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《覇》の古具使い  作者: 桃姫
龍神編
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49話:全てを切る剣

Scene清二

 妙に格好良いことを言ったが、自信はある。何故だか分からないが、今、俺には、何故か、いける気がする。理由は、先ほどまで、負担がかかっていたはずの手首にまったく負担がなくなっていること。

「だとしたら、戦う前に、剱を理解しなさい。貴方の剱は……」

俺の剱。デュランダルについては、分かる。伝承を読み漁っただけあって少しだが。


 ローランの持った剱。そう言われる《デュランダル》だが、元を辿ると、「イーリアス」のトロイア戦争(トロイと言った方が分かりやすいかもしれない。所謂トロイの木馬のトロイである)まで遡る。トロイア戦争時の英雄・へクトールの持っていた剱だ。へクトールは中世において、九大英雄に名を列ねるほどの人物だ。そして、ヘクトールの死後、剱は、様々な人の元を経由し、シャルル王がローランに渡し、ローランが持つに至るとされる。そんなデュランダルの柄には、聖遺物が納められているらしい。「聖バジルの血」(サン・パジールの血)「聖ペテロの歯」(サン・ピエールの歯)「聖ドゥニの毛髪」(サン・ドニの髪)「聖母マリアの衣」(サント・マリアの衣)。これら四つの聖遺物は、神の加護を強く得るための物とされていて、デュランダルは、全てにおいて、最強の切れ味を持つ剱として、名を馳せた。切れ味については、有名な話として、ローランが死に際に、他人の手にデュランダルが渡ることを恐れ、岩に叩きつけて折ろうとするも、岩を切り裂いて折れることは無かったという話がある。それほどまでに良い切れ味の……。ここまで思いついて、不思議に思う。全てを切り裂く《切断の剱》、デュランダル。だとするならば、切れなさ過ぎだと思う。先ほど、白羅が蹴りを入れたときも、指で止めたときも、あの時、切れていてもおかしくない。……切れ味が失われている。それは、俺が、この剱を知りきれていないから?違う。何か、何か重要な鍵があるはずだ。そして、その鍵は、《殺戮の剱》が握っている気がしてならない。


 《殺戮の剱》、デッド・ソード。剱に宿る意思に話を聞いたところ、古に、数多の人を殺した剱。一振りで、死の風を生み、鎌鼬のように、相手の首を切り刎ねる。そんな剱。幾多び戦いで、人の命を奪い続け、終いには、闇の力を宿したと言う。意思曰く、「贋作(レプリカ)」だそうだ。

――レプリカ、か。一体何の?

《贋作は、贋作だ。元を辿れば、聖剱。そう、神の造った七本の剱》

意思は言った。七本の剱?

《その七本も、贋作。この剱は、神とは別のものが造った贋作。二本の贋作だ》

二本の贋作。神の造りし七本の剱。おそらく、カリバーン、エクスカリバー、アスカロン、カーテナ、ガラティーン、アロンダイト、そして、デュランダル。これらの聖剱が七本の剱。そして、それとは別に、この中の七本の内の一つの本物を別の人物(?)が贋作として造った。それが、《殺戮の剱》。そして、七本の聖剱の中で全てを斬ると言う概念を一番顕現しているものが、《殺戮の剱》のモデル。カリバーンは選定、エクスカリバーは聖、アスカロンは龍滅、カーテナは慈悲、ガラティーンは太陽、アロンダイトはもはや魔剱なので除外する、そして、デュランダルは――切断。

《そして、贋作は、中途半端な失敗作だった。神の雷を宿す贋作も、神を貫く贋作も、神の加護を持つ贋作も。四つとも全て、失敗作だった。》

まさか、その、四つの贋作は、――死古具。前に、意思が言っていた、

《剱、斧、鎚、槍の四つの古具だ。それぞれ、最強にして最凶の覇の力を宿すものだ》

と。すなわち、死古具とは。剱は、|《聖剱の贋作》《デュランダル》。斧は、|《聖斧の贋作》《ラブリュス》。鎚は、|《聖鎚の贋作》《ミョルニル》。槍は、《聖槍の贋作》。これらが、古きに、負の感情、闇に飲み込まれたため、《覇》と言う力に目覚めてしまった。だから、人を殺す古具。死古具。また、四つの古具、四古具から、転じて死古具。名の由来は、他にも多々あるらしいが、まあ、簡単に言えば、《殺戮の剱》と《切断の剱》は、同じものだということだ。


 では、何が違って、《聖》と《覇》に分かれた。そこがデュランダルの力を引き出す鍵だと思う。と、なれば、柄の聖遺物ではないだろうか。俺は、デュランダルの柄頭を外した。すると中に入っていたのは、歯(と思われる欠片)と数本の髪だった。どちらも赤黒いこびりつきがある。それが血。では、衣は……?衣が無いから?


そして、《殺戮の剱》の柄頭を外して、現れたのは、一枚の布切れ。それもボロボロ。これは、……聖母マリアの衣か。

「じゃあ、血つきの歯と数本の髪を《殺戮の剱》の中に入れたらどうなるんだ……」

俺は、入れてみた。すると、《殺戮の剱》の輪郭が朧になり、気がついたときには、それは、漆黒の風となり、デュランダルを覆っていた。そして、束の間、発光。

――シャラララァア!

まるで楽器のような綺麗な音色を上げた。


 それは、神々しくも禍々しい。黒色で鏡色。美しく醜い。矛盾の連続。しかし、唯一つ、共通することは、――|《全てを切る剣》《ワールドエンド・ソード》であるということ。名を、|《聖覇にして殺戮切断の剱》《真のデュランダル》。


 出来あがった剱は、最高の剱だった。そして、最強だった。

「切り裂け!」

――ズゥドォオオオン!

一振りするだけで、空間ごと切り裂く。烈風が吹き荒れ、世界にすらダメージを与える。しかし、一撃だけで、剱は、元の二刀に戻ってしまった。

「まだ、安定しないか。もう少し、日数がかかるな」

「でも、凄いわよ。今の一撃は。この、出口をなくした空間の外まで音が聞こえていたかもしれないわ」

それでもまだ、一撃必殺では、躱されたときに終わる。

「まあ、今日は、もう、休んだ方がいいかも知れないわね」

俺の意識は、その言葉を聴いている途中で、薄れていったのだった。


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