140話:地獄の塔
Scene清二
塔の前にいる少女、いや、女性に見覚えがあった。頭にティアラをつけて、耳にはピアス、衣服はまるで姫のよう。だが、顔は間違いなく、鏡ヶ丘亞璃栖。
「待っていたわよ、青葉清二君」
「やあ、アリス。お前も来たのか」
俺の言葉にアリスは遠い目をしながら、
「私は、昔の約束を果たしに来ただけだよ。あの塔を破壊し、《夢見櫓》の効果を切る。それが私と無双、雪美との約束」
無双……。どこかで聞いた名前だ。そういえば、深紅さんと紅紗さんがその名前を出していた気がする。
「まさか、そこにいるのは、姫神か?」
車から声がする。いつもの派手な車に乗った深紅さんだった。
「三ちゃん。何で……」
「お前がこんなところにいるなんて、まさか、あの人との約束を?」
ミーちゃんと言う呼び名に戸惑ったが、どうやら深紅さんとアリスは知り合いらしい。
「ああ、三ちゃんにあって気がついたわ。彼方会長は、貴方の姪なのね?そっちの金髪君は、無双の子孫?それに青葉君が《蒼天》の馬鹿の子孫ね?」
俺の先祖だけ馬鹿にしすぎだ。どんな人だったんだよ。
「まあ、《蒼天》の子孫だが、頭が切れる。まるであの人を思い起こすほどに。頭脳明晰でありながら、最強無敵。まさしく生き写しだ」
何だ?俺が無双って人に似ている?
「プッ、ククッ、ヤバイ。似すぎだ。思い出しただけでも笑えてきた。あいつの口癖を」
「口癖?それって、《これで、終わりよ》のこと」
何だ、普通の台詞じゃないか。
「そう、それだ。コイツが、白城をぶったおした時、まんま被ってさ」
え?俺そんなこと言ってたっけ?
「まあ、いいわ。そうね、無双の子孫。貴方には、《琥珀白狐》を貸してあげるわ。そっちの紅い娘は《緋王朱雀》を」
そう言って、アリスはどこからとも無く出した刀を二人に渡す。
「待ってください。それは、天月神社に収められていたはずですが?」
副会長が言う。まさか、辰祓が持っていたという刀なのか?
「ああ、あなた辰祓の娘?大丈夫よ。許可は取ってあるから。副会長の癖にお堅いわね」
アリスは、ブツブツいいながら、鎌を生み出す。
「さて、ここから先は、地獄よ。まあ、本来は天国の塔だったんだけど」
そして、地獄の塔への扉は開かれた。




