106話:薔薇色の境界線
地面に倒れた少女を見ながら深紅さんが呟く。
「これで分かったろ?テメェは、もう、弱い。そもそもテメェの命は昔に終わってたんだ。オレへ、オレたちへの復讐なんて、もう止めとけ」
「私は、……私はッ!」
少女は、その言葉を聴いても敵意を剥き出しに反抗する。
「なあ、白城。あきらめろ」
しらき……それが少女の名なのだろうか。
「私は、諦めない。全員に必ず復讐するって決めた!」
「でもさ、お前の復讐したい二人は、もう……」
二人?最初に言っていた、残りの二人って奴か?
「それでも、無双さんも、アイツも、とっくに死んでいたとしても!私は、残りの二と四に復讐をしてやる!」
二、四、何を言って……。いや、何かが、心の奥で疼く気がした。
「姉貴、頼む」
「ええ、|《薔薇色の境界線》《ボーダー・ローズ》」
そうして、視界がバラに埋め尽くされた。そして気がつけば、白城と言う少女は、姿を消していた。
「今のは?」
「《薔薇色の境界》。神が愛した薔薇でその生と死を分けたと言う言い伝えから作られた古具よ」
会長の答え。じゃあ、もしかして会長の《緋色の衣》も神の愛用品とかだったりするのか?天女の羽衣から連想した俺だが、あながち間違いではなかったのかもしれない。それにしても、神が夕暮れに、天に帰るのに造った空間転移の力。神が愛した薔薇でその生と死を分けたという力。そして、伸縮自在のコートに、竜の鎧。怪物並みの古具が揃っているな。
《神の力は神の力を呼ぶ。神の血が神の血を呼ぶようにな》
龍神も言っていたな。血と力が云々て、
《また、その二つを呼び寄せるのがお前でもあるということだがな》
つまりは、俺は、血と力を持っているということか?
《違う。お前が持っているのは、血だけだ。決して忘れてはならない。血だけなのだよ》
どういう意味だ?
《それは、殺戮の剱が古具で》
そこまでだった。聞き取れたのは。
「清二君。助かったわ」
会長が話しかけてきて、《殺戮の剱》の意思はひっこんだ。
「いえ、別に。たいしたことはしてないッスから」
「おい、」
深紅さんに呼ばれる。
「悪かったな。実は、今のの対策にお前を呼んでいたんだ。いろいろとすまなかった。明日からは、お前の日常に戻ってくれ」
深紅さんの言葉。分かっていた。
「ええ、俺は、今から、ボディガードを辞職させてもらいますよ。こんなキッツい仕事懲り懲りッス」
それから数時間後、俺は、数えるほどしかない荷物を持って天龍寺家を出た。




