150話:《第五階層:天女緋衣》
Scene彼方
「天龍寺家を継げ」と叔母上に言われてから、ずっと疑問だったことがある。それは、何故、私だったのかと言うことだ。あたしは、秋世よりも秋文よりも才が無い。この場に居ても場違いな感じすら覚えてしまう。世界が「蒼」に塗り替えられたその瞬間に、あたしの中の「古具」が何かを訴えた。《緋色の衣》、スカーレット・コート。それが今、変革の時を、本来の姿をとろうとしている。それが、感覚的に分かる。もはや、形はコートではない。
|《緋色の天女》《スカーレット・マリア》
コートは羽衣になる。ストールのようにあたしの肩辺りを包むように浮いている。あたしは、今、天女となった。緋色の髪が「蒼」の中に映える。現れた着物は、「十二単」のように折り重なり重いはずの着物。しかし、そのどれもが、羽衣のように軽くて宙に浮くようだ。
これが、あたしの秘められた力。銀朱の時や薔薇色の境界線は、その個々で姿形が変化することの無い言わば完全体。しかし、古具の中には、本来の力が封じられたようなものがある。真琴の《魔王の力》が《魔王の襲来》に成り代わったように。あたしの《緋色の衣》が《緋色の天女》になったように。
あらかじめ完全だったものは、脅威や利便性により力を封じられなかったもの。つまり、そこまで強くない。しかし、力を封じられていたものは違う。その力の強さは、計り知れない。だから封じた。その封じが解けた今、あたしは、叔母上が何故あたしを時期当主に選んだのかが分かった気がした。でも、それは、今はどうでもいい。
今はただ、清二君救うためだけに、力を使いたい。ただ、それだけ……




