129話:神の過去
ここは、一体、どこだろう。城?まるで城のような。
「やあ、無双ちゃん」
青葉君の声がした気がして声の方を見る。そこに居たのは、蒼い髪、スカイブルーの瞳、背中に蒼色の大剣を背負った男。
「あら、久しぶりね、《蒼天》」
無双ちゃんと呼ばれた彼女は、男に返事をする。この無双という人物の声、先ほどの声の主ではなかろうか。その姿は、紫色の髪に紫色の瞳を持つ少女だった。
「よく分かったわね。いまの身体は《帝華》の身体で、この身体に私の意識を出しているだけだったのに」
「あはっ、まあ、キミと僕らはつながってるから」
意識だけ?繋がっている?
「それで、私の娘はどう?」
「どうって、随分と元気がいい子だよ。称号も、キミと同じで『武神』やら『鬼神』やら『神喰い』やら言われてるなあ~。まあ、僕は《魔王》って言うのが一番気に入ったけどな。だから、思わず、取って置きの武装を創ってプレゼントしてあげたよ」
今の言葉が、伝記の言葉と重なる。
――或る日。我、魔王を冠す。武神、鬼神、数多の名を冠してきた我に、魔王と言う名が加わったのである。神の名まで持つと言うのに、今更どうしたことか。しかし、本物の神は、我の称号を大層喜び、我に、四つの武器を造った。《黒炎の剱》《漆黒の鎧》《悪魔の羽》《魔王の角》。これを装備した我は、まさに魔王。
と言うのは、今の言葉の内容とまるっきり同じ。つまり、無双と言う人物の娘こそ魔王で、今目の前にいる《蒼天》と言う男こそ、神だということだ。
「あら、神様が気ままに武器なんて造ってていいの?」
「キミも神なんだから、神らしくしたら?」
キミも神?つまり、この無双と言う人物もまた、神の一端であるということか?
「篠宮から、天辰流篠乃宮神って名づけられたらしいけど、私ももう篠宮の人間じゃないのに」
「ははっ、僕の名前も似たようなものじゃないかい?それに、朱光鶴希狂榧之神の方もかわらないだろ?」
「でも、どうせ、私の子孫は《篠宮》だし、あんたの子孫は《蒼刃》だし、あの娘の子孫も《朱野宮》と名前を変えているのだから、神の一族なんて所詮、忘れていかれる存在なのよ」
篠宮と青葉?僕と青葉君の苗字が神の一族の苗字と同じ?それは、まさか、僕らは、神の末裔だ何て言うありえないことを示しているのだろうか?
「それこそ笑い話だよ、無双ちゃん。キミの篠宮が誰かに忘れ去られるなんてことはこの先未来永劫あるはずないことなんだから。キミの一族は、最も強く優しい一族と称される篠宮さ。最強の速度、最強の力、最強の鋭さ。そして、《絆》の力があるのだから」
ここで僕の目の前は真っ暗になる。そして、再び目を開けたときには、また時の止まった、あの空間だった。




