。そう、それは、《蒼刃》の運命。宿命。そして、希望。
愛おしき、あの子は、繊細だ。そして、努力家。ただ、私には、見守ることしか出来ない。それが、私にできる最大の奉仕。
「だから、私は、第六――」
そう、第六――は、力を持つ。昔、遭った、私と同じ少年や少女のように。氷や闇、雷を喰べるあの子たちのように、私も氷を喰らい、氷を力の源にする。そう、氷龍の第六――。
改めて言おう。私は、呪われているの。そう、内に秘めし、ドラゴン。氷龍。それは、先天的にずっと一緒に居たもの。私は生まれながらにして呪われていた。世界に生み落ちた瞬間、世界を一つ凍らせた。他の子たちも皆同じだった。龍神に拾われた私を含めた八人は、一人を除いて、皆、生まれ名がらにして、己の世界と言う枷を壊しているのだ。或る娘曰く、「生れ落ちたとき、世界中に雷を落とした」。また、或る娘曰く、「全てを闇に包み、気が付いたら世界は消えていた」。また、ある子曰く、「生れ落ちた瞬間から、そこは、灼熱の大地だった」。また、或る子曰く、「世界は風に包まれ、瓦解した」。また、或る子曰く、「自分以外の時が止まった」。また、ある娘曰く、「全てが死に絶えた」。
こういった、先天的に龍の力を持って生まれる人間を、ある人は、こう呼んだ。――「第六龍人種」――。この話を聞いたとき、では、第五や第四なんかもあるのだろうか、と疑問に思ったが、それが解消することは未だにない。ただ、一つ言えるのは、呪われた私たちは、力を使い、自らを滅ぼすか、力を御し、己の力とするか。拾われた八人で無事に、己のものにしたのは、五人。未だに力を御していない私以外の二人は、死んだ。五人は、それぞれ巣立っていった。
八人の中に、私と同じ氷龍を持つものがいた。彼は、こう言った。
「俺とお前は大差ない。生まれながらにして、世界を殺したか、世界に嫌われたかの違いだけだ。俺は己の内にある氷龍を御してはいない。従えた。でも、お前は、御せる。同じ氷龍の第六だとしても、俺とお前は、別物だ。妹のためにひたすら力を手にした俺と違う。お前は、自分のために、その力を使うようにしろ。いつか、お前をその《銀の世界》から切り離す王子がやってくるだろう。その時、どうするかは、お前が選べ」
彼だけは、特殊だと思っていた。感情を表に出さず、ただ、氷龍を従えた少年。ありえないほど強く、生まれ落ちたときに世界を滅ぼすこともなく。そんな彼が、私がいつか、この世界から切り離されると言ったのだ。信じることしか出来ない。
そして、彼を含めた五人が巣立ってから三年の月日が経ち、現れた王子様。そう、青葉清二。そして、私の予想が間違っていなければ、彼は、あの娘の……。




