28話:因子
「ただいま」
家に帰るなり状況を確認する。玄関、は特に何もないな。何だ?取り越し苦労か?いや、上から、非常にいやな気配がする。階段を駆け上がり、自室のドアを開け、
「おい、アーサー!一体何やってん……」
思わず絶句した。
「おう、お帰り」
にやりと笑う、アーサー。なるほど、こういうことか。
「おい、俺の部屋、どこにやった?」
そう、そこは、完全に俺の部屋ではなくなっていた。母が勝手に用意したであろう家具類。間違いなく女の部屋。
「セイジの部屋は、隣だってよ」
「隣?」
隣は、空き部屋だから、まあ納得できる。とりあえず、隣の部屋に行く。うん、俺の部屋。……?いや、これって、完全に無駄な作業じゃね?こっちの新俺の部屋をアーサーの部屋にすればよかったんじゃね。何だ?何かの伏線か?陰謀か?
「いや~、オレも、お母さんも、工事終わってから気づいたんだよね」
単なるアホだった。ん?つーか、
「お前、もしかして、俺んちに住むつもりか?」
「ええ、まあ、そんなところよ」
急に、女みたいな喋り方になる。逆に気持ち悪い。
「はぁ、疲れた。いや~、男の口調って肩凝るわね」
急に何だ?
「一応、言っておくけど、わたしが女口調のときは、警戒を解いてるってことだから」
なるほど、仕事モードが男口調か。
「それで、貧乳派のセイジは、一体どうして《殺戮の剱》なんていうものを目覚めさせたの?」
「待て、何故、お前が俺の性癖を知ってるんだよ!」
「何故って、部屋の荷物移動させたときにいろいろでてきたし……」
……。ああ、神は、俺を見放した。いや、朝に、こいつに掃除を任せるというやり取りからそうなることを予想しておくべきだった。
「まあ、いい。それで、《殺戮の剱》について話せってことか?それとも、」
「ええ、聞きたいのは、セイジの過去よ」
やっぱり、か。まあ、言い方で予想はついていたが。
「向こうの部屋。誰も使っていないのに、何で、鍵を掛けたまま放置されているの?それが、《殺戮の剱》の」
「あの、部屋は、な。前までは、使われていたんだ。あそこは、聖の、妹の部屋だったんだ。妹は、もう、この世にいない。だけど、あの部屋には、思い出がたくさん詰まっている。だから、だからこそ、鍵を掛けて封をしているんだ」
「そう」
アーサーは、静かに頷いた。事情が分かったからこその頷き。
「そういえば、聖剱ってどんな感じなんだ」
俺は、空気を和らげるために、話を変えた。
「あ~、あんたには、使えないわよ。古具使いが聖剱を使うのは不可能なの。聖剱には、持ち主を選ぶ力があってね、《聖王の剱》や《選定の剣》クラスになると、わたしみたいに選ばれた《因子》を持つもの以外が触ると拒絶されるわ。古具使いが使えないのもそこよ。古具使いは、《因子》を持っていないから」
なるほど。選ばれた《因子》と来たか。なかなかに面白い。




