16話:一時解放
放課後……といえば放課後だが、時間を表す言い方とすれば、夜と言ったほうが適切だろう。太陽は沈み、月と星が、静かに地上を照らしている。そんな時間の学園の校庭に、俺たち、生徒会と粟木が集まっていた。会長曰く、日が沈まないと、アーティファクトが目立つから、だそうだ。
「さて、それじゃあ、《一時解放》をやってみようか」
篠宮の掛け声とともに、粟木が《一時解放》を始める。
「《ファースト・バースト》!!」
粟木の周りの地面から、砂埃が舞い上がる。粟木の周りを円を書くように風が走る。そして、気づいたときには、そこに、粟木は居なかった。
「きゃああああ!止めてくださぁあああい!」
校庭を全力疾走していた。ぐるぐると校庭を回り続ける。なかなかに面白い図だ。世界記録を叩きだせるほどの速度で、先ほどまでいたところから、次の一瞬で、反対側に居る。
「えっと、アレ、どうやって止めるんスか?」
俺の疑問に、会長は、行動で答えた。
「《緋色の衣》!捕らえなさい!」
緋色のコートの裾が、粟木に延びる。そして、粟木が走っている軌道上に待機し、粟木が突っ込んできた瞬間、コートが粟木を捕らえた。どうやら粟木の古具は、靴のようだ。
「や、やっと止まった……」
ふらふらと後ろに倒れこむ粟木。そして、また、靴が勝手に走り出す。
「えっ?……きゃあぁあああ!」
なかなかに面白い格好で走っている。背中を地面にこすり付けたまま、自分を引きずりながら、全力疾走している。都市伝説になるレベルの格好だ。
「ああっ、もう!《緋色の衣》!捕らえなさい!」
再び会長が捕らえる。今度は、放さない。
「発散系の古具を持っている人がいれば、簡単に済むのに」
発散系?おそらく、ものや力を発散させる古具なのだろうが……。
「ふむ」
「ん?清二君?どうかしたの?」
「いえ、発散系の古具を使う人の決め台詞は『ネガティブハートにロ』」
「ストーップ!止めなさい!そもそも、力が溜まるのと、心のタマゴにバツがつくのは関係ないから!」
正確に俺のボケにツッコミを入れてくる。
「今度のは、僕にはさっぱりわからないよ……」
篠宮の呟き。そして、俺が言おうとした、その瞬間、
「きゃあああああああああ!」
再び、粟木の悲鳴が響く。どうやら、会長が、俺とのやり取りのせいで、放してしまったらしい。
「まったく、何やってるんですか……」
副会長は、サイドポニーを揺らしながら呆れ顔をしている。
「はぁ、止めようか……。《緋色の衣》!」
この騒動が解決したのは、実に三時間二十分後だった。




