141話:《第一階層:蒼天回廊》
夢見櫓。それは、名の通り、夢を見させる櫓。この塔のどこかにあるとされるそれは、ある人物に、夢を見させ続けている。夢の世界に取り込むため、その人物の時は止まる。夢で永遠の時を過ごす。その人を眠らせたのは治療のため。いわばコールドスリープ。そして治療は終わった。だが、この塔の主は、その前に亡くなり、夢見櫓を解くことが出来ず、塔は、この地に封印されてしまった。アリスは、これを解くために、塔が眠ると思われるこの地に来ていたそうだ。アリス・フェルミア・ラクスヴァと言うのが本名らしい。何人だよ。
「ラクスヴァと言うと、ラクスヴァ姫国のラクスヴァなのかしら?」
煉巫の問い。姫国。姫の国。
「あら、紅い娘は、ラクスヴァをご存知?」
「私は、アルノフィア公国出身ですわ。隣国の名前くらいは聞いたことがありますわ」
アルノフィア?聞いたことの無い国だ。
「龍神が言っていたわ。自分に似た存在が、第六龍人種を連れてきたと。あなた、この世界の人間じゃないのね?」
白羅が言う。この世界の人間じゃないということは、因果律を隔てた並行世界の人間と言うことか。やはり存在するのだろうか。
「ええ、私は、三縞に連れられこの世界へ来たものですわ。きっと貴方が必要になるからと。そして来てみれば、清二様と出会えました。これは運命、きっと、清二様が私を必要としていたのですわね」
嗚呼、何か面倒な展開になったのでスルー。
「ですが、《姫神》が自ら出向くとは、まったくもって思いもしませんでしたわ。公務はよろしいので?国も大変ですのに」
姫神?《姫神来光》のことか?
「無駄話はそこまでだな。おい、篠宮、あれに気づいてるか?」
「あれ?」
深紅さんは気づいているようだが、こいつが気づいていないなら他の人も気づいていないだろう。
「ほう、あれに気づいたのか?流石、頭が切れる。いや、索敵範囲が広いって感じだな」
あの言い方、まさかとは思うが、
「深紅さん、あれのこと知っていたんですか」
「いや、嵌ってから思い出した。このフロアは《蒼天回廊》と言ってな」
「霧を起点に、そこから足を踏み入れたものは、《無限回廊》に閉じ込められるってことッスかね?」
俺が言っていたあれとは、霧のことだ。さっきから幾度も霧の壁を通っている。繰り返すこと二十数回。
「コイツは、塔の主の許しがない侵入者を捕らえる罠だ」
まったく面倒くさい罠にかかっちまったもんだ。
「完全に異世界に飛ばす式の罠だからな、どうにも脱出のしようが無い」
そうか。仕方ない。なら、
――トクン
心音が高鳴り、《蒼刻》を発動する。
「おい、何をする気だ?」
「ちょっ、清二君?何事?」
「どうかしましたか?」
「何だ?」
皆が次々に反応するが、俺は聞いていない。力を高め、そして、拳を地面に思いっきり叩きつけた。
――パリィイイン!
そして空間が割れる。
「思い出した。無双も同じことやってたな」
そう深紅さんが呟いたと同時に、目の前に次の階への階段が現れる。




