113話:密会
パーティーが、終わったあと、とある車にての会話。
紅紗は、言葉を発した。
「それで、うちの家族と貴方のところの家族を集めた理由を教えてくださるかしら?」
車、大きなリムジンの中には、天龍寺紅紗、天龍寺深紅、天龍寺彼方、立原舞子、立原美園が居る。他の家族は、既に帰宅済みだ。
「ここに集まってもらったのは、少し聞きたいことがあったからです」
いつもどおりの丁寧な口調の舞子。
「聞きたいこと?」
怪訝な顔で聞き返す深紅。
「私は、青葉清二と言う人間が大層気に入りました。ですから、貴方達から聞きたいのです。彼について」
稀に見ぬ舞子の笑顔に皆が少し慄く。
「つっても、オレが知ってることなんて、あいつの力くらいだしな」
「力?」
「ああ、アイツは、《蒼天》の家系の人間だよ。そりゃ、間違いねぇ。蒼き力も持っているからな」
深紅の答えに、舞子は、少し眉を顰める。
「蒼き力については自身で把握しているのでしょうか?」
舞子の問いに、深紅は、
「たぶんな。アイツは、なんかの剱を持ってるからな」
それを補足する形で彼方は告げる。
「彼の持っている剱は、《切断の剱》、デュランダルです。そして、古具《殺戮の剱》も」
それは、その剱のことを知らなかった美園以外の全員に驚愕を与える。
「デュランダルと《殺戮の剱》は、交わることで、《聖覇にして殺戮切断の剱》となるそうです」
美園の補足。
「おい、その剱は、オレとやりあったときに使った蒼色の剱か?」
「いえ、違います。説明は受けていませんが、彼は何らかの力を加えることで、《蒼天の覇者の剱》と言う剱に変えることができるようです」
深紅の問いをすぐさま美園が答える。
「私が見たのは、不死鳥の従えた悪霊を倒すときと、叔母様との試験。そして、白城強襲のときだけだけど」
彼方が答えた。
「アイツ固有の力ってのは、蒼き力だったのか」
「つまり、彼は把握しているのですね。そして、《蒼王孔雀》も彼の手にある、間違いありませんか?」
「ああ、間違いない」
そうして、舞子は、今まで見たことの無いような笑顔で、
「やっぱり、彼が欲しいですね。美園、彼と結婚しませんか?」
そう告げた。唖然とする車内で、美園だけが言葉を発する。
「私が、彼に恋をしていても、向こうが好意を持っていないのでしたら婚約するつもりはありませんよ」
美園の発言に彼方が、慌てふためく。おそらく、美園が、自分が好意を持っている人に好意を持っていると知って慌てていただけだろう。
「実は、彼にも同じ質問をしました。すると返ってきた答えは、『お互いが愛し合ってこその恋愛関係だから、向こうに好意が無いなら付き合えない』と言うものでした」
舞子は、少々事実を捻じ曲げているが、それはこの場の誰にも分からない。彼は、「お互いが愛し合っての恋愛関係」と言う部分しか言っていない。そして、それは、あくまで彼が張った予防線であった。「お互いが愛し合っての恋愛関係」と言うことであれば、たとえ向こうが好意を持っていても、自分は好意を持っていないと躱すことが出来た。しかし、舞子の事実を捻じ曲げた言い方は、あっさりそれを無効化した。これを鵜呑みにされたら、彼が美園に好意を持っているということになる。――しかし、それは杞憂に過ぎなかった。
「今、嘘をつきましたね?」
美園が目聡く気づく。
「彼が私に好意を持っていることはありえません。だから、彼はおそらく、『お互い愛し合っていてこその恋愛関係だと思っている。だから、副会長と恋愛関係になることはできない』とでも言ったのでしょう」
概ね正解の内容。
「何で分かったのかしら?」
納得いかないと、舞子は言う。美園や彼方は知らないことだが、舞子の嘘は、かなり分かりにくいといわれていて、多くの人をだましてきた。それをこうもあっさり看破されては、納得いかないのも分かる。
「彼が私に恋愛感情を抱いていないのはよく分かっています。それに彼は鋭い。だから、彼は、私や会長の好意に気づいているはず。そこで、母様の機嫌を損ねることなく、自分への予防線を張る言い方をしたはずです。だから、『お互い愛し合っていてこその恋愛関係だと思っている。だから、副会長と恋愛関係になることはできない』と言うことであれば、たとえ向こうが好意を持っていても、自分は好意を持っていないと躱すことが出来ますからね」
ここにいない話の中心人物である彼の思考をトレースしたかのような物言い。そして、あまりの説得力に皆が黙りこくる。
「はぁ、まったく。本当に清二君が考えそうなことね」
彼方が溜息交じりに呟く。
「ええ、流石は、生徒会会計兼参謀ですね」
二人が笑いあい、そして、最後に、美園は、自分の母に向けて告げた。
「だから、婚約することはありませんよ。向こうが私のことを好きにならない限り、ですが」




