12話:開花とは
翌日、土曜日。三鷹丘学園は、土曜日は休みだ。しかし、俺は、生徒会の会議のために、生徒会室に呼ばれていた。
「え~っと、会議と言っても特にすることがないので、何か質問」
俺は、挙手した。一つ気になることがあった。
「じゃあ、清二君。聞きたいことは何?」
「えっと、ずっと聞こうと思っていたんですが、古具って、一人の人間が複数所持していることはないんですか?」
それによっては、あの犯人が、《闇色の短剣》以外の力を使える可能性もあるわけだ。
「アーティファクトの複数所持、ね。ありえないことではないけど、歴史上、今までに複数所持していた人間はいないとされているわ。それに、複数所持していたとしても、それが全部開花する可能性は、極めて低いもの」
なるほど。しかし、「開花」か。何度か聞いてはいるが、その開花という現象は、一体、どうやって起こるのだろうか。
「開花って言うのは?」
「う~ん、なんて言えばいいかしら。心に急激な負荷や変化が訪れたときに、内に眠るアーティファクトと反応しあって、アーティファクトが目覚めること、かな」
心に急激な負荷?
「つまりは、トラウマ級の絶望があれば、開花するってことッスか?」
この質問には、篠宮が答える。
「確かに、そう言った事で目覚めるケースも多く存在している。……僕なんかもそうだからね。でも、中には、一度目の絶望で出来たトラウマを再び抉られるようなことがあって目覚めることがあるんだ。勿論、いい方向への心の急激な変化で目覚める例もあるけど」
「いい方向のは少ないのよね」
苦笑いする副会長。
「しかし、古具というからには、俺、てっきり、もっと神話関係の奴ばっかあると思ってましたね」
アーティファクト。それならば、神話、童話、そう言った昔のものの模倣品が多くあるのではないか、何て考えをめぐらせていた。俺の推論を暫し、語ってみる。
「例えば、《緋色の衣》ですけど、あれは、王族が昔から着ているマントに由来しているのかなぁ。なんてことを考えてたんですが……。まあ、王族の緋色のマントは、神話に関係ないんですが」
「ふむぅ~。どうなんだろ。たまたま開花したときに、浮かんだ名前が《緋色の衣》だったんだけど」
「なるほど、名称は、力を手に入れると同時に意識的、いや、感覚的に判るようになっているのか……。いや、もしくは、既に知っているのに、錠を掛けられていて、開花が、それを開く鍵になっているとか……」
俺の無意識の呟きに、篠宮が、返す。
「どちらかというと、後者じゃないかな。ずっと知っていたような、馴染んでいる感覚があるし」
ふむ、なかなか興味深い。しかし、結局神話関係の古具はあるのだろうか。
「それにしても、神話関係の古具、ですか……」
副会長は暫し、考え込む。
「確かに、|《石化の防具》《ゴルゴネイオン・イージス》というものが存在しています。確か神話に基づいていた気がしますが」
「イージス、ゴルゴネイオン。確か、メデューサを倒すときの盾、もしくは防具の名前がアイギス、英語だとイージスですが。ゴルゴネイオンは、アイギスに、メデューサの生首を捧げて出来たもの、だった気がしますね。詳しくはネットで調べればでるでしょうが」
俺の言葉に、副会長は、驚きを隠せないようだった。
「よく知っていますね。青葉君、意外と博識?」
「意外と、は余計です」
「でも、理解力も適応力も知識力も、普通以上ね。ちなみに聞くけど、清二君は、そう言った類の知識を引き出すようなアーティファクト持ってないわよね?」
「持ってないと思いますよ」
「そう……」
会長の疑問に軽く答え、そうして、この質問タイムは終わった。




